魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico23其は天に座す竜を守護せし鉄壁の暴風~Chevaliel~
前書き
リンドヴルム総隊長シュヴァリエル戦イメージBGM
閃の軌跡Ⅱ「Heteromorphy」
https://youtu.be/9aAfw7q3NCY
ここは時空管理局に未だ認知されていない無人世界。人の手が何一つとして入っていない為に大地には自然が溢れ、動植物は自然の摂理にのみに従って存在し、空もまた手つかずの澄みきった青空が広がっている。その青一色の中に巨大な黒い影が在り、ゆっくりと空の中を進んでいた。
影の正体はロストロギア専門蒐集組織・リンドヴルムが本拠地としている建造物だ。名を天空城レンアオム。別名を竜の棲み処。その名の通り天空に浮かぶ城だ。いや、城というよりは島だ。100万平方メートルという広大なエリアに、様々な建築方式の城や塔が幾つも建っている。島の縁全周には砲台が12基と設けられ、島の下層にはリンドヴルム保有の次元航行艦がためのドッグがある。
時は第2小隊ドラゴンアイズが海鳴市に侵入する十数時間前。
「――くそっ! なんであの時に言わなかった、アイリ!」
「だって聞かれてなかったもんね~」
レンアオムに数ある城の中でも中央に建つ本城の1階廊下。そこには1人の男と1人の少女が居た。男の名前はシュヴァリエル。リンドヴルムに所属する最強戦力で、“堕天使エグリゴリ”の1機。何故、リンドヴルムに所属しているのかは不明。
少女の名はアイリ。古代ベルカ時代にてルシリオンを主としていた融合騎の1人。リンドヴルム保有のロストロギアの中でも特別扱いをされており、そのおかげで待遇は悪くなく、かなり好き勝手をしていても許される立場に居る。が、隙があれば逃亡する意思はある。だが、シュヴァリエルにバレては失敗を繰り返す。その回数、すでに4桁。
「まさかあの時の子供2人が・・・! それを知っていれば俺はみすみす逃すことは無かった!」
「あの時にシュヴァリエルがアイリの羽を引っ張らなかったらまた違ってたのにね。ザマァですね~♪」
ツンツンと逆立った髪をガシガシ掻き毟るシュヴァリエルへとアイリが皮肉を言うと、「クソガキ・・・!」彼のこめかみがヒクついた。今のアイリは本来の30cm程の身長で、「リンドヴルムが困れば困るほど、アイリは嬉しんだよね~♪」と、シュヴァリエルの目の前をひらひらと舞う。
「ハエみたく目の前を飛ぶな、鬱陶しい。・・・フン。確かにあの子供2人を逃したのは大きな痛手だったが、すぐにでも見つけて回収するさ。俺たちがこうして元の時代、元の次元世界に戻って来られたのが良い証拠だ」
アールヴヘイムでの一件から数日の今日。転移門ケリオンローフェティタの暴走でどこへとも転移されるか不明だったシュヴァリエル達だったが、転移の結果は1時間~2時間先の未来で、ここ無人世界に近い別の無人世界だった。直前での座標設定が運良く働いたようだ。
「無事、ね。ドメスティキに乗ってた全員がミイラ化・白骨化していたのに、無事ってよく言えるね」
「倉庫に残っていた神器はすべて正常稼働していたし、アイツらも訳の解らない時代や次元に飛ばされることなくホームに戻って来られた。それは幸運じゃないか?」
「・・・・馬鹿みたい」
2人の会話の通り、3小隊のメンバーが乗っていた旗艦“ラレス・ドメスティキ”は 2時間先の未来へと飛ばされていた。転移先はシュヴァリエルとアイリが到着した無人世界とはまた別だが、こことは割と近い無人世界。しかし全員がミイラ化、もしくは白骨化していて、“ドメスティキ”は転移前と変わらない状態だった。純粋な人間だけが急速に成長し、そして果てた状況だった。
「・・・ああ、馬鹿みたいだな。人間は脆い。俺やお前は何百年と生きようと変わらないのにな」
「・・・アイリは・・・普通に成長して普通に死にたいね。時間に取り残されるのはやっぱり嫌だしね」
「あっそ。・・・ま、そんなことはどうでもいいさ。あの2人も直にどっかの次元世界で見つかるだろ。うちのメンバーや有志諸君が次元世界に散って捜索しているしな。先に転移門に入ったドメスティキが2時間先の未来。最後に入った俺とお前が1時間先の未来。その狭間に入ったあの2人も似たようなもんだろ」
「だと良いね。・・・ふわぁ。アイリ、寝足りないからもう1回寝ようっと。あ、そうそう。起こすと許さないか――」
「シュヴァリエルさん! ドラゴンアイズから報告です!」
