エターナルトラベラー
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第四十二話
次の日、魔導師質を持っている俺達はこの部隊のフォワード陣の新人達の朝練に加わる事になった。
「はい注目、今日から事情によりこの訓練に数名加わります。皆知っていると思うけれど一応自己紹介から」
そう言って身を避けて俺達を招き入れるなのはさん。
「諸事情により厄介になることになりました。御神蒼といいます」
まあ以前にも自己紹介はしてあるけれど、様式美ってことで。
「不破穹」
「不破なのはです」
「御神フェイトです」
そんなこんなで訓練開始。
走りこみから基本的な回避訓練。
スバル達が汗だくの泥だらけになっていく中、俺達は呼吸も乱さず涼しい顔で訓練を受けている。
「はぁっはぁっ」
「はぁっ、あんた達はどんな体力…っ…しているのよ…はぁっ」
「にゃ?こんなのウォームアップにも成らないよ?」
「「「「はあ?」」」」
なのはのその言葉に驚愕する四人。
飛んでいたなのはさんから声がかかる。
「それじゃ今日の朝練はここまで」
「「「「ありがとうございました」」」」
「はーい」
終了の合図が意外だったのかなのはが戸惑う。
「え?終わり?あれで?」
「そうみたいだね」
「ええ!?」
まあ、あんなのは母さんのシゴキだと序の口だしね、不完全燃焼もいい所か。
「午後は貴方たちの実力を知るために模擬戦をするからしっかり休んでおいてね」
模擬戦ねぇ。
取り合えず隊舎に戻り昼食。休憩を取って午後。
「それじゃ最初にあなたたちの実力を測るための模擬戦からはじめるよ」
「俺たちからですか?」
「そう、あなた達の実力を見てみないとってはやてちゃんが」
「なるほど」
俺達四人と対峙するなのはさんにフェイトさんの二人。
訓練場の外には新人フォワード陣とヴォルケンリッターの面々。
「相手はわたし達二人がするから」
「バリアジャケットは?」
「勿論着てもらうよ」
「あの2対4でやるんですか?」
「大丈夫。出力リミッターがかかっているとは言え、そう簡単にやられるつもりはないから」
「おにいちゃん。あれってわたし達なめられているのでしょうか?」
「まあ、あちらにしてみたら此方はまだ子供って言うわけなんだろう」
「だけどあそこまで言われると少し悔しいかな」
なにやら舐められた発言になのはとソラがおかんむりだ。
「ソラちゃんも?わたしも少しむっとしているんだ」
「なのは、ソラ、落ち着いて」
フェイトがなだめるも、少しぴりぴりした空気の中摸擬戦が開始する。
「ソル」
「ルナ」
「レイジングハート」
「バルディッシュ」
『『『『スタンバイレディ・セットアップ』』』』
現れる剣十字の魔法陣。
「ベルカ…式?」
驚きの声を上げるなのはさん。
「それにアレは本当にレイジングハートなの?」
なのはの持つ槍型のデバイス、更になのはとフェイトのバリアジャケットの形が自分たちの過去と違う事に驚愕したようだ。
「言ったじゃないですか。このなのはと貴方は別人だって」
「それは、そう聞いていたけれど…」
「だから自分と同じだと思っていると足元すくわれますよ。はっきり言ってなのはは強いですから」
side other
「どう思われます?」
訓練場の外、中の戦いが一望できる所に朝練を終えたフォワード陣とヴォルケンリッターの面々が観戦しているなか、ティアナがシグナムに質問した。
「さて、な。出力リミッターが掛かっているとは言え高町もテスタロッサも歴戦の雄だ、負けることは無いと思うが」
「ですよね」
「だけどあの人達、今日の訓練を息も切らさずに軽々とこなしていましたよ」
と、スバル。
「本当か?」
「ええ。汗一つすらかいていないかのような勢いでした」
「ま、強ぇか弱ぇかはやってみりゃハッキリするだろ。ま、なのは達が負けるとは思えねぇがな」
「ヴィータ副隊長」
「はじまるぞ」
side out
