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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第77話 男のジェラシーは見苦しい

 
前書き
女のジェラシーは花があるのに何故男のジェラシーは見苦しいのだろうか?今回はそんな話・・・
になれば良いかなぁ? な感じの話。 

 
 銀時と岡田の両名は互いに睨み合っていた。過去に二度戦いその戦歴は一勝一敗のイーブン状態。つまり、今回の戦いこそが両名の勝敗を決める天下分け目の一戦と言う事になっていたのだ。
 が、その戦いの中に全く関係のない者が一人混ざっている。それだけが今までの戦いとは違う事と言えた。

「おい、俺とやりあうのに片手じゃ不便だろう? そいつを降ろしたらどうだ?」
「生憎と、そう言う訳にはいかなくてねぇ。このガキはちょいとおいたをし過ぎたからねぇ。あんたを仕留めた後でたpっぷりとお仕置きをしてやらないといけないんだよねぇ」
「お仕置きだぁ? 子育てをした事もねぇ野郎が一端の躾をしようって腹かぁ? そう言う奴が躾とか言っといて結局やってる事は虐待と変わんねぇ事をしてんだよ。躾と虐待は似てるようで違ってるって、分かってるかぁ?」

 片や未婚の状態とは言え子育てをした事のある男。片や未婚の上子育てをした事もない男。その二人の違いとは何なのか。それを知る為の戦いが今火蓋を切ろうとしていた。

「zzz………」
「………ってか、てめぇ今絶賛熟睡中なのかよ!?」

 いざ戦いを始めようとした矢先、銀時は岡田の体から伸びた機械のコード類に絡まっているなのはを見る。一見すると傷つき倒れているようにも見えたが、どうやら疲れ果てて熟睡しているだけの様だった。
 その証拠として彼女の鼻からは大きな鼻ちょうちんが大きくなったり小さくなったりしているのが見えていた。
 緊張感の崩れる音が銀時の脳内で響いていた。折角気合いが入っていたと言うのにそれを台無しにされてしまった感じだった。

「やれやれ、殺意と血の匂いで満ちたこの戦場に置いて、居眠りが出来るなんて、可愛い娘かと思ったら意外と肝が据わってるじゃないか。流石、白夜叉に育てられた子供と言うだけの事はあるねぇ」
「ほめ言葉として受け取っておくぜ。分かったらさっさと返しやがれ! てめぇに代わって俺がそいつにしっかり躾しといてやるよ」
「おいおい、そっちのあんたこそ躾と称した虐待をする腹積もりじゃないかぁ?」
「あんだとぉゴラァ! じゃ、教えてやろうじゃねぇか。親父の強さって奴をぉ!」
「教えて貰おうじゃねぇの。お父さん?」

 その言葉を皮切りに両者は互いの得物を振るった。両者の得物が互いにぶつかり合い火花を散らし合う。幾多もぶつかり合う刃と鞘。風圧と衝撃が辺りに吹き荒れ、風圧が鼻ちょうちんをゆらゆらと揺らしていく。

「おい、いい加減にしろよ! 折角こっちがシリアスなバトルしてるってのに。そんな中で何でてめぇだけ呑気に寝てられんだよ! 一体何があってそうなってんの? 何だってそんな目にあってんの? 教えてくれない? お父さんに教えてくれない? 知りたいんだけどぉ!」

 相当銀時にはその光景が苛立ったのであろう。こっちがシリアスな戦いをしていたと言うのにそんな中で一人だけ呑気に居眠りしているなのはが気に入らなかったようだ。

「う~ん、五月蠅いなぁ。今日はもう疲れたから眠りたいんだから静かにしててよぉ」
「だったらこの状況をどうにかしろぉ! とても静かに眠れる状況じゃねぇだろう。ってか、良く眠れるなぁこの状況下でよぉ! 一体どうやればそんな風に熟睡出来るんだぁ? 教えてくんない? お父さんに其処んとこ教えてくんない? すっげぇ気になるからさぁ!」

