赤兎馬
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2部分:第二章
第二章
「龍でも乗れるよな」
「ああ、龍でも鳳凰でもな」
「乗れるな」
関羽は切れ長の目で鳳眼である。それも言われていた。
「それこそな」
「それなら赤兎馬もか」
その背に乗せるというのだ。確かに関羽ならば、だった。関羽はその赤兎馬と共に戦場を駆け、だ。多くの敵を倒し勝利を手にしてきた。そして劉備の為に戦っていた。
しかしである。その彼がだ。呉の孫権との戦いに敗れ捕虜となった。そこで彼の下に入るのを拒みそのうえで処刑された。その時赤兎馬も彼のものとなった。
しかしである。赤兎馬は誰もその背に乗せることはなかった。
誰も乗せずだ。ただ厩舎でいるだけだった。誰かが近付けばそれだけで激しく暴れる。それはまるで肉を喰らう獣の様であった。
その赤兎馬の話を聞いてだ。孫権は言うのだった。見事な紫の髭を生やし目は青い。端整というよりは威厳のある顔だ。その彼が話を聞いて言ったのだ。
「そうか、誰とも会おうとしないのか」
「はい」
彼に伝えているのは若々しい端整な美男子である。目の光が強く尚且つ賢明な雰囲気の中にいる。彼の名は陸遜という。今の呉の大都督である。
その彼が孫権に対して話すのだった。主の座にいる彼にだ。
「来ればそれだけで虎の如く暴れます」
「そうか。そして草は」
「草も水もです」
首を横に振っての言葉だ。
「食べようとしませんし飲もうともしません」
「どちらもか」
「はい、このままでは間も無く」
「何とか食べさせよ」
孫権は重厚な声で陸遜に告げた。
「あのまま死なせるには惜しい馬だ」
「はい、ですが」
「ですが?」
「赤兎馬がその背中に乗せることを許す者がいるでしょうか」
陸遜の目が曇っていた。その強い光を放つ目がだ。
「我が国に。この呉に」
「いないというのか」
「かつて董卓、そして呂布を背に乗せ」
こう主に話すのだった。
「そして関羽も乗せてきました」
「誰も天下の英傑だな」
「紛れもなくです」
陸遜の言葉は強い。
「それは」
「だが。我が呉には」
ここでだ。孫権の顔が曇った。それは陸遜にもわかった。
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