「それじゃ双方準備が整った所で戦闘開始です」
と、この訓練のサポートとして来ていたシャーリーの声で戦闘が開始する。
その声になのはさんは飛び上がり、誘導弾を多数展開、待機状態で此方を警戒する。
逆にフェイトさんは此方に高速で飛びながら近づいてきて接近戦の構えだ。
フェイトさんがバルディッシュを振り上げ、渾身の力で振り下ろす。
しかし振り下ろした先にはすでに俺達はいない。
「ど、何処?」
「フェイトちゃん後ろ!」
なのはさんの声に気づいて振り返った先には既に構えた斧型のルナを振り下ろしているソラ。
すぐさまシールドを張るが…
振り抜かれた勢いを殺しきれずに吹き飛んでいくフェイトさん。
「フェイトちゃん!」
「人の心配してる暇はあるの?」
「な!」
その言葉に振り返るなのはさん。
しかしやはり遅い。
すでになのははレイジングハートを振り下ろしている。
やはり障壁の上から強引に吹き飛ばされるなのはさん。
「きゃあああーーー」
俺と言えば少し離れたビルの上で写輪眼を発動して高見の見物中。
「俺って何かやる事有るのかな?」
「ない…かな」
「フェイト…」
近くに飛行してきたフェイトがそうつっこんだ。
それからの戦いは一方的なものだった。
『アクセルシューター』
「シュート」
なのはさんが反撃とばかりに誘導弾を撃ち出す。
しかし直ぐさまそれを打ち落とすかのように総ての弾をなのはは自身のシューターで正確に相殺させ(とはいってもなのはさんのシューターとは違い誘導性を犠牲にして速度重視にしたものだが)シューターが爆発する一瞬を突いてすぐさまなのはさんの懐に飛び込み一閃。
『徹』は使わずにバリアジャケットを抜かないようにわざと手加減をして吹き飛ばしている。
わざと追わずに空中で停止。
「ディバイーーーーン」
それを見てなのはさんは収束砲のチャージを始めるが。
収束している弾丸にすぐさまなのははシューターを突き刺すと、収束した魔力が爆発。
まあ、足を止めてチャージしている最中なんて狙ってくださいと言っているような物か。
その爆風でなのはさんは吹き飛んだところを正確無比にシューターを一斉射。
何とか持ち直したなのはさんはすぐさまなのはの位置を探ろうとするが、その気配すらつかめずにシューターに翻弄されている。
一方フェイトさんの方は。
「「ハーケンセイバー」」
両者ともサイズから魔力刃を飛ばす。
その刃が衝突し爆発。
「「サンダースマッシャー」」
双方とも中距離射撃を放つがコレも相殺。
『『ブリッツアクション』』
魔法で加速してからの袈裟切り。
しかしコレも鏡合わせのように打ち合わされる。
「はぁっ、はぁっ」
まさか自分と全く同じ魔法、同じ動きで相殺されるとは思わなかったのだろう。
精神的動揺が伺える。
「ありゃりゃ、ソラもなのはも完全に遊んでるね」
「うん」
フェイトが同意する。
その時後ろから凛とした声がかかる。
「ほう、高町達は遊ばれているのか」
振り向いた先にはシグナムが此方に剣を向けていた。
side other
「なのはさんが一方的に攻められている!?」
それは誰の叫びか。
しかしそれは全員が思ったことだ。
「フェイト隊長は辛うじて打ち合っていますね」
スバルが戦いをみてそうもらす。
「いや、そう見えるならお前達はまだまだだな」
「どういう事ですか?」
「見ろ。不破ソラは同じ魔法を同じ威力で同じ軌道にぶつけているんだ、それもわざとな。そんな事は普通出来る物じゃない」
「言われてみれば…」
シグナムの答えに押し黙るスバル。
「二人は不破ソラと不破なのはの相手で手一杯。御神アオと御神フェイトが丸まる余っているな。傍観に徹して戦闘に加わる気は無いようだが、加われば一気に天秤の針は傾くのは必死」
「どうすんだ?」
ヴィータがシグナムに聞いた。
「無論私が行く」
シグナムはレヴァンティンを引き抜くとバリアジャケットを展開して空を駆けた。
side out
