美しき異形達
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第五十四話 山師の館その十一
「出たか、遂に」
「待っていたと答えるべきかな」
楽しんでいる口調だった。
「ここは」
「待っていたってずっとかよ」
「君達が来るとわかってからね」
その時からだというのだ。
「ここで待っていたよ」
「道理でお屋敷の中にいなかった訳だな」
「この庭は私のお気に入りの場所でね」
屋敷の敷地内でもというのだ。
「よくいるんだ」
「確かに奇麗な場所だな」
「草木も水路も本物だよ」
伯爵は幻術ではないことを告げた。
「全てね」
「この鳩もだよな」
薊はまだ足元にいる機械のリョコウバトを見つつカリオストロ伯爵に問うた。
「機械だけれど」
「私が造ったものだよ」
「やっぱり幻術じゃないか」
「今は幻術は使っていない」
カリオストロ伯爵ははっきりと言った。
「私はよく嘘を吐くけれど今の言葉は嘘じゃない」
「そうか、じゃあな」
「私が君達にしていることは知っているね」
「とっくにな、じゃあ出て来るかい?」
「さて、どうしたものか」
カリオストロ伯爵の声は今度はとぼけたものだった。
「私は気紛れでね」
「出て来ないつもりかよ」
「気が向いたら出るがね」
「これがだよ」
ここでだ、サン=ジェルマン伯爵が少女達に告げた。
「彼の得意とする幻術だよ」
「これがか」
「まさにね」
そうだというのだ。
「そしてその幻術はね」
「伯爵さんが、だよな」
「破るよ」
「卿が来ていることも知っていたよ」
カリオストロ伯爵の声はサン=ジェルマン伯爵にも言って来た。
「既にね」
「こちらもわかっているよ」
「呼んだつもりはないのだがね」
「おや、博士はそう言うのだね」
サン=ジェルマン伯爵はここでカリオストロ伯爵を博士と呼んだ。
「つれないものだね」
「博士?」
「彼は博士号も持っていてね」
少女達の問いにもすぐに答えた。
「それで私はこう呼んでいるんだ」
「それでか」
「ある大学の教授であったこともあるよ」
「じゃあ教授って呼んでもいいんだな」
薊は伯爵の言葉を聞いてこう言った。
「それなら」
「何でも呼ぶといいよ」
当人の声の返事も来た。
「別にね」
「ああ、伯爵が二人いるだからな」
薊は少女達の考えをここで代弁した。
「博士っていうと大学のあの仙人みたいな人思い出すしな」
「彼だね」
「博士のこと知ってるんだな」
「何度か会ったこともあるよ」
こうもだ、薊に答えたのである。
「お話をしたこともね」
「錬金術のことでか」
「そう、彼も組織に出入りすることがあるからね」
その時にというのだ。
「会ったことがあるよ」
「成程な」
「では私のことは教授と呼んでくれるんだね」
「そうさせてもらうな」
「では私もここでは卿を教授と呼ぼう」
サン=ジェルマン伯爵も言った。
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