アイリが与えられた自室へ戻ろうとしたその時、1人の青年が忙しなく駆け寄って来た。その青年の報告書データを貰ったシュヴァリエルは「おい、待て、アイリ」ガシッと小さなアイリの体を鷲掴んだ。当然、「やめてってこういう掴み方! 淑女のエスコートもまともに出来ないの!?」ってぎゃあぎゃあ喚き散らす。
「何が淑女だ、ガキが。・・・子供の内の1人を発見した。発見場所は第22管理外世界ミルマーナ。だが、どうやらソレは自身や相手への強制転送能力を持っているようだ。世界を渡って逃走しているわけだ」
「回収をアイリにも手伝わせるわけ?」
「そういうわけだ。お前はアールヴヘイムであの2人と関わっていただろ」
「偶然なんだけどね。アンタの部屋でのんびりしてたらいきなり空に投げ出されて、とりあえず空を飛んでたら目の前に急に現れて落下し始めたから助けただけ。だから名前も知らない・・・。だけど、ここに連れて来てもいいなら、友達になりたいって思うけどね」
「おまえ以上に貴重な存在だ。友達どころか使用人になるかもな」
「いいよ、それでも。話が通じる相手なら誰でもね」
こうしてシュヴァリエルとアイリもまた、アールヴヘイムより消えた少年少女を確保するために動きだした。
†††Sideヴィータ†††
久々にあたしらの前に姿を見せたリンドヴルム。この前は変な巨人型ロストロギア(強かったよなぁ)をまんまと奪われちまったけど、今回はそうはいかねぇ。奴らの狙いっぽい子供はあたしら管理局が責任を以って保護するぜ。つうわけで、あたしらは見事にリンドヴルムを返り討ちにして、今は1つの場所に集めて地面に転がしてある。
『――事情は判った。そこから一番近いところを航行している艦と捜査官チームをすぐに・・・最短で30分だな。すぐに向かわせるから、そのまま待機を頼む。すずか。申し訳ないがもうしばらく結界維持を任せる』
「はい」
クロノ執務官に連絡を入れて、応援を寄越してもらうことにした。付近に次元航行艦もねぇし、アースラも今は本局だしな。つうわけだからもうしばらく結界内で、バインドで拘束したリンドヴルム兵を監視することになった。
「それにしても、どうしてリンドヴルムはこの男の子を狙ってやって来たんだろ?」
なのはが小首を傾げる。こん中でリンドヴルムと因縁があったのはあたしら八神家だけだったけど、なのは達も局に入ってからリンドヴルムみてぇな犯罪組織についても多く学んでることで、そんな疑問も当然出てくるわけだ。
「そうよね~。魔力を感じることから見て魔導師よね。もしくは騎士」
「いやいや。こんななよっとした奴が騎士なわけねぇよ」
「そうとは限んないでしょ。あんたやシャマル先生みたいな華奢なのも騎士やってんだし」
アリサとそんな話をしてると、今回のリンドヴルム兵の中で一番若い奴(なのは達がブッ倒した奴だな)が目を覚まして、「くそ・・・。ツイてねぇ、全くと言っていいほどツイてねぇ」ってあたしらを見て自嘲した。
「ああ、そうだな。お前たちはツイていなかった。よりにもよって、我々が居るこの海鳴市へ少数で来て、しかも喧嘩を売ったのだ。自嘲したくなるのも解る」
シグナムがそう言い放った。運が悪かったとしか言えねぇよな、確かに。だけどソイツは「俺の事じゃない。お前たちだよ、ツイてないのはさ」って嘲笑いやがった。
「どういうことや・・・?」
「ハハ、ハハハ、ハハハ・・・・」
「ちょっとアンタ、笑ってないで答えなさいよ」
「ヒヒ、フフ、フハハハ・・・フヒヒ・・・!」
「うぅ、はやてちゃん。この人、こわいですぅ・・・」
それから何を言っても狂ったように笑い続けるから、もう1度気絶させてから放置ってことになった。怖がるリインをはやてと一緒にソイツから離して、あたしとシグナムとザフィーラとルシルの騎士組だけでリンドヴルム兵の監視を務めて、なのはら魔導師組+シャマルとシャルは子供の保護優先の陣形で待機だ。
「やっぱりどれもこれもロストロギアだった物のレプリカだな。とは言ってもオリジナルの性能と同等に近いと思う」
「その割にはつまらん能力ばかりだったな。まともな物は甲冑くらいだ」
リンドヴルム兵の装備を確認し終えたルシル。シグナムが言うようにコイツらの武装は大したもんじゃなかった。そんなロストロギアのレプリカを封印したけど、ルシルの表情は晴れない。どっかソワソワしてて、心ここにあらずって感じだ。
「どうかしたんか? さっきから変に周囲を気にしてんだろ。そこまでお前が周りを気にするなんて珍しいっつうかさ」