シグナムさんに剣先を向けられてる俺とフェイト。
「こんな所で見学ですか?」
自然体で聞き返す俺とは対照的に全身で振り返り、臨戦態勢をとるフェイト。
「この模擬戦は貴様達の戦闘技能の確認だ。高町とテスタロッサがあのふたりで手一杯のようだからな。私が相手をすることにした」
ルール違反では?とは思う。けどまあ、この訓練の意義を考えればね。
チャキっと音がしてシグナムはレヴァンティンを構えなおす。
「仕方ないですね。フェイト!」
「うん」
フェイトが前衛、俺が後衛。
本来なら俺も接近戦の方が得意なのだが、今回はフェイトに戦闘経験を積ませるいい機会だ。
「行くぞ!」
その宣言と同時に距離を詰めてくるシグナム。
「はっ」
俺よりも距離が近いフェイトに狙いを定めてレヴェンティンを振りぬく。
「っ…」
その攻撃をギリギリで避けて手に持ったバルディッシュで水平に薙ぐ。
「はぁっ!」
キィンと金属がぶつかり合う音が響き渡る。
「流石テスタロッサ。なかなかやるなっ」
「くっ!私はテスタロッサじゃ有りません!」
力負けしそうなフェイトが自らデバイスを引いて距離を取り、射撃魔法を発動させる。
『フォトンランランサー』
「ファイア」
着弾するフォトンランサーはシグナムの展開したシールドで受け止められて、粉塵が舞う。
自身が起こした粉塵で視界がさえぎられ、一瞬とは言え眼前を見据え動かずに居るフェイト。
フェイト!足を止めちゃダメだから。
なのはならば足を止めての射撃なんて殆どしないし、着弾するより早く自分は移動して相手の射線上から外れている所だが、フェイトにはまだ分らない感覚か。
「っふ!」
その粉塵を掻き分けてシグナムがフェイトに走る。
フェイトも気がついたが、遅いな。
『アクセルシューター』
ヒュンっと音を立てて俺の展開したシューターがシグナムに迫る。
牽制の為に放ったシューターをシグナムはレヴァンティンで切り伏せる。
その隙に距離を取るフェイト。
「ありがとう」
「いつまでも相手の射線上にいない!動け!」
「はいっ!」
短いアドバイスだけを言って再びシグナムを警戒する。
「いい援護だ」
「それはどうも」
「だが、剣型のアームドデバイスの使い手は珍しい。出来れば斬りあいたいものだ」
俺がご指名ですか!?
だけどその言葉に一番反応したのはフェイトだ。
「私じゃ相手になりませんか?」
「いや、そういう訳ではないが。個人的な趣味だ」
その返答に納得がいかなかったフェイトは攻勢に移る。
「行きます!」
「来い!」
バルディッシュとレヴァンティンが何合も打ち合う。
フェイトの体制が崩れたときに何回か立て直す時間を与えるために牽制のシューターを放つだけで、俺はその二人の戦いを観察する。
フェイトの攻撃はまだま洗練されているといい難い。
ここ一月ほどの特訓で、確かに能力は向上したが、そこはやはりシグナム。相手の方が力量がかなり上だ。
焦るフェイトが無意識にその体をオーラで強化するのが見える。
キィンっ
「む?」
ぶつかったレヴァンティンを不利な体制のフェイトが押し返す。
違和感を感じたシグナムは勢いを殺して飛びのいた。
シグナムが着地するよりも早く地面を蹴って追撃するフェイト。
「はあっ!」
ギィンっ
「くっ…」
いきなりフェイトの速さが上がった事に戸惑いを隠せないシグナム。
しかし慌てずにフェイトの攻撃を捌く。
纏で強化されて肉体から繰り出される剣戟を経験と自身の魔力で捌くシグナムに段々フェイトの攻撃が鋭さを増していく。
俺はまだ教えていないのだがシグナムとの戦闘で爆発的にその技量を挙げていく。
纏で身に纏ったオーラがバルディッシュを包み込む。
『周』だ。
自力で周にたどり着いたフェイトには感心するが、その状態の脅威を分っていない。
その一撃は容易くレヴァンティンを真っ二つにするだろう。
俺は神速を発動すると念で強化した肉体で地面を蹴って二人の攻撃の間に体を滑り込ませる。
『ディフェンサー』