 盛大に怒号を張り上げながらも律儀に戦いを続ける銀時とそれに律儀にも付き合う岡田。そして、未だに熟睡しっぱなしで起きる気配皆無ななのは。
 もうこのまま放っておいても問題ない気がしてきた。幸い岡田はなのはを拘束しているだけで特に危害を加える様子も見られないしこの際この場はなのはの事を放っておきつつ戦っても何ら問題ないような気がしてきた。

「それにしてもあんた、随分器用な戦い方をするねぇ。前に赤子を抱えて戦ってた時もそうだけど、まさかガキ相手に怒鳴り散らしながら戦えるなんてさぁ」
「うっせぇ! 出来れば俺だってシリアス全開で戦いてぇんだよ! 全力全開でバトルしてぇんだよ! その空気全部其処で爆睡こいてる奴がぶっ壊してんだよ! デストロイしてんだよ! 破壊大帝様なんだよ! 何、どうすれば良いのこの中途半端な空気さぁ! あれか? 破壊大帝が来たって事はその反対だからコンボイ司令官でも連れてこいってのか? サイバトロン戦士にアタックして貰えってか?」
「知らねぇよ。一々あんたのボケに付き合うつもりはねぇんだ。それに、俺がしてぇのは……あんたとの殺し合いなんだからさぁ」

 今度は岡田が攻勢に出てきた。巨大化した紅桜を横凪に振ってきた。とっさに後退してそれをやり過ごしたが、その後即座に突進し一気に距離を詰めて来る。
 それに真っ向から銀時は迎え撃った。銀時もまた地に足がついた途端前方に向かい跳躍し、手に持った得物を振るった。
 互いの得物がぶつかり合い衝撃音と火花を散らし出す。互いの目と目が近づく距離。互いの息遣いが分かる距離での力と力のぶつかり合いが其処で行われていた。

「どうしたんだい? 何時まで刀を抜かないつもりなんだぃ? いい加減抜いてくれないかなぁ。それじゃ殺し合いになんないだろうが」
「るせぇ、てめぇ如きこれで十分だ。グダグダ言ってねぇで真面目に戦ってろ。この障害野郎」
「あっそう。あんたが真面目にやらないってんなら真面目にやる気にさせてやろうじゃねぇの」
「なに?」

 言っている意味が理解出来なかった。そんな銀時の眼前で岡田は一歩飛び退き、銀時との距離を開く。そして、巨大な紅桜の刃先をなのはの喉元に当ててきたのだ。

「てめぇ!」
「おっと、動いちゃダメだよぉん」

 その一言で銀時はその場に釘付けにされてしまった。下手に動けばどうなるか、それは火を見るよりも明らかであった。

「さぁ、それを抜いて貰おうか。でないと、お嬢ちゃんの頭がそっちに飛ぶ事になるかもよぉん」
「てめぇ―――」

 苦虫を噛み潰す程の力で銀時は歯噛みした。怒りが喉元まで出かかっていたのだ。しかし、動く事は出来なかった。岡田は銀時の跳躍力を計算して距離を開いた。
 今二人の間の距離はおよそ20メートル近くある。例え銀時が跳躍した所で、それよりも早く岡田はなのはの首を跳ねられる。二進も三進も行かない状況を作り出されてしまったのだ。

「どうしたんだ? 早く抜いてくれよ。折角の得物も使わなかったら勿体ないだろう?」
「くそっ!」

 舌打ちし、銀時は再度白夜の柄に手を掛けた。そして、再度白夜の刃を抜こうと引っ張る。
 刃が根本から数センチ出た辺りだっただろうか。其処で白夜はピタリと止まってしまい、その場から動かなくなってしまった。
 まただ、また抜けない。何度も必至に引き抜こうと試みるも結果は同じだった。幾ら引っ張ってもそれから先が出てこないのだ。

「おいおい、遊んでるのか?」
「うっせぇ! 黙って見てろ!」

 顔面汗でびしょ濡れになりながらも必至に白夜を引き抜こうとする。全身全霊の力を込めては見たが、それでも白夜はびくともしない。全く微動だにしないのだ。

(何処まで反抗期なんだよ。せめて反抗する時ぁ空気を読んでやってくれよ。今はそんな状況じゃねぇんだ。頼むから、俺に協力してくれよ、白夜!)

