FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
バイバイエドラス
エドラスの妖精の尻尾たちは、空に流れている魔力をただ見ていることしかできない。そんな中、エドルーシィが全員に呼び掛ける。
「みんな!!狼狽えたって何も始まらない!」
妖精の尻尾はエドルーシィの方に視線を移す。
「とにかく王都へ!!この目で確かめるんだ!!」
「確かめるって・・・何を?」
ナツはルーシィに質問する。
「あたしたちの・・・未来をだよ」
「「「「「!!」」」」」
ルーシィはそういうと王都へ向かって走り出す。
妖精の尻尾のメンバーは互いの顔を見合わせたあと、ルーシィのあとを追いかけた。
「混乱している民の前で、この混乱を引き起こした私を処刑するのだ。
王国軍の一人として・・・エクシードの一人として。
混乱を鎮め、皆を導け。魔法のない世界・・・新たな世界の王となるのだ」
「あなたは本気で、そんな戯言を言っておられんのかぁ!!王子!!」
リリーはジェラールに向かって怒鳴る。その様子を、影からナディが額に汗を浮かべながら見ている。
「その覚悟がなければ、こんなことはしない」
「ぐっ!!断る!!バカバカしい!!何で俺が王子を・・・」
リリーは強く手を握りしめる。
「できるわけがない!!」
「君ならできる」
「俺の何を知ってるというのだ!!」
「君はエクシードでありながら、幼かった私の命を救ってくれた。種族に左右されることなく、命の尊さを知っている男だ」
「あなたはその俺に、十字架を背負って生きろと言ってるのだぞ!!」
リリーの声がより一層大きくなる。しかし、ジェラールは臆することなくリリーに話す。
「それを乗り越える強さを含め、君しかいないのだ。わかってくれ。誰かがやらなくてはならないんだ」
「だったら自分でやればいい!!あなたこそ王にふさわしい!!」
「私は世界を滅亡させた」
「世界を思ってのことです!!自分の命をかけてまで、エドラスを想えるあなたの強い意思こそ今!必要なのです!!」
リリーはジェラールに一歩詰め寄る。
「滅亡させたのがあなたなら、あなたが責任をとりなさい!!それは死ぬことではない!!再び、この世界を導くことだ!!」
「それでは、この混乱は鎮まらん」
二人の意見は、一向に変わることなく、平行線を辿っている。
しばらくの沈黙のあと・・・リリーがジェラールに言う。
「俺が・・・悪役になりましょう」
「!!」
リリーの言葉に、ジェラールは驚く。
「俺はエクスタリアを追放され、人間と共に歩んできた。しかし、今回の件で王国を裏切った。もう俺に帰る場所は無い・・・全ての“悪”となり、処刑される役は俺が・・・」
「ならん!!君は私の恩人だ!!死ぬことは許さない!!君は幸せにならなければならない!!」
「では、その言葉、そっくり王子に返しましょう」
「・・・」
ジェラールは無言になる。
二人は互いに助け、助けられてきた者同士・・・どちらも相手に死んでほしくない気持ちは一緒だった。
「誰かが責任をとって死ぬなど・・・不幸しか呼ばぬのです・・・」
「では・・・この混乱をどうやって鎮めれば・・・愚策だったか・・・」
二人は自分たちが何をすべきなのかわからなくなり、押し黙る。
「パンサーリリー様!!大変です!!」
そんな二人の元に、血相を変えた兵士が一人、走ってくる。
「わかっている。アニマの件なら、見ての通り我々が・・・」
「止めようとなさっているのですね」
「いや・・・そうじゃない」
兵士はリリーたちがアニマを止めようとしていると勘違いしている。
「それより、城下で暴れている者たちが・・・街を次々と破壊して・・・」
よほど国民は混乱しているのか、城下で暴れまわる者が出現したらしい。
「予想以上にひどい混乱のようだな。早くなんとかしなくては・・・」
「今は暴徒を止めるのが先です」
「そうだな。これ以上広がる前に手を打とう」
「あの・・・そちらの方は?」
リリーとジェラールは、兵士の質問を無視して街が見えるところへと向かう。