「・・・ソイツの言っていた、俺たちがツイていない、っていうのが気になって・・・」
「苦し紛れに負け惜しみではないのか?」
「あたしもシグナムに同意見。最後は狂っちまったし、単純な負け犬の遠吠えだって」
あたしとシグナムがそう言うけど、ルシルの表情も雰囲気も変わらずに暗い。けど、次にルシルが発した言葉に、あたしらもまたそうなっちまうことになった。
「リンドヴルムには・・・エグリゴリが居るんだ」
「「「っ!」」」
そうだった。リンドヴルムにはシュヴァリエルっつう“エグリゴリ”らしき奴が居るんだった。第14管理世界ウスティオであたしら局員を襲った暴風。アレはシュヴァリエルが放った攻撃だったって、あとでルシルに聞いた。
――ただの気流操作で起こった暴風だったから死傷者は出なかった。もしアレに攻撃魔力が付加されていたら・・・全員が削岩機にかけられたように粉々にされているところだ――
想像しちまった。生きたまま粉砕されるなんてとんでもねぇよ。あたしら守護騎士が苦戦したうえ殺されちまったバンへルド。ソイツよりずっと強ぇ“エグリゴリ”の危険存在が今、ひょっとするとこの世界に来ちまうかもしんねぇ。ルシルはそれが気掛かりなんだ。
「ルシリオン、お前の想像が当たるとしたら、我々はどうなる?」
「シュヴァリエルの行動目的で変わってくるとは思う。奴がリンドヴルムの1人として来たのなら、このコイツらや武装は大人しく返そう。少年についても最悪、見捨てるしかない」
局員として、つうか人としてもアウトな選択だよな。けど、下手に刃向かってはやてやリイン、なのは達の誰かから死人が出るのだけはなんとしても避けてぇ。あたしは「もし、エグリゴリとして来たら?」訊く。たぶん答えは聴くまでもない。コイツはきっと・・・
「みんなは何も考えず、ひたすら逃げることにだけ集中してくれ。俺は独り残って、シュヴァリエルを・・・迎え撃つ!」
ルシルは勇ましくそう言ったけど、目には焦りの色があるし、表情は青いし硬い。ダメだ。今、ルシルとシュヴァリエルを戦わせんのは。でも、あたしもここで負けて死んだらそれまでだ。“夜天の書”はもう無いから、転生機能は働かない。だからってルシル独り残して逃げろって言うのかよ。
「私も逃走の時間稼ぎをしよう」
シグナムがサラッと言い放った。あたしは迷ったのに、シグナムは迷わなかった。だけどルシルが「馬鹿を言うな。転生機能が無いんだぞ。却下だ」ってすぐに断った。それでも「対エグリゴリ用のカートリッジを渡してくれ」シグナムは引き下がらねぇ。
「ルシリオン。お前も持っているのだろ? エグリゴリに通用する魔力が込められたあの特殊なカートリッジを」
「・・・ダメだ。バンへルドとは訳が違う。三強なんだぞ、シュヴァリエルは。きっと今の俺のカートリッジじゃ通用しない・・・」
「だがお前は残るのだろ? まさか自分はクローンだからここで死んでも次があるからと言わないだろうな。お前の後継には記憶が引き継がれないのだろうが。次のセインテストはもう・・・我らの知るお前とは違うのだ」
シグナムはもちろん、さらに「ドラウプニルはあるか?」ザフィーラまでもが残ろうとし始めた。“ドラウプニル”。バンへルドん時にオーディンがシャマルとザフィーラに渡した腕輪のことだ。アレがあれば対抗できるって、ザフィーラも憶えてたんだな。
「・・・それでもダメだ。みんなも逃げろ。シュヴァリエルは俺独りで迎え撃つ!」
「あ、あのさ! あたしも――」
そう言いかけたところで・・・
「面白な、そのジョーク。じゃあ、俺と一対一で闘ってもらおうじゃないか」
聞こえちゃいけねぇ声が、はやて達の方から聞こえた。そっちに目を向けると、はやて達のずっと奥の山林から1人の男が音もなく現れた。体格のいい若い男だ。コイツだってすぐに理解した。コイツが、“エグリゴリ”三強の内の1機で、以前にあたしやシグナムら武装隊や特務一課を撃墜した張本人・・・
「シュヴァリエル・・・!」
「「「シュヴァリエル、さん・・・?」」」
ルシルだけじゃなく、なのはとアリサとすずかまでもがソイツの名前を呼んだ。シュヴァリエルともう1機のレーゼフェアっつう奴がなのは達とすでにコンタクトしてたって言ってたな、ルシルの奴。
「・・・げろ・・・逃げろ! ソイツもリンドヴルムだっ!!」
――瞬神の飛翔――
ルシルは“エヴェストルム”のカートリッジをロード。そんで初っ端から空戦形態になって、シュヴァリエルに向かって突撃した。
†††Sideヴィータ⇒ルシリオン†††
VS・―・―・―・―・―・―・―・
其は竜の棲み家を護る防風シュヴァリエル
