いじめっ子になり
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第一章
いじめっ子になり
いじめられるのは些細な理由からだった。
背が低く体格も貧弱だからだ、宮城祐作は何かと周りからいじめられていた。
それでだ、毎日の様に家に泣いて帰っていた、だがその彼に。
母の千歌は怒ってだ、こう息子に言うのだった。
「いじめられたくなかったら強くなりなさい」
「強く?」
「そうよ、あんたは弱いからいじめられるのよ」
だからだというのだ、怒って。
「だからいじめられたくないのなら」
「強くならないと駄目なんだ」
「あんた自身がね」
「強くなるにはどうなればいいのかな」
「身体を大きくして鍛えることよ」
千歌は具体的にだ、息子に言った。
「牛乳とか何でも一杯食べて。格闘技をやって」
「そうしてなんだ」
「強くなりなさい、強くなったらね」
「僕いじめられないんだね」
「強い子はいじめられないの」
千歌は眉を怒らせて我が子に言う。
「わかったわね」
「そうなんだ」
「そう、強くなることよ」
千歌にしてみればいつも泣いて帰って来る我が子が歯痒くここは突き放したのだ、そして突き放された祐作はというと。
牛乳を水代わりに飲む様になり何でも好き嫌いなく大量に食べる様になった。しかも近所の空手の道場に自分から入り。
必死に稽古をはじめた、道場の稽古がない日は自分で稽古をして毎朝走ってだ。腕立て伏せや腹筋もする様になった。
するとだ、自然と。
彼は背が高くなり体格もよくなった、子供だったので成長は早かった。
しかもだ、強いだけでなく。
「何か宮城ってな」
「最近変わったな」
「背が高くなって体格もよくなっただけじゃなくて」
「体育だってな」
「よくなってきたな」
次にだ、運動神経もよくなったのだ。
「逆上がり出来る様になって」
「縄跳びも後ろ跳びとか交差とか出来る様になって」
「懸垂も出来るし」
「それに足も速くなって」
「前と全然違うじゃない」
このことにだ、皆気付いたのだ。
「前と違うな」
「やっぱり空手やってたから?」
「それであんなに出来る様になったんだ」
「運動神経よくなったのね」
誰もが彼をこれまでとは違った目で見る様になった、しかし。
いじめっ子連中はそれが面白くなかった、それでだ。彼等は彼等の間で顔を顰めさせてそのうえで話した。
「あいつ何かな」
「ああ、最近生意気だな」
「何だよ、急に逆上がりとか出来る様になって」
「懸垂とかな」
「体育五になるらしいぜ」
「あのチビがかよ」
こう話すのだった、下校途中で。
それでだ、彼等の中で一際大きないじめっ子のリーダー格がだ、仲間達に言った。
「あいつ久しぶりにいじめてやろうぜ」
「皆でか」
「俺達全員でか」
「ああ、そうしてやろうぜ」
こう言うのだった。
「明日にでもな」
「ああ、それいいな」
「生意気だしな」
「じゃあな」
「囲んでやってやるか」
それも徹底的にだ、こう話してだ。
実際に全員でだ、下校中の祐作を囲んだ、そのうえで。
人気のない場所に連れ込んだ、そうして言うのだった。
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