二人は街が一望できる場所に移動すると、そこでは悲鳴をあげる国民と、空へと流れている魔力が見え、二人は驚く。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、兵士たちに話しかける。
「暴徒の数は?」
「四人です!!」
「たった四人だと!?なぜ取り押さえん!!」
「それが・・・ものすごく強くて・・・」
リリーたちが話していると
「ガハハハハハハ!!」
何やら聞き覚えのある笑い声が聞こえてきて、リリーとジェラールはそちらに視線を移す。
「ヌハハハハハ!!我が名は大魔王ドラグニル!!この世界の魔力は、俺様が頂いたぁぁ!!」
そこには黒いマントを羽織、角を頭につけたナツがいた。
「な・・・」
「ナツ・・・」
リリージェラールはまさかの人物に言葉を失う。
すると、ようやく街に到着したエドラスの妖精の尻尾がそれを見てびっくりする。
「何やってるんですか!?僕さん!!」
エドナツがそう言うが、ナツはそれを無視して大笑いを続ける。
「貴様らの王は、俺様が仕留めた!!」
ナツの指差した先にいたのは、木に巻き付けられたエドラス王ファウスト。
「特別命だけは助けてやったがなぁ!、ガハハハハハハ!!」
ナツがそう言う。
「陛下ー!!」
「イヤー!!」
「王様がー!!」
「なんてひどいことを!!」
国民たちは魔王ドラグニルを批難する。
「レッドフォックス!!アデナウアー!!マーベル!!我が下僕たちよ!!街を破壊せよ!!」
魔王ドラグニルがそう指示すると、突如街の建物が崩壊し始める。
「ギッヒヒ」
「なんだあいつは!?」
「腕が剣になってる!!」
「街が!!」
その様子を見ていたエドガジルは、すぐに事態を理解する。
「あれは、この街を滅ぼそうとする大悪人!!それはそれは、悪魔のような連中です!!」
エドガジルは慌てたような顔を作り、国民たちにそう言う。
「どりゃあ!!」
続いてシリルが、 腕から大量の水を出して建物や街灯を凪ぎ払っていく。
「今度はなんだ!?」
「あの女、腕から水を出してるぞ!!」
「俺は男だコラァ!!」
「ぐはっ!!」
シリルは女だと勘違いされたことに腹をたて、誤って国民の一人を殴ってしまう。
「何やってんだおめぇは!!」
「あ!つい・・・うっかり・・・」
シリルはガジルに怒られる。しかし・・・
「奴等は人を傷つけることを躊躇わない奴等なのです!!自分たちの目的のためならば、例え誰であろうと攻撃してきます!!」
エドガジルはシリルが人を殴ったことを利用してさらに国民たちを煽っていく。
「がおーー!!」
「!」
別の場所では、ウェンディが小さな男の子を怖がらせようとしていたが・・・男の子は全く驚くこともなく、どんな反応をすればいいのか困っていた。すると、ウェンディの後ろからガジルが現れ、
ギロッ
「ぴゃーー!!」
ガジルににらまれたことによってビビって逃げていく。
(ごめんなさい・・・)
ウェンディは逃げていった少年に罪悪感を感じて、心の中で謝罪した。
「ご覧なさい!!すべてはあいつらのせいです!!」
「ギッヒヒ」
「ギヒッ」
ガジルとエドガジルは互いにアイコンタクトをとり、フォローをしあう。
「何をしているんだ!!よさないか!!」
ジェラールはナツたちにそう言う。だが、
「もっと街を破壊するんだ!!下僕ども!!」
「下僕下僕うるせーぞ!!コノヤロウ!!」
「いいからやるのじゃ!」
「口調変わっちゃってるじゃないですか・・・」
「イカれてるぜ・・・」
ナツたちは街を破壊するのをやめない。それを見てリリーはようやく、あることに気づく。
(あいつら・・・まさか・・・)
「あいつらが・・・あいつらがエドラスの魔力をうばったのか!!」
「大魔王ドラグニル!!」
「そうです!我々の幸せを奪った張本人です!」
「許さねぇ!」
「魔力を返せ!!」
国民たちは次第に、ナツたちが“悪”ということを認識していく。
「やだね。俺様に逆らう者は全員・・・」
ナツは国民を見下ろしながら炎を口から吹いて見せる。
「ひいい!!」