・―・―・―・―・―・―・―・VS
最悪だ、あまりにも早い遭遇だった。元・“戦天使ヴァルキリー”のヘルヴォル隊隊長にして風嵐系最強機、シュヴァリエル・ヘルヴォル・ヴァルキュリア。リアンシェルトの言うようにレーゼフェア、フィヨルツェンと順を追って救っていきたかったんだがな。
(だからと言って退くわけにはいかない!)
シュヴァリエルが姿を見せるかもしれないという想定をしていた時に、俺はふと正月に引いたおみくじの内容を思い出していた。退けば後に不利となる。躊躇わず勝負せよ、という内容だった。おそらく今回の遭遇を示していたのかもしれない。ならば・・・
「俺がシュヴァリエルを引き付ける! みんなは今すぐにこの場から離れろ!」
戦うしかないだろう。はやて達を俺とシュヴァリエルの死闘に巻き込まないようにするために、彼女たちを問答無用で遠ざけなければ。巻き込み事故で誰かが死んでしまうような事態だけは避けたい。
「あ、あの、でも、シュヴァリエルさん、私たち知り合いで・・・」
「馬鹿! ソイツにはそんな人間らしい感情なんて持ち合わせてない!」
「酷い言い草じゃないか。ええ? ま、少し予定が狂ったがいい機会だ。力の差を思い知らせてやるよ!」
シュヴァリエルが“極剣メナス”を具現して携えた。“メナス”は俺が製造した神器だ。全長2mの片刃の大剣で、風嵐系術者の魔術効果を高める機能を持たせた。さらにはシュヴァリエル専用ということで重く・堅く・純粋な破壊力に特化した、刀剣類というよりは打撃武器に入るかもしれない武装に調整してある。
「おおおおお!」「フンッ!」
“エヴェストルム”を神器化するための神秘を含んだ魔力カートリッジを計4発ロードしたうえでシュヴァリエルへと斬りかかる。シュヴァリエルは“メナス”による迎撃。刃が衝突すると「きゃああああ!」なのは達が衝撃波で吹っ飛んだ。言葉で逃げてくれないなら、こうでもして無理やり距離を開けさせるしかない。
「フェンリル! はやて達を逃がせ!」
「イエス、マイマスター!」
「フェンリル狼か。後で下手に邪魔されちゃ敵わん」
こちらは両手持ちで斬りかかっているのに、シュヴァリエルは片手だけで柄を持ち、俺の全力の斬撃を受け止めている。判りきっていたが、膂力が圧倒的に違い過ぎる。それゆえに空いている左手がフェンリル達に向けられた。シュヴァリエルの左右で風が渦巻き・・・
――十裂刃風――
「やめ――」
渦巻く風は2つの真空の刃となって放たれ、フェンリルを十字に襲った。今のフェンリルには戦闘能力はないため、「フェンリルさん!?」成すすべなく寸断されて、魔力となって霧散した。はやて達はその光景に目を大きく見開き、ガクガクと体を恐怖に振るわせてその足を止めた。
「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ! はやて達を逃がせ!」
頼りはシグナムら大人だけ。シグナム達は少し迷いを見せたが、それでもはやて達を逃がすために動いてくれた。しかし「わたしは一緒に戦う!」はやてとシャルがそんなことを言いだす始末。するとなのは達にも、残ろう、って空気が。
「いけません、はやてちゃん! 私たちでは相手になりません!」
「馬鹿! お前が残ってもしゃあねぇんだよ!」
シャマルがはやての腕を掴んで無理やりにでも連れて行こうとし、ヴィータは怒鳴り声を上げてシャルの腕を掴んだ。あのシグナムも「お前たちもだ、残ろうとするな!」と声を荒げたことで、現状がどれだけ危険な事態に陥っているかなのは達も察した。
――舞い降るは、汝の雷光――
鍔迫り合いをこちらからやめ、一足飛びで後退。魔術化させた雷槍40本を一斉射出し、着弾させる。魔力爆発と放電が発生した。が、シュヴァリエルは「弱い、弱すぎる」障壁も何も張らず、その身1つで受けきった。Sランクの魔力程度じゃアイツの装甲に傷1つも付けられないか。
「おっと。その子供は置いて行ってもらおうか」
シュヴァリエルの目が、少年を抱えているアルフに向けられた。シュヴァリエルは管理局員相手に平気で攻撃を加えることが出来るような奴だ。アルフの骨の1本や2本くらいは容易く折るだろう。だが、そうはさせない。
「我が手に携えしは確かなる幻想!」
足りない魔力は外から補充するまで。アインスが旅立ったあの日、はやて達から頂いた魔力をここで使う。“魔力炉”へと魔力を流し込み、使用魔力を強制的にSSSランクへと引き上げる。
(退けば後に不利となる。躊躇わず勝負せよ、か・・・!)