 次第に銀時の中で焦りの感情が芽生えて来る。自分一人の命ならば特に焦る事はない。だが、今は違う。一人の尊い命が掛かっているのだ。
 それも、今まで銀時自身が大切に育んできた大切な命が―――

「もう良い。あんたには失望したよ」

 深いため息を吐き、とても残念そうな顔をしながら岡田は呟いた。俯き、肩を落としている辺り心底残念そうにも見える。
 その残念そうな表情と言葉が、銀時の肝を凍り付かせてしまった。

「何? どう言う意味だよ」
「もう良いって事だよ。あんたとやりあってた時は最高に楽しかったけど、今のあんたはまるでやる気を感じないや。それだったら、少しでもやる気が出るようにしてやろうかねぇ」

 そう言うと岡田は紅桜の刃を思い切り振り上げた。狙いは銀時じゃない。岡田が狙っているのは、岡田の手の中で眠っているなのはであった。

「待て! 待てこらぁ!」
「今更後悔したって手遅れさぁね、恨むんなら臆病な自分を恨むんだな」

 銀時の静止を無視し、岡田は紅桜を一切迷う事なく振り下ろした。眠っているなのはの顔面に向かって。

「止めろぉぉぉ―――」

 銀時が叫び、そして、引き抜いた。力いっぱい引き抜いたその腕には、鞘から解き放たれた銀色に輝く美しい刀身を持った刀が持たれていた。
 その気配を察知したのか、岡田の振るった紅桜はなのはの額すれすれでピタリと停止した。

「やっと抜いてくれたか。待ちくたびれたよ」
「あぁ、待たせたなぁ……それと―――」

 ゆっくりと、抜き放った腕をおろし、銀時は岡田を見た。その時の銀時の表情はとても険しい表情になっていた。

「てめぇ、よくも家の大事なガキを傷物にしやがったな」
「傷物? あぁ、どうやら刃が少し当たっちまったみたいだねぇ。額がちょっとだけ切れてるみたいだ」

 見れば、なのはの額が少しだけ切れており、其処から赤い血の滴が流れ落ちているのが見える。だが、その程度の傷なら大した傷じゃない。恐らく命に別状はないだろう。
 それでも、銀時の中の怒りは収まる事を知らなかった。

「知ってるか? 年頃の女にとって、顔は命の次に大事なんだぜ。それをてめぇ……よくも台無しにしてくれたな?」
「あぁ、こりゃ悪い事をしちまったねぇ。ま、それで嫁の貰い手がなくなったって言うんなら変わりに俺が貰ってやっても良いぜ?」
「ほざくのも大概にしやがれ。てめぇみてぇな人斬りにそいつをやる気はねぇ。さぁ、始めるとすっか。本気の喧嘩ってのをよぉ」
「何度も言ってるだろう? 喧嘩じゃなくて殺し合いだってさぁ!」

 互いに啖呵を切り合い、再度ぶつかりあった。今度は両者とも刃と刃のぶつかり合いであった。銀時の白夜と岡田の紅桜。互いが互いの得物を用いて、決着をつけるべく最後の激突を行うのであった。




     ***




 薄暗い通路内を木島と武智の二人は急ぎ足で走り抜けていた。その二人の表情は焦りの色すらうかがえる。
 まぁ、武智の場合は表情の変化が乏しいので実際焦っているのかどうかは怪しかったりする。