「な・・・何だあれ!?」
「口から火が・・・」
「ば・・・化け物!!」
それを見た国民はさらなる恐怖に体を震わせる。
「よせーー!!ナツーー!!」
「あ?」
見かねたジェラールはナツを止めようと城から叫ぶ。そして、ナツや国民たち全員は声のした方へと視線を移す。
「今の誰だ!?」
「あそこだ!!」
「城にいるぞ!!」
「誰なんだ!?」
国民たちはジェラールが誰なのかわからず、さらに混乱していく。
「俺様は大魔王ドラグニルだ!」
「バカなマネはよせ!!王は倒れた!!これ以上王都に攻撃など・・・」
「ファイヤー!!」
ジェラールが言い終わる前にナツは国民たちに向かって炎を吐く。
「よせ!!」
なおもジェラールがナツを止めようとすると、ナツはジェラールを見ながら不敵な笑みを浮かべる。
「お前に俺様が止められるかなぁ?エドラスの王子さんよぉ」
「王子!?」
「王子だって!?」
「7年前に行方不明になった・・・ジェラール王子!?」
ナツの言ったことに国民たちは皆驚き、ザワザワとし始める。
「まさか・・・本物なわけないよ」
「ど・・・どうだろう・・・」
「信じられない!!」
しかし、国民たちの中にはジェラールが本物かどうかという声も見受けられる。
「なぜ奴等がここにいるんだ?」
「ぼ・・・ぼきゅが知らせたんだ」
リリーの質問に後ろから答える声がして、リリーとジェラールは振り返る。そこにいたのは、エクスタリア国務大臣のナディ。
「ナディ様!!」
「君たちの君たちの会話、聞いちゃったから・・・でも、これを提案したのはぼきゅじゃないよ」
「誰が考えたのです!?」
ナディは国民たちの中を指さす。そこにはジェラールとリリーの方を笑みを浮かべて見ている男がいる。
「シリル・・・」
そう・・・ジェラールの親友で、妖精の尻尾所属、そして王国軍にも在籍していたエドラスのシリルだった。
少し遡り・・・シリルside
俺たちがエドラス王都に向かって走っていると、俺たちの前をエドラスの俺が駆けていくのが見えた。
「エドシリル!!」
「ん?アースシリル!!ドロマ・アニムを倒したのか!?」
エドシリルは立ち止まって俺たちの方を見る。俺たちはエドシリルに近寄る。
「おい!!何がどうしてこんなことになってんだ!?」
「ガジルさん落ち着いて!!」
ガジルさんがエドシリルの胸ぐらを掴みながら聞く。ウェンディが止めようとしたが、エドシリルは自分でガジルさんの手を払って話す。
「正しくはわからん・・・ただ、おそらくはジェラールがアニマを逆展開させたのでないだろうか?」
「アニマを逆展開!?」
「そうすっとどうなるんだ?」
ナツさんの質問にエドシリルは頭をかきながら答える。
「エドラス全ての魔力を、アースランドに送ることになる。つまり、この世界から魔力がなくなる」
俺たちはエドシリルの言ったことに驚く。すると、今度は王都の方から一人のエクシードが飛んでくる。
「みんなー!!」
「? 誰だ?」
「あれは、私たちをエクスタリアでかばってくれた・・・」
「ナディ・・・だっけ?」
ナディは俺たちの前に血相を変えてやってくる。ナディはなぜか手を振りながら俺たちに話始める。
「た、大変なんだ!!王都でリリーとエドラスの王子がアニマを逆展開させて・・・」
「やはりな・・・ただ、どうやって事態を収拾するつもりだ?こんな状況じゃ、住民は皆落ち着いて話を聞くこともできんだろう」
エドシリルの言う通りだよ・・・魔力を消したら、国民たちはみんな混乱してしまうに決まってる。ジェラールだってそんなことぐらいわかっているはずなのに・・・
「実は、二人は“悪役”と“英雄”というのを使って、民をまとめようとしてるんだよ!」
「悪役と英雄?」
俺がおうむ返しすると、ナディはうなずく。
「魔力を奪った悪を、国民たちの前で英雄が処刑するんだ!!そして・・・その英雄がこの世界の王になるんだって!!
それで・・・悪役を王子がやって、英雄をリリーがやろうとしてるんだけど・・・」
俺たちはそれを聞いて固まってしまう。処刑?つまり、ジェラールが死ぬってこと?