ただ、全開で戦うには足りないのがネックだ。ジュエルシードを使えばいい話なんだが、ジュエルシードの魔力波は管理局のデータベースに登録されている。使ったら最後、テスタメント・ステアの正体が俺だと気付かれる。それだけはまだ避けておきたい。戦闘場所が海鳴市で、側にはやて達が居る。それが俺の最大のデメリット。
「ん? なんだ、この魔力の増加量は・・・?」
「お前を救うためのとっておきの1つだ!」
――女神の陽光――
“エヴェストルム”先端より火炎砲撃ソールを発射。SSSランク、しかも魔道化している上級術式となったことでシュヴァリエルも迎撃へと移った。竜巻を纏わせた“メナス”の柄を両手で握り、「崩山裂衝ぉぉっ!」真っ向からソールへと刺突。ソールは先端から粉砕され、勢いの衰えない削岩機のような竜巻が俺へと迫る。回避のために空へと上がり、「早く逃げるんだ!」なおも迷いを捨て切れていないはやてとシャルへと叫ぶ。
「「でも!」」
今にも泣きそうな表情を見せるはやてとシャル。フェンリルの消滅がよほど堪えているようだ。
――力神の化身――
――崇め讃えよ、汝の其の御名を――
上級の自己強化術式マグニを発動後、すぐに中級最強の汎用多弾砲撃ミカエルを発動。背より蒼翼22枚を射出し、シュヴァリエルへ向けて砲撃を連射する。奴は“メナス”や空いている左手での裏拳で迎撃し、迎撃できない砲撃はその身で受けた。が、「よろけさせることも出来ないか・・・!」歯噛みする。
「そこの犬耳! 逃げるならその子供を置いて行きな!」
「俺を放ってどこへ行こうって言うんだ!」
――破り開け、汝の破紋――
――集い纏え、汝の閃光槍――
――豊穣神の宝剣――
アルフへと突撃を始めるシュヴァリエルの行く手を遮るように俺は降り立ち、障壁・結界破壊、閃光系魔力付加、さらにオートで最善の斬撃を振るうことの出来るフレイを発動。どれも魔道化しているため、傷の1つくらいは付けられ、足止めも出来るはずだ。まずは全蒼翼を周囲へと呼び戻し、「撃てッッ!」22発の砲撃を斉射。
「っ!」
目の前がサファイアブルーに輝く魔力爆発に染まる。そんな中から「ヌルい!」シュヴァリエルが飛び出して来た。そこで二剣一対形態のツヴィリンゲン・シュベーアトフォルムにした“エヴェストルム”を振るった。フレイの効果によって、俺が振るった軌道が強制的に修正される。振り下ろした右腕はミシミシと音を立てて横薙ぎに、同様に振り落とした左腕はボキボキと刺突へと変更。
「よくこれで俺を斃そうなんて思ったな、神器王」
――風翔涛駆――
ポツリと呟かれた俺の二つ名。次の瞬間、俺は空高く舞っていた。きりもみしているのか視界が空と地と、グルグル回る。そして浮遊感から落下感へと変わる。体勢を整えようとしても体が動かないし魔術も発動できない。思っている以上に身体ダメージが大きいようだ。救いは思考が途切れていないこと。頭の方までパアになっていたらどうしようもない。
「ルシル!」
――閃駆――
あと僅かで地面に墜落と言ったところで、シャルが俺を抱き止めた。助かりはしたが、「・・・ば・・・か・・・」無謀なマネに対する文句も言いたい。しかし上手く発せない。揺れる視界の中、はやてやシグナム達、さらにはなのは達までもがシュヴァリエルに挑もうとしていた。止めようとしても声も出ない、体も動かない、魔術も発動できない。だが、そんなことも言っていられない。
(どの記憶でも持って行け!!)