「また子すわぁん、急いだ方が良いですよぉん。あの岡田のあん畜生。どうやら相当頭に来ちゃってるみたいですからねぇ」
「そう言ってる武智先輩の方が遅いじゃないっすかぁ! もっと早く走って下さいっすよぉ! にしても、あの野郎……今度と言う今度は容赦しないっすよ。よりにもよって晋介様の大事な客人に手を出しやがって」
「やれやれ、前に釘を刺しておいたのですが、無駄になったみたいですねぇ。こりゃ一度痛い目に合わせないとダメっぽいですねぇ。あぁ、お腹痛い」

 走りながらもそう言った会話をしあう両者。この二人は知っているのだ。銀時が船内で激闘を繰り広げている間、外で何が起こっていたのかを―――

「いやぁ、驚きましたねぇ。まさかあそこまで強化された紅桜相手に真っ向から立ち向かえるなんて。これが異世界の力、魔法の力だと言うのでしたら恐ろしい事ですねぇ。まだ年端もいかない子供が居合の達人と言われた剣豪と互角に渡り合えるんですから。ま、それが魔法の力なのか、それともあの子の力なのかは疑問なんですがねぇ?」
「そんな事はどうでも良いんすよ! それよりも、このままだとあの精神的異常者になのはが傷物にされるかも知れないんすよぉ」
「それはいけませんねぇ、あの子は後10年……いや後6年もしたらきっととびっきりのおにゃの子になるに違いありませんよ。私の目に狂いはないんですよねぇこれが」
「変態発言もいい加減にするっすよぉ先輩!」

 額に青筋を浮かべたまた子の怒声が響き渡る。

「にしても、本当にあれには驚かされたっすよ。何せ―――」




     ***




 三隻目の轟沈を狙い、岡田は紅桜を幾度となく振るった。だが、その度にその船に陣取るなのはが紅桜の猛撃を防ぐ。両手から発する謎の見えない壁により、紅桜の猛威は桂派の攘夷志士達の下へは届かないでいたのだ。

「ちっ、何なんだこのガキは。変な術を使いやがる」

 舌打ちをしつつ、再度岡田は紅桜を振るった。対戦艦用のからくり刀として作られた紅桜が子供一人斬れないのであっては笑い話にもならない。是が非にでもその事実を覆そうとしていたのだ。
 
「そうは、させないぃぃ!」

 しかし、岡田が振るうとそれに呼応するかの様になのはも動き、紅桜の来る方向に向かい結界を展開させて直撃を防いでいてくれていた。

「いっつ~……手が痛いやぁ。でも、もうこれ以上この人達を死なせたりさせない! 私の目の黒い内は、絶対に人殺しなんてさせないんだからぁ!」
「何でそんな奴らを庇うんだ? そいつらとお前は全く関係ないだろうが!」
「確かに関係なんかないよ! でも、どんな人だって一生懸命生きてるんだ! ヤクザだってホストだってキャバクラで働いてるお姉さんだってオカマだって攘夷志士のテロリストだって! みんな同じ一つの命を持って生きてるんだ! それを、それを何の躊躇いもなく奪うなんて、私は絶対に許さない!」

 声高々になのはは叫んだ。その後ろでは、桂派の攘夷志士達が皆涙腺を崩壊させて彼女の背中を見ていた。それほどなのはの言い放った言葉は彼らの胸に衝撃を与えたようだった。

「はん、綺麗事も結構。だが世の中綺麗なだけじゃ渡り合えないって事を、勉強するんだなぁ!」
「知ってるよ。そんな事、伊達に江戸で9年間も暮らしてた訳じゃない!」

 再度襲ってきた紅桜を払いのけ、なのはは飛んだ。その際に、足元に結界を展開させ、その結界に着地すると、まるでトランポリンの様に結界が跳ね上がり、なのはの体を空中へ跳ね飛ばした。
 なるほど、こうやって空中を移動していたのか。
 空中移動の原理を理解出来たは良かったが、これでまたしても邪魔される事になってしまった。