「そんなのダメだ!!」
「そうよ!!ジェラールが・・・死んじゃうなんて・・・」
「ミストガンのやろう・・・初めっからそのつもりだったのか!?」
「誰かが死ぬなんて・・・んなの作戦でもなんでもねぇだろ!!」
「ジェラールにしては、どうしようもない愚策を思い付いたものだな」
俺たちは全員その作戦に納得できない。だけど・・・だからと言って俺たちに何か策があるのか・・・あ!!
「エドシリル!!お前なら何か作戦が思いつくんじゃ・・・」
「バカが。んな簡単に思い付くわけ・・・」
「あるぞ」
「「「「あるんかい(ですか)!!」」」」
思わず突っ込んでしまう俺たち。だったら最初からそれを言え!!
「どうすりゃいいんだ!!」
「私たちにも何かできますか!?」
ナツさんとウェンディがエドシリルに詰め寄る。
「むしろ・・・君たちにしかできないのだよ。だから俺はこの作戦が使えなかったのだ」
俺たちにしかできない?どういうことだ?
「やってくれるのか?」
「ああ!!」
「はい!!」
「もちろん!!」
「ギヒッ!!」
俺たちはエドシリルの言葉にうなずく。
「恩にきる。それで・・・作戦なんだが」
エドシリルの作戦はこう、まずは俺たちが王都で暴れること、そしてジェラールに倒されること。それを、ある一定の時間でやってほしいということだった。
しかし、エドシリルはあれが起こるおおよその時間も計算してるとは・・・俺も同じシリルとして、これぐらい頭の回るようになりたいな。
現在・・・
「来いよ。来ねぇとこの街を、跡形もなく消してやる」
ナツさんがジェラールを脅すようにいう。あの人だと・・・本気で言ってそうで怖いな。
(悪役と英雄・・・しかし・・・)
「魔戦舞台はどうしたんだよ」
「このままじゃ王様が殺されちゃう」
「あの王子とか言われてる奴、本物か?」
「どっちにせよ、あんな化け物倒せんのかよ!?」
(皆はまだ王子を信用していない)
リリーは心の中でそう思う。国民たちはみんな口々に言う。当然だよね。だってそのくらいの恐怖の中に現れた英雄じゃないと、意味がないもん。
「ナツ!!そこを動くな!!」
ジェラールは城から飛び降りてナツさんの方へと走り出す。
「ナツではない。大魔王ドラグニルだ」
ナツさんはそれを、腕を組んで待ち構える。
(茶番で王子を英雄に仕立てるつもりがろうが・・・倒れたフリなど、バレた暁には・・・取り返しがつかんぞ・・・シリル、貴様は一体何を考えている!?)
リリーはエドシリルを睨むように見ている。当のエドシリルはどこ吹く風だけど・・・
「き・・・君も覚悟しておいた方がいいよ。これからぼきゅたちに起こる・・・出来事を・・・」
ナディは体を震わせながら、リリーにそう言った。
ジェラールは国民たちの間の道を通り、ナツさんの元へと急ぐ。
「あれが王子だ!!あの魔王とかいう奴と戦うつもりなのか!?相手は火を吹く怪物だぞ!?」
「一体王子はどうやってあの魔王を倒すつもりなんだ!!」
エドガジルさんとエドシリルが二人でそう叫び、王子の存在、それと、魔王の強さを国民に印象付ける。
ジェラールはそんなシリルを横目で見る。
(バカ者め・・・お前ならもっとまともな手段を考えると思っていたが・・・だが、倒れたフリで一体どうやってこの状況を収拾するつもりなのだ!?)