俺は短期決戦へ持ち込むために創世結界内の複製品――そして記憶を犠牲にし、魔力量を大幅に上昇させた。
†††Sideルシリオン⇒イリス†††
ルシルがあっさりと戦闘不能に陥った。シュヴァリエルは咄嗟に暴風を纏って鳥のような姿になると、妙な軌道で振るわれた斬撃を真っ向から突っ込んでこれを迎撃。そしてルシルを空高くまで吹き飛ばした。“エヴェストルム”は粉々になって、蒼翼も消滅、騎士服も上半分が消し飛んで、ルシルの両腕は曲がっちゃいけない方向に曲がってる。
「ルシル!」
ヴィータの腕を振り払い、わたしは両脚を魔力で強化して閃駆でルシルの元へ。地面に激突するギリギリでキャッチ。頭や鼻、それに口からも血を流していて、目は焦点があってない。けど、「・・・ば・・・か・・・」馬鹿って言えるほどには頭はしっかりしているみたいで、少し安心。
――第二級粛清執行権限解凍――
なのは達が、男の子を抱えるアルフを護るようにシュヴァリエルと対峙。正直、ルシルをこうも簡単に戦闘不能に出来るシュヴァリエルを相手に勝てるなんて思ってない。けど、ここで退けないって思うのはみんな同じ。わたしも参戦・・・の前に、ルシルをシャマル先生の元へ連れて行こうとしたそんな時、抱き止めていたルシルからとんでもない魔力が発せられた。
――女神の祝福――
そしてサファイアブルーの魔力がルシルの全身を包んで、そのダメージを一瞬にして完治させた。ルシルは「ありがとう、シャル」ってわたしに微笑んでくれた後に立ち上がって、「でも早く逃げてくれ。俺でもそう長くは保たない」そう言って・・・
「その子たちに手を出すなぁぁぁぁーーーーーッッッ!!!」
――邪神の狂炎――
「っぐ・・・!?」
ルシルの姿が変わる。両腕両脚に、蒼じゃなくて真っ赤に燃える1mほどの炎の腕と脚を、そして背中から一対の炎の翼を創り出して、シュヴァリエルへと突撃した。その熱気に思わずたじろぐ。
「やっと本気か! 来いよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!」
シュヴァリエルがなのは達からルシルへと振り返って、目をギラリと光らせた。ここからが本番なんだって否応なく理解させられた。暴風纏うシュヴァリエルの大剣と、ルシルの両腕に付加されてる火炎の腕による斬撃と打撃の応酬が始まった。周辺の木々が燃えては暴風で消火されて、大剣で斬り倒されては炎で灰になったりと、一歩間違えば大災害になるような事態が繰り返される。
「・・・みんな! 今の内に逃げるよ!」
わたしはなのは達の側へと駆け寄って、ルシル達から早く離れようとする。シグナム達も「行きましょう、主はやて。お前たちも」この場を後にしようと、はやて達を諭す。
「そやけどルシル君をひとり残すなんて出来ひん・・・! だって、さっき・・・ルシル君・・・!」
はやてがボロボロ涙を流して今まで以上の迷いを見せた。さっきのルシルを見れば当然だよね。好きな相手だったなら尚更。わたしだって今でもあのボロボロの姿には全身が恐怖で震える。下手をすれば死んでた。というより、普通の魔導師だったら確実に死んでる。なのは達も顔を青くしていて、でもデバイスをしっかりと握り締めてる。
「それでも逃げるの! わたし達が居たって、あの闘いに干渉できないでしょ!」
――燃え焼け、汝の火拳――
――女神の陽光――
炎の両手の平から火炎砲撃を発射するルシルと、大剣を軽々と振るって斬り裂いて対処するシュヴァリエル。
――咲き乱れし、汝の散火――
炎の腕を振るって火炎弾をバラ撒いたルシルが「ジャッジメント!」ってコマンドトリガー(なのはのシュートや、フェイトのファイア、みたいな単一音声発動)を合図に、数十発の火炎弾を一斉爆破。包囲されていたシュヴァリエルが炎に包まれた。
――舞い振るは、汝の獄火――
ルシルはそこへ向けて100本以上の火炎槍を「ジャッジメント!」一斉射出。着弾してさらに大爆発が起きた。その爆風だけでこっちが吹き飛ばされそう。あんなふざけた魔力を有した大火力魔法の連発、並どころか局や教会騎士団の上位でも耐えらんない。なのに・・・