シグナムの攻撃は左手で展開したシールドで、フェイトの攻撃は念で強化したソルの刀身で受け止める。
「ストップ!」
「む?」
「え?」
いきなりの乱入に二人とも困惑したようだ。
『バリアバースト』
展開したシールドを炸裂させてシグナムを弾き飛ばし、その隙に俺はフェイトを抱えてシグナムから距離を取る。
「フェイト。今自分がやったこと分る?」
俺はバルディッシュに視線を移して尋ねる。
「え?あ…えと?」
バルディッシュに目をやり、ようやく気がついたようだ。
ふむ、無意識か。
「後でちゃんと教えてあげるから。それは少し危ないから、まだ使ってはダメだ」
「…はい」
くらっ
フェイトの体がぶれる。
「応用技は特に消費が激しい、少し休んでろ」
「あう…でも」
「後は俺がやるから」
立ちくらみほどの気だるさを感じているだろうフェイトから手を離してシグナムと対峙する。
「御神フェイトの技量が私が記憶している十年前のテスタロッサを凌駕している。それは貴様のお陰と言う事か?」
「そうかもしれません。彼女達(この世界のなのはとフェイト)は誰かに師事された事は?」
「…才能も有っただろう、その努力も惜しまなかった。が、しかし、良い師にはめぐり合わなかったようだ」
ユーノが教えられた魔法も、その行使方法が違うためにほぼ独学に近い。
近接、回避などは自己流と言う事。
「身近に凄い人が居たはずなんだけどね」
士郎さんとか恭也さんとか。
魔法は教えられなくても戦闘は教えられたはずなのだが。
魔導師>古流剣術と言う感じで聞きもしなかったか、士郎さん達も教えなかったか。
確かに普通の剣道程度ならば魔導師に勝つ事は難しいだろう。
しかし、御神流なら周りの状況などでは一変する。
遮蔽物があり、地上戦、近接でなら御神の剣士に軍配が上がるだろう。
それほどまでに修めた剣術と神速がチートくさい。
シューターやバスターなどはかわせるだろうし、バリアジャケットを無視して斬戟威力を内部浸透できるだろう。
何より神速が使える彼らの動きをその目に捉えることは難しい。
そこらの魔導師ならば余裕で勝てそうだ。
シグナムがレヴァンティンを構えなおす。
「では、思う存分打ち合おう!」
「分りました。全力でお相手します」
なのはとソラもそろそろ決着といったところ。
「ありがたい!」
俺の言葉にシグナムが地面を蹴った。
side なのは
『アクセルシューター』
「シューーート」
目の前の未来のわたしが大量のスフィアを展開、わたしを狙って撃ちだした。
「またそれですか。いい加減学習してください」
大量に展開したといっても実際誘導出来るのは幾つほどか。
わたしもスフィアを展開させる。
展開したスフィアはわたしの体の周りに待機させるように密着させて、わたしは未来のわたしに向かって距離を詰めるように飛ぶ。
展開されたシューターがわたしを襲うがお兄ちゃんのように正確無比で高速で飛来するそれに比べると幾分も劣る。
わたしは前に出るようにして回避する。
さっきからこんなのばかり。
シューターとバスターの二つだけ。
実際はどうにか設置型バインドで拘束しようとしているようだけれど、何処に設置しているかバレバレ。
向こうはなんで避けられるのかという顔をしている。
うーん、もしかして設置型バインドの回避方法とか知らないのかな?
と言っても難しいことをしている訳じゃないよ?
要するに『円』の魔力版。
自分の魔力を周囲に拡散させて、ソナーのように魔法が行使された場所を感知。
後はそれを踏まないようにすればいいだけだもの。
何度か接近して斬りつけた感想としては展開されるバリアはとても頑丈。
頑丈なバリアで身を守り、得意の射撃、砲撃魔法でとどめという戦法。
わたしとは正反対。
過ぎ去ったシューターを操り、わたしの死角から狙ったシューターをわたしは見向きもしないで待機させておいたシューターを放って相殺させる。
「何で?」
見えているのか?
