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ジェヴォダン

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第四章

「そしてね」
「他にもそうした話があるんですか」
「野獣が家の窓のところに座っていたりね」
「それは人間の仕草ですね」
「人間と言っていいですね」
「そう、人間でなくとも」
 教授は目を鋭くさせて豊に話した。
「類人猿だね」
「サル科のものですね」
「そう、どう見てもね」
「あの、ですが」
 サル科の話が出てだ、豊はすぐに否定する顔で返した。
「欧州に猿は」
「そう、いないね」
「ポーの小説ではオランウータンが犯人でしたが」
 モルグ街の殺人という作品だ、世界最初の推理料説とも言われているエドガー=アラン=ポーの傑作である。
「あれは」
「そうだね、人に飼われていたものだったね」
「はい」
「しかし」
「欧州に猿は」
 首を傾げさせての言葉だった。
「いないですし」
「それにだね」
「飼われたものにしても」
「人を殺せる猿はね」
「訓練された狼以上に」
「欧州では奇異な存在だよ」
 河原崎もこのことを指摘した。
「ましてモルグ街の殺人では確かにオランウータンが犯人だったけれど」
「実際のオランウータンは大人しいです」
 豊はこのことを言った。
「非常に」
「大型の類人猿の多くはね」
「ゴリラにしても」
「しかも当時の欧州でサル科の生物を確保出来る」
「王侯貴族ですね」
「そう、かなり限られた人だよ」
 経済的な条件も加わった、欧州以外の場所から大型の類人猿を持って来させ飼育出来るだけの人物とだ。
「そこに飼い慣らすことも出来る」
「余計にですね」
「有り得ないね」
「そうですね」
「しかも僕は言ったね」
 河原崎はここで話を戻した。
「森の中で毛深い男と会ってね」
「その前後でその森の周辺で野獣が目撃された」
「ではその男の人が」
 豊もはっとしてだ、河原崎に問うた。
「まさか」
「そう思うね、君も」
「あの、しかし」
「いや、考えみるんだ」
 河原崎はその可能性を打ち消そうとする豊にあえて言った。
「野獣は首を切るんだよ」
「人の」
「そう、そして家畜を襲わない」
「女性や子供を集中的に襲う」
 人間のだ。
「これは」
「普通に何かを思わないかい?」
「サイコ殺人鬼、ですか」
 豊は河原崎の目を見つつだ、この存在の名前を出した。
「まさか」
「まさかと思うね」
「はい、そして」
 有り得ない筈だ、だが。 
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