ジェラールが近づいてきたのを見て、ナツさんは歯をむき出しにして笑う。城にいる者も、国民たちも、そして俺たちもこれから起こることを見届けるために、目を凝らして二人の方に視線を向ける。
「眠れ!!」
ジェラールはナツさんを眠らせようと杖を向けたが・・・その杖から出てきた魔力は、無情にもアニマに吸い込まれた。
(魔力が・・・アニマに・・・)
「どうした?魔力がねぇと怖ぇか?」
「くっ」
ジェラールは図星をつかれたのか、表情を歪ませる。
「そうだよなぁ!!魔法は・・・力だ!!」
ナツさんは自分の乗っている建物に火竜の鉄拳をして、建物を木っ端微塵にする。
「きゃー!!」
「何だ、この破壊力は!?」
「これが魔法の力なのか!?」
「やめろぉー!!」
国民はあまりの力にさらなる恐怖を感じている。
「ナツさん!!やりすぎですよ!!」
「いや、ウェンディ。これでいいんだよ」
「そう、これで強大な魔力を持つ“悪”に、魔力を持たない“英雄”が立ち向かう構図になるんだ」
慌てるウェンディに対して、俺とガジルさんがそう言う。まぁ、きっとあとで建物を直すのは大変だと思うけどね。
煙が晴れると、ジェラールとナツさんは互いを向き合っていた。
「もうよせ、ナツ。私は英雄にはなれないし、お前も倒れたフリなど、この群衆には通じんぞ」
ジェラールはナツさんにそう言うが・・・
「勝負だ!!」
「ぐ!!」
ナツさんはそんなの関係なしにジェラールの頬を殴る。殴られたジェラールは、背中から倒れる。
「王子!!」
「なんて狂暴な奴なんだ!!」
「茶番だ!!こんなことで民を一つになど・・・できるものかー!!」
ジェラールは起き上がってナツさんに拳をつき出すが、ナツさんはそれを片手で受け止める。
「本気で来いよ」
「ぬぉぉっ!!」
「ふがっ!!」
ジェラールは体を半回転させ、ナツさんに回し蹴りを入れる。
「オオッ!!」
「いいぞ王子!!」
「やっつけてー!!」
「お願い!!頑張って!!」
国民たちはジェラールがナツさんに一矢報いたことで大いに盛り上がっている。
「ギャラリーも乗ってきたぞ!!」
ナツさんはフラフラと立ち上がり、ジェラールを見据える。
「バカモノ!!やらせなんだから、今ので倒れておけ!!」
「やなこった!!」
「うおっ!!」
ナツさんは今度はジェラールの腹に拳を叩き込む。
「王子ー!!」
「イヤー!!」
「このやろう、王子に・・・」
国民たちは悲鳴をあげるが、ジェラールはすぐにナツさんに反撃し、二人は殴り合いを始める。
それを見て、次第に国民たちは王子コールを始める。
「これは俺流の、妖精の尻尾壮行会だ」
「!!」
ナツさんはジェラールにしか聞こえない声でそう言う。俺たち滅竜魔導士組は、その微かな声を耳を澄ませて聞く。
「妖精の尻尾を抜ける者には、三つの掟を伝えなきゃならねぇ」
ナツさんは一度距離を取り、勢いをつけてジェラールに殴りかかる。
「一つ!!妖精の尻尾の不利益になる情報は生涯、他言してはならない!!二つ!!ごはっ!!」
ナツさんはジェラールに思いっきり顔をパンチされた。
「・・・なんだっけ?」
まさか今の衝撃で何言うか忘れたんですか!?
「過去の依頼者にみだりに接触し、個人的な利益を生んではならない」
「そうそう!三つ!!」
ナツさんはジェラールを殴り、二人の動きが止まる。
「たとえ道は違えど、強く生きなければならない!決して自らの命を小さなものとして見てはならない。愛した友のことを」
「生涯忘れてはならない・・・」
二人の拳が、互いの顔面を捉える。みんな、その様子を息を飲んで見守る。
「届いたか?」
二人は互いに倒れそうになる。
「ギルドの精神があれば、できねぇことなんかねぇ!!」
そういってナツさんは倒れ、ジェラールは踏みとどまる。
「また会えるといいな。ミストガン」
「ナツ・・・」
魔王が王子に倒されたのを見て、国民はみんな歓声をあげる。
「王子が勝ったぞー!!」
「やったー!!」
「スゲー!!」
「王子ー!!」
「ステキー!!」
エドラスの妖精の尻尾は、少し複雑そうな顔をしている。
エドガジルさんは、その場から離れ、俺たちに背を向けながら手を振る。ガジルさんはそれを見て、「ギヒッ」と笑った。
そして、エドシリルもそれを見て、微笑む。
「さぁ、時間だ」
エドシリルが小さく呟くと、ナツの体が突然光り始める。
「お前・・・体が・・・」
