動物裁判
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4部分:第四章
第四章
「あの豚じゃない」
「他の豚なんじゃないか?」
「そうだよな」
観衆達はこう考えだしていた。しかしだ。
ここでまた、であった。検事は言った。
「それではだ」
「それでは?」
「そうだ、その被告のだ」
こう弁護士に対して話す。
「足形を取ろう」
「被告のですか」
「それではっきりする筈だ」
そうするというのである。
「それに異論はないか」
「はい」
弁護士は苦しい顔になった。しかしここは頷くしかなかった。
こうしてだ。被告である豚の足形が取られた。それからであった。
その足形と原告の痣が一致するかどうか調べられた。その結果は。
「完全に同じですね」
「そうだな」
裁判官も検事の指摘に頷く。
「その通りだ」
「ではこの豚はです」
「犯人だな」
ここでだ。このことがはっきりとした。
「原告に傷害行為に及んだ」
「その通りです」
「それではだ」
ここでだ。裁判官は言うのだった。
「被告を有罪とする」
「決まったか」
「あの豚だったか」
「あいつが犯人だったのか」
観衆はその判決に頷く。
「それで刑はどうなるんだ?」
「ああ、それだよな」
「問題はな」
「待って下さい」
ここでだった。再び弁護士が話すのだった。
「ここはです」
「ここは?」
「ここは。何なんだ?」
「被告は原告を殺害してはおりません」
彼が今度弁護するのは刑罰についてであった。
「それにその怪我はやがて消えるものです」
「そうであるというのだな」
「はい、ですからここは」
弁護士は裁判官に対してさらに訴える。
「寛大な処罰を御願いします」
「そうだな」
裁判官は弁護士の言葉を受けてまずは頷いたのだった。そうしてだ。
左右にいる助手達とあれこれ話してだ。そのうえで刑罰を話した。
「被告の尻を三十鞭で叩くものとする」
「百叩きでもないのか」
「それ位か」
「軽いな」
「傷害だとあんなものだろ」
観衆達はその判決にまた話した。
「じゃあこんなものか」
「そうだな、これでな」
「これでいいよな」
「ああ」
こうしてであった。豚はその尻を鞭で三十叩かれ原告である飼い主に引き取られた。これがこの裁判の結末であった。
これは欧州で実際にあった話である。中世の欧州では動物裁判なるものが真剣に行われてきていた。そしてそれによって死刑になった動物もいる。今から見ると滑稽であるが当時は真剣に為されていた。行う方は少なくとも何の遊びも冗談もそこにはなかった。それが動物裁判の話である。
動物裁判 完
2010・9・8
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