「おら、どうしたよ! お前の全力はこんなものじゃないだろうが!!」
シュヴァリエルは無事だった。火傷を負った様子も無し。でもロングコートだけはとうとう焼けて破れきっていた。
――無慈悲たれ、汝の聖火――
そんなシュヴァリエルの背後から蒼炎の龍が現れて、パクっとアイツを丸呑みした。ルシルは「第一級神罰執行権限・・・解凍!!」そう叫ぶと、その魔力がまた跳ね上がった。それはもう人間が出せるような出力じゃなかった。ルシルは目、耳、鼻、口、頭、指先、色んなところから血が噴き出してよろけた。もう限界なんて超えてるのが目に見えて判る。
「いや・・・いやや・・・もうやめて、やめてぇぇぇぇーーーーーーっっ!」
悲鳴を上げたはやてがルシルに向かって駆け出そうとしたのを「ダメ!」わたし達みんなで止めた。ホントはわたしだって駆け寄って止めたい。あんな無茶な真似、あまりに危険過ぎ。だけど出来ない。発せられる魔力があまりにも強大過ぎて、接近することすら難しいほどの衝撃波を生んでる。
「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想ッッ!! 星填砲シュヴェルトラウテ!」
詠唱したルシルの左脇に2m近い、質量兵器――無反動砲のような物が具現された。炎龍を暴風で吹っ飛ばしたシュヴァリエルが「それでこそだ!」大剣を勢いよく振り下ろした。
――剱乱舞刀――
「黄金極光!!」
真空の刃がいくつも放たれて、「っ!!?」ルシルを斬った。ルシルの右腕は肘の辺りから斬り飛ばされて血を撒き散らしながら宙を舞い、綺麗な長い銀髪も肩辺りでざっくり斬られて、他にも体の至る所から血が噴き出す。
「「「「「っ!!」」」」」
「ルシル・・・くん・・・!」
なのは達が顔を青くしてフラリと倒れ込みそうになったのを支える。ショッキング過ぎる光景だもんね。わたしもショックで倒れそうだけど、なんとか耐える。
「ぐぉあ!」
それと同時にルシルが放った黄金に輝く魔力砲撃がシュヴァリエルを直撃。着弾時に発生した魔力爆発と衝撃波にわたし達は悲鳴を上げることも出来ずに吹き飛ばされて、気が付けばルシル達から大きく距離が開けられてた。
「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想! 神剣ホヴズ!」
「面白れぇぇぇーーーーッ!」
ルシルは片腕が無い状態でも新たに別の武装――クリスタルのような剣身を持つ両刃剣を携え闘い続ける。また、シュヴァリエルの方も左の前腕部を失ってた。さっきの砲撃でようやくダメージを入れられたんだ。お互いに片腕を失ってもルシルとシュヴァリエルは斬り合う。それがあまりにも辛くて涙が溢れ出る。
「っ・・・い・・・つ・・・」
倒れていた体を起そうとした時、背中に痛みが走ってる。木に打ち付けられた所為だ。それでも懸命に体に起こして辺りを見回す。なのは達は完全に気を失ってるみたい。そしてシグナム達は「行かせて!」ルシルの元へ行こうとするはやてを押し留めていた。
『イリス! お願い! 体を貸して!』
シャルロッテ様の意識から思念通話が来た。その今まで聞いたこともないような必死さに「はいっ!」わたしは即答した。
『ありがとう!』
わたしの意識が沈んで、代わりにシャルロッテ様の意識が浮かび上がってくる感覚を得る。そして完全に体の支配権がシャルロッテ様に移った。わたしは自分の目に移る光景をシャルロッテ様視点で眺めることに。
「はやて、私が行く! シャマルは、ルシルの治療のスタンバイと、本局医療局に連絡! シグナム達はなのは達をお願い!」
そう指示を出すシャルロッテ様が駆け出す。手にはわたしのデバイス・“キルシュブリューテ”。向かうはルシルとシュヴァリエルの死闘の中。
「シュヴァリエルぅぅぅーーーーーっっ!」
怒声を上げるシャルロッテ様。シュヴァリエルの目線がチラッとだけこっちに向くと、「邪魔すんな、剣神!」シャルロッテ様のかつての二つ名で呼んだかと思えば・・・
――十裂刃風・乱刀――
