革命家の死
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4部分:第四章
第四章
後にこの事件のことは明らかになった。中国の方から林彪の死を公表したのだ。
こうして秋生達の嘘は明らかになった。当然批判を受けた。
しかしだ。彼はこう言ったのだった。
「全ては日中友好の大義の為だった」
その為に故意に嘘を書いたとだ。言ったのである。
「ただそれだけのことだ」
しかしだ。このことはだ。ある作家がだ。こう指摘したのである。
「大義と言うならば」
「それがどうかしたのか」
秋生はその作家をじろりと見て言い返した。
「私のやったことが間違っているというのか」
「かつては第二次世界大戦がありました」
「日本の犯した罪だ」
秋生は日本のことについては実に忌々しげに答えた。
「許されるものではない」
「しかしあの頃はあの戦争は大義とされていました」
作家は秋生にこの事実を突きつけた。
「そして嘘が大義の為として書かれていましたね」
「そうだったか」
「大本営発表です」
ミッドウェー等であったその事実をだ。作家は話した。
「それがありましたね」
「軍の横暴であり忌まわしい悪事だ」
「しかしあの頃は大義でした」
そうなっていたとだ。作家は指摘し続ける。
「そしてそれによってです」
「国民は軍に騙されていたな」
「いえ、新聞にです」
彼は言った。こうだ。
「国民は騙されていたのです」
「新聞に?新聞は強要されていたのだ」
「だといいのですが。しかしです」
「しかし。何だ」
「貴方はあの戦争を日本の罪と今仰いましたね」
作家は今度はこのことを指摘したのであった。
「確かに」
「それがどうかしたのか」
「ではその報道をした者も罪になりますね」
「当然だ。軍に協力した者もそうなる」
「では。この記事を載せた新聞社もですね」
「当然だ。何を言っているんだ君は」
秋生は作家を侮蔑しきった顔で見返した。しかしだ。
作家はその彼にだ。淡々として述べたのだった。
「では貴方達も罪に問われます」
「私達が!?何故だ」
「何故ならこの記事はです」
作家は今度はある記事を出してきた。それはだ。
戦前の厳しい言葉でだ。物々しく書かれていた戦果を大々的に伝えるものだった。それを秋生に見せてからだ。作家は彼に対してこう告げたのである。
「貴社の記事だからです」
「なっ、我が社のものだと。まさか」
「ここに名前がちゃんと書いてあります」
記事の上の部分を指し示すとだ。確かにだった。
そこに秋生の所属する新聞社の名前があった。間違いなくだ。
それを見せてからだ。作家はまた秋生に言った。
「大本営発表をそのままです。嘘を書いた記事ですね」
「そ、それは軍に騙されていたのだ」
秋生はその記事と作家の言葉にだ。蒼白となりだ。
そのうえでまた言おうとする。しかしだった。
作家はその彼にだ。さらに言ったのだった。
「しかし貴方の口調ですと騙されても罪は罪に思えますが」
「い、いやそれは」
「確かに騙されているのなら罪は軽いでしょう」
作家は一見すると批判の手を緩めたかの様に見えた。しかしだった。
ここでだ。秋生に止めの一撃を見舞ったのだった。
「ですが意図的な、確信犯で書かれた誤報や虚報の類はどうなのでしょうか」
「林彪同志のことか」
「はい、貴方はそれを行いました」
作家はその止めの一撃を秋生に加えた。
「それは記者として絶対にやってはならないことでしたね」
「・・・・・・・・・」
「それを行った貴方は最早記者ではないのです。貴方の言うこと、書くことは最早全て嘘と思われても仕方ありません。大義を口実に人を騙したのですから」
作家は秋生に告げたのだった。彼はそれを受けてだ。
項垂れてだ。沈黙するしかなかった。作家はその彼を冷たく厳しい目で見ていた。
林彪が死んだのは事実だ。そしてそれを知りながら自分達の口実によりその事実を偽った記事を書いた新聞があったのも事実だ。マスコミもまた嘘を吐くということは長い間知られていなかった。だが今はそれが明らかになっている。それが喜ばしいことかどうかは別にして。今は明らかになっていることである。その事実をここに記しておくことにする。
革命家の死 完
2012・1・23
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