わたしの円はまだそんなに広い距離をカバーできない。
だけど今展開している魔力版の円は違う。
レイジングハートの力を借りて100メートルの範囲で展開されたわたしに死角なんて存在しない。
未来の自分だからどれくらい強くなっているのかと思ったけれど…
そろそろ飽きちゃったし、終わらせちゃおうかな。
side out
side フェイト・T・ハラオウン
一体どういう事だろう。
私が出した魔法、剣技を瞬時に真似て同じ軌道で私にぶつけてくる彼女。
名前を不破穹と言う名前の過去から来た次元漂流者。
過去の私やなのはと親しそうに話しているが、私の過去には存在しない人。
聞いた話しでは平行世界から来たらしい。
平行世界。ありえたかも知れない可能性の世界。
対峙する私は相手が過去の私と同じくらいの年齢だからと確かに油断していた所もあった。
けれどそれは直ぐに思い直されることになる。
繰り出したデバイス同士の攻撃が打ち合わされる事は多々あるし、繰り出した射撃魔法を相手の魔法が相殺するのも珍しくない。
だけど、彼女の行うそれはそんな次元の話ではない。
繰り出す攻撃の癖やタイミングまで私と同タイミングで相殺してくるその攻撃に私は驚きを隠せない。
デバイス機能が似通っているのも原因の一つだ。
斧、鎌、そして今使っている大剣と、形態を変えても対応してくる彼女のデバイス。
今使っているザンバーフォームは能力限定されていて出力限界が存在する、言ってしまえばザンバーフォームフォームイミテーション。
しかしその威力はハーケンよりも上だ。
これならと振るったそれすらも軽く返されてしまった。
「はぁっ…はぁっ…」
呼吸が乱れる。
体力や魔力の消費に寄るものではなく、これは目の前の敵の不明瞭さとプレッシャーに寄るもの。
私自身の攻撃技術で私自身を攻撃されている。
私が10年積み重ねてきたものを真っ向から否定されるような怖さを感じる。
それに私は今までに彼女自身の戦い方をその片鱗すら引き出せていない。
全ては鏡写しの様。
瞬時に私の真似を出来るそのカラクリは未だ不明だが、手加減されている事は分る。
認めよう。リミッターがどうのと言う事ではなく、彼女は私よりも強い。
開始時の二人でなんて、どれだけ驕っていた事か。
どう見ても弱者は自分たちで、彼らは圧倒的な強者。
その証拠になのはも簡単にあしらわれているのを横目に確認できる。
今の管理局になのはを超える魔導師は数少ない。
それをいかにもつまらなそうな表情で迎え撃っている小さいなのはの表情が印象的だ。
かくいう目の前の彼女もつまらなそうだが…
弱者が強者に手加減なんておこがましい。
それにどれくらいぶりだろう。
自分より上の者と対峙するのは。
そう思うと体の中が熱くなり、闘志が湧いてくるのを感じる。
「バルディッシュ」
『イミテーション・ライオットザンバー・スティンガー』
バルディッシュが変形して左右一対のブレードに変形する。
シグナムとの度重なる模擬戦のなかで編み出した私のとっておき。
「驚いた、二刀流ですか」
この模擬戦が始まって以来はじめて興味を持たれたようだ。
斧、鎌、大剣と形態変化していたけれど、流石にこの形態は無いだろうしね。
なんて思っていると、その幻想はすぐに打ち消される事になる。
「ルナ」
『ツインセイバーフォーム』
形態変化した彼女のデバイス。
彼女の両手にブレードが握られている。
セイバーと言っていたが、その形態は日本刀のそれだ。
しかし、ようやく彼女の構えが変わった。
その構えをどこかで以前見たことがあるような気がするが、思い出せない。
「はっ」
私は地面を蹴って、今私が出せる最大速度で迫る。
キィン
振るった刃は彼女のそれで止められる。
キィンキィン
刃が打ち合わされる音が響く。
繰り出している私ですら自分の攻撃の軌道が目視できない攻撃を彼女はいとも容易く受け止める。
「…修練不足。自己流の限界」
「何を?」
何を言っているのだろう。
しかし、私の攻撃にまたも彼女の表情はつまらなそうなそれに戻る。
「ただその武器を振っているだけ。そこに重みを感じない。あなたはそれ(デバイス)で生き物を殺した事が無い」
キィン
打ち合っている合間に彼女がそんな事を呟いた。
そんな事がある訳ないじゃないか。
この子は人を傷つけるために生まれてきたんじゃない。
私や、私の大切なものを守るために。
「スタン設定。確かに便利だけど、だからこそ生ぬるい」
キィン
「あっ」
私の腕が大きく弾かれて私の体は隙だらけ。
「まずは自分の力が、その手に持っているものが人殺しの道具だって言う事を認識しよう?」
ゾクゾクゾクっ
いやな悪寒が私の全身を駆け巡る。
彼女が繰り出した刀身が迫る。
あ、ダメ、アレを食らっったら私は死んでしまう。
模擬戦だし、そんな事は無いと分ってはいても、そう錯覚させるだけの殺気がその一撃には込められていた。
side out
side ティアナ
ドゴーーーーン
三つの場所でほぼ同時に激音が鳴り響く。
「うそ…」
「隊長達が」
「負けた?」
「シグナム…」
皆、目の前で起こったことが信じられないようだ。
あたしだってそう。
あたしなんかでは到底敵いそうに無い隊長達をいとも簡単に撃墜するなんて、誰が考える?
