老いても
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第四章
「力や素早さではなく」
「力を抜いて」
「そして自然に」
「酔拳の動きで、ですか」
「やればです」
「俺の動きにもですか」
「お兄さん速いですわ」
老人は夏男のスピードは認めた。
「わしよりも。力もあって」
「ですが技は」
「いやいや、それも凄かったですわ」
「じゃあどうして俺は」
「ですから力を抜いて」
老人はまた夏男にこう話した。
「そしてですわ」
「酔拳の動きですか」
「それを自然にすることで」
「俺にも勝ったんですか」
「そうです、それと目を見ることで」
「目、ですか」
「はい、相手の目をよく見ると」
すると、というのだ。
「相手の動きがわかって」
「それで、ですか」
「こちらもどう動けばいいのかわかります」
「成程、相手の目も見て」
「そして攻撃をかわして」
そうしてとだ、老人は自分で立ち上がった夏男にさらに話した。
「こちらからも」
「攻撃を出す」
「その動きはあくまに自然にですわ」
「力、スピードよりも」
「そうしてます」
老人は夏男に飄々とした口調で話した。
「酔拳で」
「酔拳は力を入れないんですね」
「その通りですわ」
「それでご老人は」
「そうです、力やなくて」
そしてスピードでもなくだ。
「あえて力を見て」
「酔ったその動きで」
「お兄さんはお酒は」
「飲みます」
二人で道場を出ている、そうしながら横に並んで話しているのだ。
「ビールが好きです」
「それやったら飲んだ時の感触は」
「身体がふらついて柔らかくなって」
「その動きですか」
「あっ、柔らかさですね」
「歳を取るとどうしても力が弱くなって動きも鈍くなります」
老いることによってだ、どうしてもそうなってしまう。
「体力もなくなって。けれど」
「それでもですね」
「お酒を飲んだ感覚は忘れませんので」
「それでその動きで」
「力を抜いて柔らかく動くんですわ」
「だからあの動きですか」
夏男は先程の稽古のことを思い出した、こちらのパンチは全く当たらず最後は足を払われて終わった。その呆気ない勝負を思い出したのである。
そしてだ、こう言ったのだ。
「酔った様な」
「そうですわ」
「そして相手を見る」
「それも大事で」
「そうしたことをすれば」
ここでだ、夏男もわかったのだった。
「歳を取っても強いんですね」
「あっ、そう言ってくれますか」
「はい、そうじゃないですか?」
「そう言われればそうでっしゃろか」
老人の関西弁、神戸のそれが強く出た。ニュアンスに。
「やっぱり」
「そうですよね、今日は勉強になりました」
「それは何よりですな」
「こういうのって歳じゃないですね」
夏男はしみじみとして言った。
「ボクサーの現役時代は短いですけれど」
「それでもですか」
「頭に入れておきます」
こう老人に言うのだった、そして理髪店の前まで戻ったが。
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