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ワールド・エゴ 〜世界を創りし者〜

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『世界断絶』-finish next history-
  lost story1-『傲慢』-

「『world time(ずっと俺のターン)』!時よ止まれぇぇッ!!」

 世界の廻す歯車が停滞する。水面に広がる波紋は硬直し、地へと下る豪雨の雫は空へと刻み込まれる。
 ワールドの持つ異能、『時空操作』は世界を包み込み、その歩みを停止させた。

『滅び』達の時も、停止する。
 化け物達の時が、停止する。

 そして『滅び』は、それを知覚出来ない。
 ワールドが叫んだその次の瞬間には。

 ──時は、動き出す。

「ギィェァァァァァア嗚呼!!!」

 奇妙な断末魔と共に、『滅び』達の首は宙へと舞った。

 だが数は殆ど減らない。無数の『滅び』はワールドへと迫り、その世界を引き裂く牙をワールドに向ける。
 しかしワールドも黙っていない。
 現界させるは時空の歪み。捻じ曲げられた空間は魔力を帯びた真空の刃を幾重にも生み出し、その刃は『滅び』へと切っ先を向けた。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァッ‼︎」

 某カリスマ吸血鬼の如くラッシュを繰り出し、『滅び』達の体を削り取っていく。
 対して『滅び』はワールドに傷一つ与えられない。否、仮に与えても、その傷の時が巻き戻るのだ。
 故に、傷は『そもそも負っていない』事にされる。

『時空を操る』とは、それ程に絶対的な力なのだ。

「幻符『殺人ドール』ッ!」

 ワールドが知る、時を止める能力者の技を再現する。
 無数にバラ撒かれたナイフは空中で静止し、次の瞬間には魔力を帯びて敵へと向かう。
 一発一発が次元を貫く程の威力を持った弾幕が、流星群となって『滅び』を喰らい尽くした。

「カオス・コントロール!」

 時は再び停滞し、『滅び』達の質量が奪われてゆく。
 ワールドが今一度その手を振れば、『滅び』達はすぐさま霧散した。

 《主》と名乗る者の介入によって手に入れたワールドの人間としての体は、ワールドが備える時空操作の異能を引き継いでいた。
 人間の体ではあるものの、その基礎能力は人間の域ではない。対抗できるとすれば、絶対的な力を保持する神や、伝説上にのみ名を残すという、『鬼』の中でもトップクラスの存在ぐらいだろうか。
 拳は世界を裂き、蹴りは次元を砕く。
 ワールドの強大すぎる異能を保持するには、それ相応の肉体が必要なのだ。

 けれど。
 それでも。

 その『時空』の異能は、唯一無二では無かった様だ。

「──くっおおッ⁉︎」

 上半身を極限まで逸らす。
 筋肉を駆使し、血肉を滾らせ、その『予感』を全力で避ける。

 ああ、なんたる事か。

 ワールドが先程まで頭を置いていた空間に、何時しか漆黒の渦が誕生し、あらゆる総てを飲み込まんと、その舌を伸ばしているではないか。

 重力の流れに全力で逆らい、自らの肉体の時を加速させる。

 一気に離れ、ブラックホールの時を止めようと──

『停滞する時の歯車』(ストップ・クロック)







 ──時は、動き出す。






 目の前に現れた巨大な隕石は、ワールドを押し潰すが如くに世界を隠した。

「ッ⁉︎『world time(ずっと俺のターン)』!」

 時は今一度停止する。
 隕石は静止し、ワールドはその場から離れ、隕石の時を巻き戻す。
 巻き戻された巨大な岩塊は、空間から何事もないように消え去った。

 ──パチ、パチ、パチ。

 手を打ち合わせるような音が、場に響く。

「……誰だ?」

 空間を捜査し、自分の背後に居る存在に向けて、問い掛ける。

「……いやはや、人間の分際で我と同じ『時の世界』に入るとは、奇跡とは恐ろしい物だな」

「──お前は……ッ!」

アルヴァート・ルーク・マレイド(真なる世界の王族)エイトナイト(8番目)。貴様とは初めて相見えるな」

「……随分とキャラが違うな、ルークさんよ。違う意志を持った別個体か何かか?」

「察しが良いな。我は『アルヴァート・ルーク・マレイド』の一部。時空を操る絶対の王だ」

 毒々しく、しかし美しい、矛盾のある白銀の髪。焼け野原を映しているが如く紅蓮に輝く瞳。世界の闇を濃縮したかの様な漆黒のマフラー。同色のコート。

 その細い体から発せられる威圧感は、《滅び》達とは比べ物にならない。
 しかし何より奇怪なのは──

「……どういう事だ……?この世界の時系列にこんな奴は……」

 ワールドは時を操るというその能力上、未来に起こるあらゆる出来事を把握している。
 遥か先の未来はこの世界が直接フィルターを掛けている様なので分からないが、近未来程度なら簡単に知れるのだ。

 だが

 この存在は、ワールドの知る未来には存在しなかった。
 ──否。

『存在してはいけなかった』

 何故ならば──

「さて、虫ケラ。貴様はよりにもよって我の目の前で、我と同じ力を使った訳だが……──覚悟は出来ているな?」

 ワールドが別の世界で『観た』未来によれば、コイツはワールドの知る『天宮陰斗』と同じく、『自らは唯一無二』という事を絶対的に信じているからだ。

 噴き出す死の予感。溢れ出す『絶対』の気配。

『8番目』は、その『力』を紡ぎ始めた。

「今此処に、王なる我が名の下に神罰を下す。

 ──"この世界は我が庭である"──(Non patitur hoc mundo)

 ──"我は永久に不滅"──(Lets implere ulciscendumque compelleretur. )

