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戦国異伝

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第二百十四話 家康の馳走その九

 天下は最早信長のものになることが明らかになってきていた、だが。
 九州と奥羽のかなりの部分はまだ織田家に従っていなかった、特に九州は大友、龍造寺、そして島津の間で激しい戦が続いていた。
 そのうちの一つ島津家の本国薩摩においてだ、当主である島津義久が難しい顔で家臣達にこう言っていた。
 見れば島津の服も冠も橙色だ、その橙一色の中で義久はその確かだが細い眉を持つ精悍な顔で言っていたのだ。
「最早天下はな」
「はい、織田ですな」
「織田家のものとなりますな」
「間もなく」 
 家臣達も義久の言葉に応える。
「本願寺、毛利、武田、上杉、北条と倒し」
「そして遂には伊達も降しました」
「その全てを手中にしましたし」
「最早趨勢は明らかかと」
「天下は織田家のものとなります」
「間違いなく」
「その通りじゃ」
 まさにという義久だった。
「そしてじゃ」
「はい、我が島津はです」
「天下は望んでおりませぬ」
「天下は他の家のもの」
「それでも構いませぬな」
「島津は薩摩にいてこその島津じゃ」
 こうも言う義久だった。
「天下を手中にしてはよく都におらればならぬが」
「我等は都にはです」
「関心があり申しませぬ」
「だからですな」
「都、ひいては天下は」
「別によい、しかしじゃ」
 天下に野心がないことは確かだ、だがそれでもというのだ。
「この九州はじゃ」
「はい、必ずですな」
「我等のものとする」
「この島津の」
「それはですな」
「絶対にですな」
「織田家は数年は動かぬ」
 義久もこう見ていた。
「だからな」
「その数年の間に」
「九州を全て手に入れ」
「そして、ですな」
「そのうえで織田家を迎えるのですな」
「そうじゃ」
 これが義久の考えだった。
「そして織田殿には」
「九州の全てを任せてもらい」
「この九州は完全に我等のものとし」
「そして仕切る」
「そうするのですな」
「九州探題にしてもらおう」
 義久はこの役職も話に出した。
「我等島津がな」
「ですな、では」
「この数年の内にですな」
「九州を全て手に入れ」
「織田殿にそれを認めてもらう」
「そうしますか」
「もっと言えば認めさせる」
 義久は強くも言った。
「織田殿が動く前にじゃ」
「まさにその前に」
「九州を全て手に入れ」
「そのうえで」
「九州探題ですな」
「そういうことじゃ、さて」
 ここまで話してだ、義久は。
 あらためてだ、こう家臣達に言った。
「では弟達を呼べ」
「義弘様、歳久様、家久様をですな」
「あの方々を」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「その様にな」
「まさに又三郎様、又四郎様、又六郎様、又七郎様がですな」
 重臣の一人がこんなことを言い出した。 
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