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ロード・オブ・白御前

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踏み外した歴史編
  第4話 仲良しと仲直り


 戒斗は紘汰と物別れして湊ともども離脱。紘汰と光実は舞を迎えにガレージに行って不在。

 現在“ドルーパーズ”にいるメンバーは、巴と碧沙。初瀬。裕也。城乃内と凰蓮。ザック。店長の阪東と、厚意で残って手伝ってくれている晶の9名である。

「碧沙」
「なあに、巴」
「手、出して」

 正面に座る碧沙は、笑って両手の平を巴に向けた。
 巴は碧沙の手の平に自分の手の平を重ねた。

「どうしたの? 甘えたさんね」
「ちゃんと碧沙だなあって。あの時がんばってよかったなあって」
「そうね。巴がいなくちゃ、わたし、わたしじゃなくなってたんだものね。改めて。ありがとう。巴」
「もっと……褒めて?」
「はいはい」

 碧沙は苦笑して、身を乗り出して巴の頭を撫でてくれた。くすぐったくて心地よかった。







 ――そんな少女二人の睦み合いを面白くない気分で眺めているのが、カウンター席に並んで座る初瀬と城乃内である。

「ねえ初瀬ちゃん。巴ちゃん、ばっちし碧沙ちゃんに奪われちゃってるよ。いいの?」
「よくねえよ。んでもその辺、無理にでも納得しねえと、トモに付き合うなんてやってけねえんだよ」
「悟ってるね~」
「それなりの付き合いだからな」

 初瀬は仏頂面をして片手で頬杖を突き。城乃内は腕組みして指を絶え間なく叩き。
 どちらとも互いを見ようとしていない。

 ――実を言うと、初瀬も城乃内もただ緊張しているだけなのだが、特に城乃内のほうに「前科」があるので、気まずくて目を合わせられないでいるというのが現状なのだ。


「ミッチと角居に聞いたんだけどさ。戦ったんだって? オーバーロードの王様と」
「ああ、まあな」
「にしては怪我とか大したことないよね」
「瀕死になるまで食い下がったっつーの! どこからだその誤情報!」
「そん時の初瀬ちゃん、ゲネシスドライバーじゃん! 俺なんか、ふっつーの戦極ドライバーとふっつーのロックシードでインベス何百体と戦ったし!」
「もぉ! みっともない真似はおやめなさい!」

 凰蓮が城乃内と初瀬の頭に平等に拳骨を落とした。

「いって~っ」
「何で俺まで……っ」
「大丈夫ですか、亮二さん!」

 巴がボックス席を立って初瀬に駆け寄り、頭を撫でた。瘤にはなっていないから大丈夫だと思うが。

 巴は安堵らしき溜息をついて、それから凰蓮を睨みつけた。

「そんな生意気な目で見てもちっとも怖くなくてよ。Femme japonaise gracieuse(大 和 撫 子)?」
「あなた、キライです」
「こーら」

 初瀬は巴にデコピンを食らわせた。久々だ。

「他人に向かって簡単にキライとか言うな。変に捻った悪口言うよりこじれることもあるんだぞ」
「だって」
「俺なら平気だから。な?」
「はい……失礼しました。凰蓮さん」
「よろしい。礼儀はわきまえてるようね。嫌いじゃないわよ、そういう子」

 巴はそそそ、と初瀬の後ろに隠れた。こういう所を可愛いと思って優越感を覚える辺り、自分も相当だと初瀬は思った。

 それと同時、ドルーパーズのドアが開いた。





 ――もう一人の少女は少女で、大切な人との再会を果たしていた。

「おかえりなさ――貴虎兄さん!?」

 碧沙は長い髪を振り乱して一直線に、紘汰の後ろにいた貴虎の胸へ飛び込んだ。貴虎は軽くよろめきつつ、碧沙を受け止めた。

「碧沙?」
「知ってたわ。ずっとそばで守ってくれたね。ありがとう。兄さん」
「お前……覚えているのか?」
「ええ。ぼんやりとだけど」
「そうか……」

 貴虎は手を碧沙の頬に当てた。

「ともかく、お前だけでも元気で戻ってきてくれて、よかった」

 碧沙は極上の笑顔で貴虎の手に頭を預けた。





 喜びを浮かべる貴虎とは反対に、紘汰は悔しさとも悲しみともつかない感情でいっぱいいっぱいだった。

「どした? 紘汰。この世の終わりでも見て来たような顔してんぞ」
「――裕也」
「ん?」
「まさに見て来たかもしんねえ。この世の終わり」

 紘汰は語った。店内にいる全員に聞こえるように。時おり、貴虎のフォロー説明を借りながら。


 ――舞の“始まりの女”化と、消失。
 ――知恵の実の、世界を塗り潰す力。
 ――舞が誰も選ばず、独りで知恵の実の力を引き受けて滅びを回避しようとしていること。


「サガラは言った。舞君をこちら側に戻すには、強く呼びかけ、君が必要なのだと訴え、舞君に自発的に戻って来てもらうしかないと。私と葛葉、それに舞君のチームメイトの少女では、無理だった。光実の時だけ、応えてくれたが、留まって知恵の実を誰かに渡すことはしなかった」

 裕也が握り拳を額に当てて俯いた。

「……その肝心のミッチはどこっすか」
「ガレージに残ると言っていた。戦えない二人の護衛に付くと」
「ペコとチャッキーのか……針の筵だろうに。変わったな、あいつ」
「俺が悔しくて妬く程度には男らしくなってたぜ」
「そりゃ相当だ」

 裕也が席を立ち、店の出口に向かった。

「どこ行くんだ?」
「耀子さんに伝えに行く。戒斗はともかく、耀子さん一応、俺の上司で師匠だから」
「待てよ」

 ザックが席を立った。

「一人じゃ危ねえだろ。俺も行く。戒斗ともきちんと話したいしな」
「お待ちなさい。お子様二人で送り出すワテクシだと思って?」
「あ、凰蓮さん、俺も」
「坊やは残るの」
「あで!?」

 二度目の拳骨に、城乃内は涙目で頭を押さえた。

「まだまだそっちの黒い坊やと話すことあるでしょ」
「うっ……分かりました。気をつけてくださいね~」
「黒いって何だよ……」

 こうして、凰蓮、ザック、裕也が店を出て行った。 
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