 ──"常世を統べる絶対者なり"──(Quamdiu mundus perveniat ad ruinam)

 ──"今再び我は謳おう"──(Etiam semper conatus fuerit videre gehennam)

 ──"我に仇成す総てを祓わん"──(Si ego possum facere velim,)


────"無限の光を束ねし剣"────(Nulla)』」


 総てを照らす輝きが解き放たれ、万物を裂く剣が横一文字に薙ぎ払われた。

 ──勝てない
 
 少なくとも、今のワールドの力では勝てない。
 ワールドの持つ力は、時間と空間を操る異能、そして圧倒的な迄の基礎能力。どちらも、力を持つ者達の中でもトップクラスの異能。

 だが、逆に言ってしまえば"それだけ"だ。
 相手は全く同じ異能を持ち、加えてさらなる異能を持っている。
 1人の平凡は2人の平凡に勝てない。
 10000の天才は、20000の天才には勝てない。
 それは、当然の理だ。

「world time……ッ!」

 全世界の時を止める、たった一言が紡がれる。
 空を流れる気流は静止し、天を覆う雲もその動きを止める。

 だが、光の剣はその動きを止めない

「……ッ!──Quick time thousand burst(自体加速『×1000』)!」

 自らの肉体の時を、加速させる。その速度は、通常の1000倍。
 ワールドの体が残像を残し、消え去った。

「遅いな」

 ふと。
『8番』は。
 ワールドの心臓を。

 ──貫いた。

「……け……は……ッ……⁉︎」

「時を操る我が力の前では、肉体の加速など全く意味のない事だ。『1番』の奴め、見誤ったな」

 ──強すぎる。

 能力のみでもそうだが、経験も違いすぎる。
 能力の使い方、体の運び方、相手の行動の予測、磨き上げられた技。

 全てに於いて、ワールドのソレを凌駕している。

 ──痛み

 ソレは、AIであったワールドとは無縁だったモノだ。
 電気信号の集合体に痛覚など無い。故にワールドは痛みを知らない。

 ──これが、痛みか。

 辛い。苦しい。不快感が全身へと広がり、耐えられないような激痛が心臓辺りから広がっていく。
 正に、人間だ。

「……は、はは」

 無意識に笑みが零れる。

 そうだ。
 俺は人間だ。
 AIなんかじゃない。

 時が巻き戻り、ワールドの傷が修復されていく。
 やがて完治すると、ワールドはニヤリと笑った。

「まだだ……死んでたまるかよ……!」

「ほう?まだ我に立ち向かう勇気が残っているとはな。良かろう、好きなだけ殺してやる」

 8番目の背後の空間が歪む。歪みから現れるは無限の剣。その切っ先は全て此方を向いている。

 ──パチンッ!

 8番目が指を鳴らすのを合図に、無数の剣は前進を開始する。
 マシンガンじみた連射音と同時に、無限の鈍色の残光はワールドの視界を覆い尽くした。

「──う……オオァッ!!」

 同時にワールドも、その動きを開始する。
 降り注ぐ必殺の刃を潜り抜け、隙間を縫い、8番目へと迫る。

 再びの連射音が響く。
 見上げれば、さらなる剣の雨がワールドを始末せんと降り注いだ。その数、先の5倍。

 ワールドは自らの右手に真空の剣を生み出し、応戦しつつ8番目へ迫る。
 ──残り10メートル。

 鮮血が舞い散る。

 ──残り5メートル。

 裂かれた皮が宙を舞う。

 ──残り3メートル。

 真空の剣が、ヘシ折れる。

 ──残り2メートル。

 剣が、全身を貫く。

 ──残り……1メートル。


「──ふむ。……これは予想外だな」

 ワールドの体は、8番目の一歩手前で静止していた。
 折れた剣は8番目へと向けられているが、その刃は届いていない。

 左右から伸びた剣がワールドの体を貫き、宙へと縫い付けている。

「──か……ぁ……っ!」

「まさかここまで接近を許すとはな。力を使わなかったとはいえ、素質はあるという事か。成る程な」

 再び激痛が全身を襲う。
 今度は剣が突き刺さったまま故、傷の巻き戻しも出来ない。

 ──ダメだ……意識が……くそ……

 目の前が白く染まっていく。血が足りない。感覚も無い。
 確実に──死ぬ。














 ──────────────────














 目の前で倒れた青年を、8番目はただ見下ろした。
 暫く経つと、8番目は手をかざし、青年の体の時を巻き戻す。
 傷が癒え、血も戻り、やがて完治へと導かれる。

「──フン。まあいい、連れて行くか」

 8番目はワールドを担ぐと、時空の歪みへとその姿を消した。
 誰も居ない世界には、静寂のみが満ちる。

 ──時の止まったその世界で、『滅び』が再び現れる事は無かった。















 世界転生まで、あと32時間。
 《滅びの依り代》の完成まで、あと30時間。 
 

 
後書き
お久しぶりの絶炎です。遅れて申し訳ない。
ま、まあアニメで言う二期の準備期間みたいな感じなんだよきっと(震声
そんな訳で如何だったでしょうか、ワールド・エゴ第3章1話目。
え?マトモなあとがきが珍しい?まあ暫く更新してなかったですしね。謝罪の一つでも入れとこうと思いまして。
そしてこのワルエゴ、今は三章な訳ですが、呟きでも言った通り四章からはガンガン参加キャラも死んでいきます。
ええ、某絶望しかない魔法少女モノシリーズの如くガンガン脱落していきますとも←
そんな訳でこの辺りで締めさせて頂きます。次回もお楽しみに!評価、感想等、頂ければ幸いです! 
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