鮫の背ビレのような風の刃を20、地面を走らせるようにこちらへ放った。フェンリルを消滅させた攻撃だ。シャルロッテ様は「見飽きてるよ、この攻撃は!」そう叫んで、刃と刃の狭間をすり抜けた。だけどすり抜けるための方向転換に消費したその一瞬が、ルシルとシュヴァリエルの死闘に干渉するチャンスを潰した。
「ごはっ・・・!?」
――轟風暴波――
「な・・・っ!?」
嘘みたいな魔力を発していたルシルが吐血したその瞬間に魔力が消失して、携えてた剣も消え、最悪な事に意識まで失ってしまったようで、シュヴァリエルが放った暴風の直撃を受けた。暴風は地面や木々を大きく穿ちながら、ルシルを何十mと吹き飛ばした。その圧倒的な暴力にわたしは思考停止。何も考えられないってなった時、
「あああああああああああああああああっっ!!!!」
――閃駆――
シャルロッテ様が叫んだ。視界が歪む。超高速で突撃した影響だ。一瞬でシュヴァリエルへと距離を詰めて、「私がお前を殺すッ!」絶対切断能力アプゾルーテ・フェヒターを発動。その能力を宿した“キルシュブリューテ”を振るった。
「クソッ、邪魔すんな!」
「それ以上喋るな! 口を開いていいのは断末魔を上げる時だけよ!!」
流れて込んで来るシャルロッテ様の殺意。そのどす黒さにわたしは得体の知れない感情に呑み込まれそうになる。シュヴァリエルはシャルロッテ様の鋭い斬撃を紙一重で避けつつ、「これでも喰らいな!」ズボンのポケットから何かを取り出して、こっちに投げた。シャルロッテ様はそれに向かって“キルシュブリューテ”を一閃・・・したのがまずかった。
『「え・・・!?」』
わたしとシャルロッテ様の声が被る。絶対切断能力が強制的に解除されたからだ。その原因らしき刀身に絡みついてるのは幾何学模様が描かれた『お札・・・?』だった。それでもシャルロッテ様は“キルシュブリューテ”による斬撃を繰り出した。
「馬鹿か。お前も、お前だからこそ理解しているだろ。魔導では魔道には勝てないってな!」
刃はしっかりとシュヴァリエルの首に当たったけど、傷1つとして付かなかった。
「大人しく寝てな!」
横薙ぎに振るわれる大剣による一撃。どういうわけか刃の方じゃなくて腹による打撃だった。シャルロッテ様が“キルシュブリューテ”を掲げて盾としたけど、なんてことないその単純な打撃で“キルシュブリューテ”の刀身が砕け散った。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
視界が回る。刀身の破壊の衝撃と、大剣の腹による打撃で殴り飛ばされたからだ。それでも地面に激突する前に体勢を整えて着地。シャルロッテ様がお札を剥がそうとしていたそんな時、
「――いやぁ! いやぁ! いややぁ! 目ぇ開けて! ルシル君! ルシル君!」
遠く離れたところからはやての慟哭の悲鳴が聞こえた。
『「ルシル・・・!?」』
「助けてシャマル! ルシル君を助けて! ・・・へん・・・して・・・、して・・ん・・・してへん! ルシル君・・・! ルシル君、息してへん! 息をしてへんのや・・・!」
聞きたくない言葉が聞こえた。そっちに意識が全て向いたわたしとシャルロッテ様。そこに、「悪く思うなよ、剣神。これが俺の仕事だ」シュヴァリエルの声がすぐ後ろから聞こえた瞬間、視界がガクンと揺れて・・・わたしは意識を失った。
後書き
ギュナイドゥン。メル・ハバ。イイ・アクシャムラル。
エグリゴリ三強の一角、シュヴァリエルとの全力決闘の結果、ルシル敗北! となりました今話。やはりジュエルシードが使用できなかったというのが一番大きいです。まぁ、使えたとしてもそう簡単に勝てるような相手じゃないですが。
ルシルどころかシャル(魔術師化すれば良いところまでイケたでしょうが)までもが負け、シュヴァリエルを止めることの出来る戦力はなくなりました。はやて達、そして少年はどうなってしまうのか。それは次回にします。だって文字数が・・・文字数がぁぁぁぁーーーー!!
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