それと同時に、俺たちの体も光り出す。
「始まった」
「さーて、ハデに苦しんでるか」
「そうですね!ん?」
すると、俺たちの方にエドシリルが歩み寄ってくる。
「ありがとう。助かったよ」
「いいんだよ。俺も、お前にギルドのみんなを助けてもらったからな」
俺とエドシリルはニッと笑う。だが、エドシリルはすぐに真剣な顔に戻ってしまう。
「ところで・・・お前はいつそっちのウェンディにコクるのだ?」
「!?」
まさかの質問に俺はウェンディの方を見るが、ガジルさんが気を効かせてくれたのか、二人は少し離れたところにいる。
「べ・・・別に関係ないじゃん!!」
「まぁな。だが、俺は恩人であるお前らにも、幸せになってほしいのだよ。それに、魔法があるお前らの世界では、いつ何が起こるかわからん。
明日死ぬかもしれんし、突然恋のライバルが現れるやも知れん。そうなってから、後悔しては遅いのだよ。
だから・・・早めに結果を恐れず、お前の想いを伝えるのだ」
俺はエドシリルにそういわれ、納得する。確かに、ウェンディに恋人ができてからとか、俺やウェンディが死んじゃってから後悔したって遅いもんな・・・
俺は顔を上げて、エドシリルを見る。
「ありがとう。近いうちに、俺の想いをウェンディに伝えるよ」
「そうしろ」
俺たちの話が終わったのを見計らってか、俺の体が浮き始める。
「じゃあな!!」
「ああ!!」
「「ウェンディを大切にな!!」」
俺はエドシリルに手を振った。
「シリル!!」
「ウェンディ!!」
俺がアニマに吸い寄せられ始めると、ウェンディと合流する。
「じゃあ、苦しんでるフリ、しよう!!」
「だな」
「ぐわああああ!!」
「きゃああああ!!」
「うあああああ!!」
「ぎゃああああ!!」
ナツさん、ウェンディ、ガジルさん、そして俺はアニマに苦しみながら吸い寄せられていく。
(ま・・・まさか人間までも吸い込むとは・・・シリルは初めから分かっててナツたちを・・・)
ジェラールは空に流される四人を見てそう思う。
「おおお!!」
「魔王が空に流されていく!!」
「王子が私たちを救ってくれたぁー!!」
「王子!!」
「バンザーイ!!」
国民たちはみんな大喜びしている。うまくいってよかった。
「王子!!」
ジェラールを呼ぶ声がして、そちらを見るとそこにはリリーがいた。よく見ると、ルーシィさんやグレイさんたちもいる。
「変化に素早く順応する必要なんてありません。もっとゆっくりでいいのです。歩くような速さでも、人はその一歩を踏み出せる。
未来へと向かっていけるのです」
「ああ・・・」
二人は互いにしか聞こえない声でそう言う。
「ばいばいエドルーシィ!!もう一つの妖精の尻尾!!」
「おーい!!頑張れよー俺!!じゃなくてお前!!」
「うん!!僕さん!!じゃなくて君もね!!」
「二人で何混乱してんだよ」
そう言うエドナツさんとエドルーシィさんの目には、涙が溜まっている。
「バイバイ!!お姫様!!」
「じゃあね!!エドラスの私!!」
「元気でね!!アースランドの私!!」
ココさんがルーシィさんに手を振り、ウェンディも互いに手を振り合う。
「みんなぁまたね~!!」
「次は楽しく遊ぼうね~!!」
「何言ってんの。もう会えないのよ、二度と」
ハッピーとセシリーはシャルルにそういわれ、驚く。
「うわぁーん!!バイバ~イ!!」
「元気でね~!!」
「だらしないわね。泣くんじゃないわよ」
そう言うシャルルも、涙を流している。
「さようなら、王子」
「さようなら、リリー」
リリーとジェラールはそう呟く。
「ジェラール!!」
「シリル・・・」
俺はジェラールに向かって手を振る。
「今までありがとう!!」
「ああ・・・」
ジェラールは、涙をぐっと噛ましめている。
「シリル・・・ナツ・・・ガジル・・・ウェンディ・・・そして、我が家族、妖精の尻尾)
俺たちはその後のエドラスは知らない・・・だけど・・・きっとジェラールたちなら、うまくやっているだろう。
第三者side
ジェラールは建物の上に登り、杖を高々と掲げる。
「魔王ドラグニルは、この私が倒したぞ!!魔力など無くても、我々人間は、生きていける!!」
「「「「「オオオオオオオッ!!」」」」」
後書き
いかがだったでしょうか。
最後のエドシリルとの会話は、後々のストーリーに繋げていきます。
次回もよろしくお願いします。
ページ上へ戻る