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過去、現在、そして未来

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5部分:第五章


第五章

「無論私も彼の過去は知っている」
「それでもですか」
「あえてあいつをなのですか」
「罷免されませんか」
「過去、そして現在を知っているからこそだ」
 アイゼンハワーの言葉が深いものになる。そのうえでの言葉だった。
「私は彼を任命したのだ」
「いえ、ですがそれはです」
「大統領の政策に合いません」
「黒人問題を解決されようという大統領のそれに」
「合わないと思いますが」
「いや、合う」
 アイゼンハワーは断固として述べた。
「それは合うのだよ」
「若しもだ」
 ここでだ。アイゼンハワーの言葉に強いものが宿った。
「彼が人種差別を助長する行動を取ったならばだ」
「その時はですね」
「あいつを罷免されますね」
「そうされますか」
「私が責任を取る」
 側近達の予想は外れた。何とだ。
 彼はその時は自分で取ると言ったのだ。確かな口調で。
 そしてそれを聞いた側近達は唖然となりだ。こう問い返したのだった。
「あの、しかしです」
「間違いなく人種差別を行う男ですが」
「カルフォルニアのことを見てもわかります」
「そうするに決まっています」
「また言うが彼の過去は知っているのだ」
 このことを言うことは変わらなかった。そしてだ。
 このことを言うこともだ。アイゼンハワーは変えなかった。
「そして現在もだ」
「現在もですか」
「だからこそですか」
「過去があり現在がある」
 そしてそれからだった。
「未来もあるのだ」
「ですがそれは」
「大統領にとっても合衆国にとってもです」
「よくない結果をもたらしますが」
「絶対に」
「彼は絶対にやる」
 アイゼンハワーと彼等の言葉はここでは一緒だった。しかしだ。
 その中にある意味は全く違いだ。彼は未来を見ていた。
 そのうえでだった。また言ったのである。
「私はそれを見ていよう」
「左様ですか」
「そう言われますか」
 ここまで聞いてはだ。彼等もだった。
 引き下がるしかなかった。こうしてだ。
 ウォーレンは最高裁判所長官に留まりだ。ある事件に携わった。
 アメリカのカンザスでブラウンという黒人、今現在の表現ではアフリカ系アメリカ人がだ。娘を黒人学校ではなく白人学校に通わせたいと言い出したのだ。当時だ。
 アメリカはあらゆる施設が白人用と黒人用に分けられていた。まさに分離されていたのだ。この人種分離政策に対する異議申し立てに他ならなかった。
 この申し出は忽ちのうちに合衆国全体の議論となっていた。黒人運動家であるマーチン=ルーサー=キング牧師等がこの運動に参加していた。
 世論はこの分離政策の解消の支持に大きく傾いていっていた。しかしだ。
 この分離政策を支持する者達も反発も大きくだ。流れはどうなるかわからなかった。その中でだ。
 最高裁判所にこの件に、人種分離政策に対する判断が委ねられたのだ。この政策、ひいては人種差別は是が非か。合衆国は大きく揺れていた。
 そしてその判断、判決を委ねられたのがウォーレンだった。その彼の過去が注目されたのだ。
「あいつが妥当な判決をする筈がない」
「日系人を収容所に送り込んだ男だぞ」
「それでどうして黒人を擁護する」
「人種差別を認めるに決まっている」
「あいつはそういう男だ」
「間違いない」
 こうだ。多くの者がまた言った。そしてだ。
 
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