「でも、フェイトさん達は魔力リミッターが掛かってますよね」
キャロが本人たちに代わり弁明するように言った。
「キャロ、彼女達が高威力魔法を使ったところを見た?」
「…いいえ」
あたしの質問に少し考えてから答えるキャロ。
「つまりはそういう事よ。彼女達はなのはさん達より戦闘技術が高いって事」
自分で言っておいて信じられない。
若干9歳の彼女らが、管理局のエースを打ち倒すなんて。
それとは別に私は先ほどの試合に若干の違和感を感じている。
先ほどの模擬戦を遠くから見ていても感じる違和感。
例えるならバターナイフとバタフライナイフのような違い。
素人のあたしが言うのもおかしな事だが、不破なのはと不破ソラの攻撃からはとがったナイフのような鋭さを感じるのに対して、隊長達からは感じないと言うか何と言うか。
そんなもやもやを抱えながら模擬戦は終了した。
side out
シグナムを激闘の末、どうにか行動不能に落とし、振り返る。
なのは、ソラも勝ったようだな。
吹き飛ばされて気絶しているなのはさんとフェイトさんの姿を確認する。
なのはとソラがこちらに向かって飛んでくるのも見える。
「どうだった?」
合流したなのはとソラに聞いた。
「未来の自分だからどんなだろうって思ったんだけどね…砲撃主体の砲台。壁役が居れば強いんだろうけれど、一対一には向かないよね。接近戦の心得が嗜み程度しかないから接近されると途端に取れる行動が減ってた。ソラちゃんは?」
「中距離から近距離の遊撃タイプ。近接も射撃もこなすオールラウンダー。だけどいろいろあった武器形態を達人の域で使いこなしているわけじゃないから、器用貧乏の印象。彼女の剣を受けてみたけれど、彼女の剣には長い歴史で研鑚された技は無い。完全な自己流。それゆえにただ振っていると言う印象を受けるよ」
二人ともなかなか厳しいね。
フェイトは自分の事のように今のことを聞いて凹んでいるよ。
その後何とか復帰したなのはさん達がばつの悪い表情で此方に歩み寄ってきた。
戦闘技術は申し分なし。
もしかしたら私たちに教えられる事は無いかもとも言っていた。
その時負けたショックを隠しきれていないのか表情が多少険しかったが…
「午後の訓練はもう終わりにしてアオ君たちはこの世界の常識講座だから、後で連絡するからそれまで隊舎で休んでて」
なのはさんがそう言って俺達に訓練から抜けるように言った。
「分かりました」
まあ、彼女から吸収すべき技術は皆無なので良いんだけどね…
以後、訓練一日目にして俺達には自主練が言い渡される事になる。
午後からの座学。
取り合えずこの世界の一般常識を学ぶ。
地理や経済、宗教についても。
そういったことを学びつつ数日が過ぎる。
後書き
未来フェイトのバルディッシュの形態変形はオリジナル設定?です。
デバイスリミッターを解除しないと確かザンバーとかは使えなかったかと。
それを使いたかったが為の苦肉の策でした。
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