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執筆手記

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没ネタその7 リーファのそーどあーとおんらいん2

 第一層迷宮区。


「………………ねぇ、クラディール。街に帰ろうよ」


 困りきったリーファが泣き言を越えたナニかを口から漏らしていた。

 片手剣を杖代わりにするのも疲れたのか、座り込んで体育座りになるとストライキを始めた。


「街に戻りたくないんだがな?」

「でもさぁ、わたし………………もう三日間お風呂に入ってないんだよね」

「一人で帰れば良いじゃないか?」

「こんなデスマーチばっかりやってる人を放置して帰れるわけ無いでしょ?

 ほら、わたしが抜けるだけで効率も落ちるしさ、一緒に街に帰って休日にしよう?」


 リセット時間を向かえリポップし直したモンスターが所狭しと迷宮のフロアに復活する。


「………………わかったよ、今見えてる分を倒したら街に帰ろう」

「――――――ホントに!? 嘘じゃないよね!?」


 目を見開き、パァッとリーファの表情が明るくなった。


「やったー!! 帰れるよ! お風呂だー!!」


 ぴょんぴょんとジャンプしてはしゃぐリーファを尻目に、ソードスキルを発動させてモンスターを切り刻む。


「――――スイッチ」

「…………あ、はい!?」

「さっさと食い尽くして帰るぞ」

「うんッ!!」


 四十分後、フロアを巡回しても敵が沸かなくなったので街に帰る事にした。


「街に帰ったら耐久度を回復させてー、新しいドロップアイテムが売りに出されてないか見て回ってー、楽しみだなー」

「…………………………………………」

「――――どうかしたの?」

「………………ん………………そろそろタイムリミットか」

「タイムリミットって何の?」

「これから一分ごとに意識が強制的に寝落ちする」

「…………え?」

「三日間ろくに休みもせずに起き続けるとこうなるんだ、車の運転をしてたら確実にあの世行だ、車をわき道に止めて寝ないとな」

「ちょっと!? 大丈夫なのッ!?」

「深い眠りに落ちる前に叩き起こせば良いだけだ、あとコーヒーをがぶ飲みするとかな」

「…………本当に大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だ、こんなところで寝落ちしたら街に帰る時間が遅くなる――――ところで、お前はアレが何に見える?」

「え?」


 俺が指差すフロアの先にはボロボロの布が横たわっていた。

 目を凝らしてみれば、人の輪郭をしているようにも見えなくも無い。


「ひ、人が倒れてるッ!?」

「お、やっぱりそう見えるか?」

「何で冷静なのよ!?」

「眠いだけだ、それにこの世界じゃ死んでたら消えてなくなるし、アレは意図的に横になっている筈だ」

「あ――――微かに寝息が聞こえる?」


 よく観察すると呼吸で上下している部分は寝ている人間のソレだ。


「ちょっと此処で待ってろ、俺がザックリと逝かれたら攻撃してくれ、場合によっては逃げろ、好きな方を選べ」

「え? ちょっと待ってよ!? どうしてそうなるのッ!?」

「言っただろ、アレは意図的にああして、あそこで寝ているんだ愉快犯が罠を張っている可能性もある」

「そんな事ないでしょ!? 何か理由があって倒れてるんだよ!」

「まぁ、範囲指定のソードスキルで二人纏めて一閃されても困る、リーファは此処に残っててくれ」

「………………わかったわよ」


 しぶしぶ待機するリーファを放置して、倒れている奴に近付く事にした。




 …………暗い闇の中、誰かがわたしを呼んでいる、起こそうとして揺さぶっている。


「…………じょうぶ? 大丈夫? お姉ちゃん?」


 …………誰かがわたしの前に要る。


「…………え…………あ、おにいちゃん?」

「俺は君のお兄ちゃんじゃないよ?」

「…………え? でも、おにいちゃんはおにいちゃんだよ?」


 …………何を言ってるの? おにいちゃん。


「寝ぼけてるのかな? 早く目を覚ましなよ」


 …………優しく髪が撫でられる…………やっぱりおにいちゃんだよ。

 ――――――――そう、本当のお兄ちゃんじゃなくて、おにいちゃん。


 なつかしいな。

 ………………懐かしい?

 ――――アレ? おにいちゃんはずっと昔に本家で会って、今はもう…………!!!!


「――――目は覚めた?」

「…………うん、おにいちゃん」

「まだ夢の中かな?」

「あ、いや、ちがうの! 覚めた、目は覚めたから!!」


 わたしの目の前に居る子は、小さな子供で、おにいちゃんはわたしよりも年上で、もう何年も会えなくて。


「こんなところで寝てると危ないよ?」

「ねえ、その人、大丈夫だったの?」


 男の子の後ろから来た女の子がわたしの顔色を伺ってくる。


「ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました。わたしなら大丈夫です」

「…………わたし達はこれから街に戻るところですけど、疲れてるのなら一緒に戻りませんか?」


 此処のところモンスターを倒してばかりで街に戻ってなかったし…………どうしようか?


「俺達は水と食料を多めに持って来てるけど、貰っとく?」

「ちょっと、此処で倒れてたんだよ! 何で置いて行こうとするの!? 一緒に街に帰って休ませるべきだよ!」


 ――――それから、わたしは水と食料だけを分けて貰って、少し不思議な関係の二人と別れて狩を続けた。 
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