「くそっ、あのガキ……そろそろ俺も切れそうだよぉ。見つけたらきついお仕置きしないと駄目かなぁこりゃ?」
「お仕置きってどんな事をするの?」

 声がしたのは丁度真下であった。見れば、岡田の乗っている飛行マシンの真下になのははへばりついていたのだ。
 その光景に驚愕した時には既に遅く、なのははエンジン部分に拳を叩きつけて中のエンジンを丸々一式抜き取っていた後であった。

「こいつ、どうやってそんな技を!?」
「さっきの結界を使ったんだよ。あれって手にも纏えるみたいだからこうすれば攻撃にも使えるんだよねぇ」

 にんまりと意地悪そうな笑みを浮かべて見せる。完全にしてやられてしまった。もうこの飛行マシンは長時間の飛行が行えなくなってしまったのだ。幸いな事に近くに元居た偽装船があったのでその瓦屋根の上に避難し事なきを得る事が出来た。そんな岡田と同じようになのはもまた偽装船の瓦屋根に上がり込む。

「やれやれ、可愛い顔して相当手癖が悪いねぇお嬢ちゃん」
「えっへん、これでもお父さんから色々と仕込まれたからね。手癖の悪さはお父さん譲りなんだよ」

 はっきり言ってそれを自慢して良いかは疑問に思えた。だが、今となってはそれはかなりはた迷惑な事と言える。何しろ、折角の餌やりを台無しにされてしまったのだから。
 そのせいか、岡田の腕の中で紅桜がのたうち回っているのが岡田には感じ取れた。
 そんな岡田の胸中など一切関知せず、なのはは両の腕を鳴らしていた。

「さぁ、悪いけどそんな物騒な物は壊させて貰うよ。そんなのがあっても迷惑なだけだしね」
「おやおや、この俺相手に素手で来るってのかい? 幾ら妙な術を使えるからってちょっと調子に乗ってるみたいだねぇ」
「残念でしたぁ。喧嘩の仕方も教わってるもん。私の喧嘩はお父さんと神楽ちゃん譲りだもんねぇだ!」

 あっかんべーしながらなのはは自信満々に答える。その自信の指し示す通りであった。なのはの喧嘩の仕方はまるで神楽の力強さと銀時のずる賢さの合作版と言える感じであった。
 襲い来る攻撃がどれもこれも岡田の嫌な方から飛んでくるのだ。
 刃で防いだかと思えば見当違いの方向から拳が飛んでくるし、反対に攻勢に回れば例の妙な結界により阻まれ、そしてカウンターの要領で結界を纏った打撃を繰り出される。しかもその一撃がかなり重い。
 とても子供の一撃とは思えない威力を誇っていた。食らう度に骨の髄に響く感じだった。

「つくづく嫌なガキだ。まさか丸腰相手に此処まで苦戦するなんざぁ、長い間人斬りをやってきたがあんたが初めてだよ」
「子供だからってバカにしないでよね。おじさんみたいな相手の喧嘩ならたくさんやってきたんだから!」
「喧嘩ねぇ……そりゃ凄いだろうが、所詮は喧嘩。どうせやった事ないんだろう? 本気の殺し合いってのをさぁ!」

