僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。
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聖杯戦争予選
朝、学校に登校すると校門の前で人だかりができていた。何事かと見てみると、一般生徒とは違う黒い制服を着た生徒会メンバーが、登校してきた生徒の服装や持ち物のチェックをしていた。
生徒会メンバーの先頭に立って積極的に持ち物検査をしていたのは眼鏡をかけた見るからに真面目そうな男子生徒。彼は「柳洞一成」といってこの「月海原学園」の生徒会長で僕の数少ない友人……。
「はい。嘘」
気がつけば僕は反射的に自分の考えにツッコミをいれていた。
すると周囲の景色が、朝の学園の校門前からステンドガラスに囲まれた何処かの教会の内部のような場所に変わり、僕はその景色を見て全てを思い出した。
まず僕、平和時行(ひらわときゆき)は月海原学園という学校の生徒ではなく、「霊子ハッカー」と呼ばれる自身の魂をプログラム化してコンピューターにアクセスする能力者、現代の魔術師の一人であること。
次にここは現実の世界ではなく、月に存在すると噂されているホストコンピューターが造り出した電脳世界「SE.RA.PH」の中で、僕はある目的の為にここにアクセスして来たこと。
最後に僕がここにやって来た目的。それがこの電脳世界で行われる戦い「月の聖杯戦争」に参加すること。
『ふむ。随分と早い目覚めのようだな』
僕が何故か一時的に失っていた記憶を確認していると、何処からか男の声が聞こえてきた。
『この月の聖杯戦争に参加した参加者は皆、予選を受ける決まりとなっている。その予選というのは本来の記憶を封印して代わりに仮初めの記憶を与え、その仮初めの記憶に違和感を覚えて本来の記憶を取り戻せば合格というものだ』
なるほどね。僕が記憶を失っていたのはそういう理由か。
『君は今回の予選で一番最初に本来の記憶を取り戻し予選を突破した参加者だ。それどころか予選が始まってわずか三分五十八秒で記憶を取り戻すとは、この聖杯戦争始まって以来の最短記録と言える。……参考までにどうやってそれほど早く記憶を取り戻したか聞いてもいいかな?』
「僕には友人がいない。今まで一度もいない。だからあの生徒会長が友人だという記憶に思わずツッコんで、気づいたらここにいた」
『………!?』
何処からか聞こえてくる声の質問に僕が正直に答えると、声の主が絶句したのが姿が見えなくとも気配で分かった。
『……フッ。フ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!』
声の主は一瞬絶句した後、盛大に笑ってきた。笑いやがった。
『フハハハハハッ! フハハハハハッ! ハハハハハハハハハッ!』
周囲から男の心底面白そうな笑い声が響き渡る。僕に友人がいないのがそんなに面白いのか? コラ?
『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!』
延々と聞こえてくる笑い声。この声の主って凄い肺活量してるな?
……というかそろそろこの声の主に怒ってもいいかな? 僕?
『い、いや失礼をした。まさか予選を最短で突破した理由がそれだとは予想外だったのでな……クッ。本来は予選を突破するにはもう一つの試練を受けてもらわないとならないのだが、最初に記憶を取り戻した功績と先程の……フフッ、興味深い話に免じてそれは免除しよう』
「それはどうも」
予選を突破して月の聖杯戦争に参加する権利を得たのに全然嬉しくない。……というかまだ笑い足りないのか?
『どうやら君は孤独だが自ら孤高を望んでいるわけではないようだな。そんな君に相応しいサーヴァントが一人いる』
声の主がそう言うと、周囲からガラスが崩れる甲高い音が響き渡り、それと同時に目の前が光って光の中に一人の少女が現れる。
少女は僕より頭一つ分くらい背丈が低くて、浅黒い肌をしており、銀色にも見える白髪を頭の左右で縛っていた。服装を見れば裾がとても短い黒い着物を着ていて、愛嬌のある笑顔を僕に向けており、少女の隣には両手に二本の刀を持った骸骨の人形が宙に浮かんでいる。
この少女が僕のサーヴァントか。
サーヴァント。
それはこの電脳世界SE.RA.PHが過去の英雄や偉人達のデータから構築した電子生命体。言わば現代に甦った英雄で、聖杯戦争に参加した参加者はそれぞれ一人ずつこのサーヴァントを与えられる。
霊子ハッカー達はSE.RA.PHに与えられたサーヴァントとチームを組んで、他の霊子ハッカーとサーヴァントのチームと最後の一組になるまで戦い合う。それがこの聖杯戦争のルールだ。
サーヴァントは見かけは普通の人間と同じだが、同じなのは外見だけで、その戦闘能力は通常の人間とは次元が違う。その為に自然と戦いの前線に立って戦うのはサーヴァントの役目となる。
「君が僕のサーヴァント?」
「うん。そうだよ。私は『アヴェンジャー』。これからよろしくね、マスター」
僕が目の前の少女に確認をすると、サーヴァントの少女は可愛らしい笑みを深めて挨拶をしてくれたのだが……アヴェンジャー?
サーヴァントは自身の情報を隠すため、自分の戦闘スタイルによって定められたクラス名を名乗る。
しかし僕が知る限りサーヴァントが名乗るクラス名は「セイバー(剣士)」、「アーチャー(弓兵)」、「ランサー(槍兵)」、「ライダー(騎乗兵)」、「キャスター(魔術師)」、「アサシン(暗殺者)」、「バーサーカー(狂戦士)」の七つだけ……のはず。
アヴェンジャー……「復讐者」のクラス名なんて聞いたことがないぞ?
「ああ、私は例外。いわゆる『エクストラクラス』ってやつなの」
サーヴァントの少女、アヴェンジャーは僕の表情から疑問を感じ取ったようで説明をしてくれた。
「エクストラクラスか……痛っ!」
突然左手に痛みが走ったのでそちらを見ると、左手の甲に三つの勾玉のような紋様が刻まれていた。これは……「令呪」か?
令呪というのはサーヴァントとの契約の証であり、三回限りのサーヴァントに対する絶対命令権だ。……もう少し優しく刻んでほしかったな、令呪。
「令呪も無事刻まれたようだしこれで契約は完了だね」
「そのようだな」
令呪を見て嬉しそうに言うアヴェンジャーに僕は頷いて答える。
こうして僕と復讐者の英霊の聖杯戦争は始まった。……のだが。
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:EX 幸運:E
「ちょっ!? 何このステータス!? 超ピーキーすぎるじゃないか!?」
後で知らされたアヴェンジャーのステータスに僕は思わず叫んだ。
……僕、この聖杯戦争、無事に勝ち残れるのかな?
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