タイヤル族の服
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第五章
「そちらのお酒は」
「そうだな、では飲みに行くか」
「わかりました、ではそのお店を紹介させてもらいますね」
「うむ、頼む」
こうしてだ、柳原は旅館の者にその店を案内してもらった。その居酒屋は旅館から程近い場所にあった。
店の外観は中華の赤であるがそこにまた独特のものがあるタイヤル族の店だった。台北に近いせいか漢民族、満州民族の趣が入っているが。
そこにだ、さらになのだ。
独自のものが加わっている、それがタイヤル族のものだ。彼はその店に入ると。
店の者に迎えてもらったがだ、その者の服はというと。
白い羊のふわふわとした毛が豊かで緑の羽根と赤い刺繍の飾りが付き赤と青と白で縁取りされた帽子を被っていて。
赤い下にズボンを穿いている服だった、赤で黄色の菱形の模様が服の袖とボタンの部分や淵にあしらわれている。
上着は袖があり丈は短く襟がない。胸には緑のものと黄色のものの丸い石を合わせて作った首飾りがある。
足には脚絆がある。その服を見てだ。
柳原は目を丸くさせてだ、こう言った。
「その服は何だ」
「私達の服ですが」
「タイヤル族のか」
「はい、そうです」
その通りだとだ、店の者若い女は彼に微笑んで答えた。
「服です」
「面白い服だな」
「そう言って頂けますか」
「うむ、髪は左右で束ねてか」
「こうして着ています」
「高砂族は裸の者もいるが」
「私達はこうです」
タイヤル族はというのだ。
「この通り」
「そうか、面白い服だな」
ここでだ、柳原は服をあらためて見てだ。女に言った。
「その生地は麻だな」
「はい、自分達で仕立てます」
「そうして着るのか」
「木綿や羊毛のものもあります」
「ふむ、しかし自分から仕立てるとはな」
柳原はこのことにも注目した。
「そしてか」
「織り機を使って」
「そうしてか、成程な」
「お気に召されましたか」
「服はな、しかしだ」
「はい、ここは居酒屋だからですね」
「酒が欲しい」
笑っての言葉だった。
「そうしたいが」
「はい、粟のお酒ですね」
「それだ、頼めるか」
「勿論です、ではこちらに」
「うむ、それではな」
女の言葉に頷いてだ、柳原は案内してもらった席に座ってそこで粟の酒と豚や山菜のつまみを食べてだった。
そしてだ、店の音楽も聞いた。タイヤル族の服を着た女達の琴の曲を聴きつつ粟の酒とつまみを楽しんだ。
気付けばかなり飲んでいてだ、勘定を払って店を後にしてだ。
旅館に戻ってだ、店を紹介してくれた店の者に言った。
「美味い酒だった」
「それは何よりです」
「粟の酒はいいがな」
それに加えてというのだ。
「服もよかった」
「服もですか」
「そうだ、タイヤル族の服もな」
「私達の服もですか」
「赤くていいものだ、動きやすそうだしな」
「はい、実際に動きやすくて麻ですと涼しいですし」
それにというのだ。
「いいものですね」
「そうだな、この旅館ではそうした服にしないか」
「また別の考えなので」
それで、というのだ。
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