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ドリトル先生と森の狼達

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第一幕その三

「ダーウィンなんて」
「そうかな、生物学ではいつも出て来る名前だから」
「別に凄いとか思わないの」
「偉大な学者だけれどね」
 名前を出すだけではばかれる様なことはないというのです。
「そうなんだ」
「ううん、そうなの」
「僕はね、あまり権威にもこだわらないし」 
 先生の特徴の一つです、だからどんな人にも公平にかつ穏やかに接することが出来るのです。先生のいいところの一つです。
「ダーウィン先生についてもそうだよ」
「そういうことね」
「そう、だから日本の生きものはね」
 あらためてお話するのでした。
「山で暮らすのに適して小さいんだよ」
「そうなのね」
「だからニホンオオカミも小さくて」
 さらにお話する先生でした。
「人も襲うことは本当にごく稀だったんだ」
「ニホンオオカミも大人しかったんだ」
 今度はチーチーが先生に尋ねました。
「そうだったんだね」
「そうだよ、狼といっても日本人は恐れていなかったしね」
「えっ、狼をなんだ」
「実は狼は人を殆ど襲わないんだ」 
 欧州で広く思われている様ではないというのです、欧州ではそれこそ狼は恐怖と憎悪の象徴なのですが。
「だから犬にもなれたんだよ」
「人と一緒に暮らせるから」
「そうだよ」
 こうジップを見ているチーチーにお話するのでした。
「賢い生きものだしね」
「ううん、それで日本人も怖がっていなかったんだ」
「そう、それにね」
「それに?」
「『おおかみ』と呼ぶけれど」
 今度は呼び方についてでした。
「日本ではね」
「それにも何かあるの?」
「日本の狼の呼び方にも」
「『おおかみ』というそれにも」
「何かあるの?」
「そう、あるんだ」 
 チープサイドの家族に答えるのでした。
「『おおかみ』、即ち『大神』なんだよ」
「あれっ、神様?」
「狼は神様なの?」
「それもかなり大きな」
「そうなの」
「そう、日本では狼は素晴らしい神様だったんだ」 
 そう思われていたというのです。
「畑を荒らす鹿や猪を食べてくれるね」
「ああ、畑を荒らす生きものを退治してくれる」
「有難い存在だったんだ」
「日本では狼は」
「そうだったんだよ」
「欧州とは違うんだね」
「欧州では放牧をしていたね」
 先生は欧州のこのこともお話しました。
「畑作と一緒に」
「うん、そして羊や山羊、牛を放牧したりね」
「牧場もあるね」
 オシツオサレツも言います。
「イギリスでもやってるし」
「それも広くね」
「そうした場合は狼が家畜を襲う」
 狼は肉食です、だから家畜も襲うのです。
「だから欧州では狼は恐れられていたんだ」
「けれど日本では放牧とかしていないから」
「そうした怖がられ方はしていなかったんだね」
「そうだったんだ、むしろ田畑を荒らす害獣を食べてくれる有難い存在だったんだ」
「成程」
「そうだったんだね」
 オシツオサレツは前後の頭で頷きました、そしてです。
 先生は皆とのお話が一段落したところで寂しいお顔にもなって言いました。 
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