 突如として、岡田の気迫が変わった。ついに岡田が本気になったのだ。最早彼女が高杉の大事な客人とかそう言うのは関係ない。此処でこのガキを始末しなければ厄介な事になる。それに、彼女が高杉にとって大切な存在と言うのがそもそも気に入らなかった。
 高杉が彼女を傍に置きたがる理由は知っていた。彼女は似ていたのだ。かつて攘夷戦争に参加した唯一の女性剣士「紅夜叉」に―――
 だが、紅夜叉はもうこの世には居ない。白夜叉によって白夜叉によって紅夜叉は殺されてしまい、もうこの世には存在しない。
 そんな紅夜叉に瓜二つな彼女と高杉が出会った。本来なら似ているだけならば其処まで固執する事はないだろう。だが、高杉は恐らく感じていたのかも知れない。彼女の中に宿る紅夜叉を―――
 高杉は未だに求めていたのだ。紅夜叉を、高町なのはを、求めていたが故に、二人は出会ったのかも知れない。そして、高杉はなのはを傍に置こうとしている。自分が壊そうとする世界に置いてはおけないからだ。そうすれば紅夜叉の二の舞になる。まぁ、真相は分からないのだが多分そんなとこだろう。そんな事はさせない。
 そう思っていたのかと思われる。
 それこそが岡田には気に入らなかった。既に紅夜叉も白夜叉ももう過去の存在。今の高杉には不要の代物なのだ。今の高杉には自分が居る。自分が高杉の腕となりこの江戸を火の海にする。その為には、今目の前にいるこの紅夜叉の生まれ変わりとも思われるこの子供は心底邪魔なのであった。

「悪いが、もうガキだからって手加減はしないよぉ。死んでも文句言うなよ」

 その一言を皮切りにし、岡田の猛攻撃が開始された。途端に攻撃のスピードが段違いに上がったのだ。
 
「うっ! わっ!」
「幾ら経験を積んだ所で所詮は喧嘩程度。本気の殺し合いを知らないガキに、人斬りは殺せないよ」

 横凪の攻撃を防いだかと思ったらその直後に逆袈裟懸けの攻撃が襲い掛かり、それを何とか防いだかと思えば今度は脳天から巨大な紅桜が襲い掛かってくる。それも徐々に攻撃のスピードが上がって行く。ついにはなのはでは対応しきれないほどの速度で紅桜が襲い掛かってくる事態にまで発展し始めていたのだ。

「あっ、づっ!」
「強がりも其処まで行けば大したもんだ。だが、所詮は子供。大人相手にするには後10年早かったなぁ!」

 突如として、岡田のもう一方の手から何かが伸びてきた。それは無数の機械のコード類だった。それが生き物の様にうねり、おびただしい量で襲い掛かってきたのだ。
 
「うわっ! 何これ?」

 突然のその攻撃に対応など出来ず、呆気なくなのははそのコード類に絡め取られてしまった。頼みの両腕も機械コード類の中で複雑に絡めとられている為に思うように振りほどく事も出来ない。

「捕まえたよ。悪戯好きなお嬢ちゃん」
「うぅ……」

 不気味に笑う岡田が恐ろしく見えた。初めて知る人斬りの気迫。その気迫は今までなのはが見てきた大人達とはまるで違っていた。いきがってばかりのチンピラや名ばかりの攘夷志士達、江戸の治安を守っているのか甚だ疑問な武装警察、そんな類とは一線を介する恐ろしさが岡田からはひしひしと感じ取れたのだ。

「あんまり暴れられても困るから、少し寝てて貰おうか。仕置きは事が片付いた後でたっぷりとしてやるからさぁ」

 突然、拘束しているコード類が強烈に締め上げてきた。その力に抵抗出来る筈もなく、なのはは悲鳴を上げる事無くその中で意識を手放してしまった。
 がくりと首が項垂れ、微動だにしない。そんななのはを見てこれで邪魔者がいなくなったと思い一安心した矢先であった。

「―――だりぃなぁ。この件が片付いたらたんまり謝礼をふんだくってやる」

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声を聞いた途端、岡田は思わずにやけた。どうやら奴とは此処で決着をつけられるようだ。以前は有耶無耶になってしまったが、今度はそうはいかない。
 今度こそあの男と決着をつけてやる。笑みを浮かべつつ、岡田は外に出て来るであろ声の主「坂田銀時」の到来を待ち望んだ。




     つづく 
 

 
後書き
今更な話ですが、銀魂&リリカルなのはアニメ第四期放送中で~っす!

新八
「本当に今更ですね……」 
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