東方紅魔語り
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異変終了ー日常ー
Part17 宴会の準備
「はぁ!?まだ到着してねぇの!?」
俺の声に、左右にいたチルノとルーミアがうるさそうに耳を塞いだ。
俺が今いるのは、博麗神社前の開けた場所。
今夜宴会が開かれる予定のここでは、あらゆる物がどかされており、準備する手前辺りで作業がストップされている。
ストップしている理由は、紅魔館組にさせる予定だからだろう。
さて、実は今、少し困ったことになっている。
俺は宴会の酒調達係に任命され、人里へ赴き、酒を買い、レミリア達が先に行っていると思って博麗神社に直行したのだが、霊夢に聞いてみると、どうやらまだ他のメンバーが来ていないらしい。
俺達は何度か休憩を挟みながら来たつもりだし、時間だって、今は4時くらいだろう。
だが、レミリア達は3時にここへ着けるように準備していた筈だ。
あの人達は空を飛べるし、ここまで30分もかからないだろう。
なのに、まだ来ていない。
何かトラブルがあったのだろうか。
スカーレット姉妹に咲夜さん、パチュリーさんが揃っているのだから、大抵の問題は解決できそうだが……。
うーむ……。
「はあ……たくっ、おっそいわね……」
お賽銭箱の上に座りながら、霊夢はイライラした様子で呟いた。
イライラするのは勝手だが、お賽銭箱の上に座るというのは如何なものか。
あれ、絶対にいつか天罰が下る。
「本当だなぁ。なあ有波、あいつら本当に来るのか?」
「まあ、はい。来るとは言っていたので、間違いないかと」
木の上に腰掛けた魔理沙が問いかけてくる。
あぁ、間違いない。確かにあいつらは来ると言っていた。
……本当に間違いないよね?
俺が居ない間に、『やっぱ行かなくていいかな』なんて事になってないよね?
信じるよ?
俺だけ仲間外れとかなってたら、レミリアお嬢様の寝室の前で泣くよ?
シクシクシクシク泣いてビビらせてやるよ。
お嬢様、吸血鬼のクセに怖がりだからな。
夜中にやれば効果抜群だろう。
その後はナイフの錆になるだろうが、死ななきゃ安い。
「あ、噂をすれば来たわね」
霊夢が呟いた。
その視線の先にある空を見てみると、四つの人影が見えた。
黒い悪魔のような翼の影に、宝石のような翼の影に、メイド服のようなものを着た影に、パジャマのような影。
四つ影は高速で動き、たった数秒で何百mもの距離を縮めて俺達の前に降りた。
あぁ、良かった。
ちゃんと来た。
レミリアお嬢様、命拾いしたな。
空から降り立ち、砂埃の中に佇む四人。
その先頭に立つレミリア・スカーレットを、お辞儀をして出迎えた。
「どうも、レミリアお嬢様にフランドールお嬢様。執事有波、ご命令通りに……」
近付いてくるレミリアお嬢様に頭を下げーー、
ていると、頬に鋭い衝撃が走った。
視界がハッキリとしないまま、地面に激突して俺の顔が沈没した。
い、ががががが……な、なん、何だ?
「お嬢様……バカを始末しました」
「ん、ありがと」
地面から顔を上げると、俺の前を素通りしていくレミリア、咲夜、パチュリーが目に映った。
位置的に……俺を蹴り飛ばしたのは咲夜だな。
俺が何をした。
と疑問を持っていると、フランがクレーターと化している俺の近くに降り立った。
「大丈夫?」
大丈夫?
この一言が、俺の心の奥深くに染み渡る。
おぉ、女神よ。
フラン様。貴女だけですよ、私の身を案じて下さるのは。
「えっと、お酒を有波が買って戻ってくるって思ってて、でもいつまでも戻ってこないから、咲夜が怒って……」
……あ、そういう事でしたか。
それは悪いことをした。
レミリア達が遅れてきたのは俺が理由だったのか。
「えっと、すみませんでした」
「……まあいいわよ。あんたの行動も、先を見通した結果だし」
レミリアお嬢様からはアッサリとした許しの言葉を頂いた。
フランは最初から怒ってなさそうだし、パチュリーは始めからどうでもよさそうな顔をしている。
咲夜さん……の顔は見えないが、ナイフではなく蹴りが飛んできた辺り、実はそこまで怒ってないのかもしれない。
ナイフでは無理だと判断して、物理に変えた可能性もあるけど、深くは考えまい。
考えない方が幸せになれるのだ。
「さて、集まったわね。紅魔館の連中には早速動いてもらうわ」
「何をすれば?」
「メイドは料理を、外に出れない吸血鬼姉妹はメイドのサポート。盛り付けはパジャマ魔法使いね」
「誰がパジャマだ、誰が」
霊夢がちゃくちゃくと役割を決めていく。
レミリアとフランの手伝い……。
……大丈夫、かなぁ?
って、あれ?俺は?
「霊夢さん、俺は?」
「あんたはぁーーー、『テーブルの設置』と『宴会場の掃除』、『料理と酒の移動』」
「意義あり!」
そう叫ぶと、霊夢にキョトンとした顔をされた。
なんだその表情は。
というか、なんだ俺のその仕事量は。
来なければ良かった、と今心の底から思っているぞ。
「なんで俺だけそんな仕事量が……?」
「執事だから当たり前でしょう?」
執事だから……だと?
じゃあそこにいるメイドはなんだ。
執事とメイドだと、俺の方が位が高そうな気がするのだが、その辺りはどうなんだ……!?
「別にいいじゃない。紅魔館の執事なんだから、それくらいは朝飯前でしょ?」
そこへレミリアからの援護射撃。
俺からしたら追加攻撃だが。
「執事として、それくらいは出来なさいよね」
更に咲夜からのコンボ攻撃。
じゃあお前は出来るのかといいたくなったが、多分できるだろうから反論できない。
「どっちでもいいけど、居ても居なくても変わんないんだからやりなさい」
地味にキツいパチュリーの一撃。
もうやめて!俺のライフはもう0よ!
そしてトドメに……。
「出来るよ!有波は凄いんだから、そのくらいなら余裕だよ!」
フランのクリティカルアタック。
エターナル・フォース・ブリザード。
効果は俺の心が折れる。
こうなると俺はもう断れない。
断るということは、フランのあの信用を粉々に打ち壊すということ。
そんな事が許されるか?
答えは否だ。
「くっ……了解しました……、ですがっ!」
俺は最速とも言える速度で携帯を取り出し、フランに向けた。
その御姿を画面に映し、画面内のボタンを押す。
パシャリという音と共に、キョトンとした表情のフランを携帯に収めた。
よし、OK。
この写真だけで、あと一ヶ月は戦える。
霊夢の課した任務など、乗り越えてみせようぞ。
「じゃ、全員位置に着いてね〜」
横になり、リラックスモードに突入しながら霊夢が言った。
紅魔館グループが次々と神社の中へ入っていく。
さて、俺の最初のお仕事は掃除だ。
竹箒を持って、携帯に声を発する。
「ゴミに対する竹箒の引力を100に」
そう言い、竹箒を天にかざした。
周囲のありとあらゆるゴミが竹箒に向かって集まってくる。
そう、俺はこの能力で紅魔館の掃除係を担当しているのだ!
ふははははは!さあ集まれ!掃除においてこの俺の右に出るものはいなーー。
その後、賽銭箱が竹箒に引き寄せられ、霊夢に半殺しにされた。
ゴミ認定かよ、博麗印賽銭箱。
手伝いをしていて、改めて認識した。
残念な事に、俺の能力は融通が効かない。
万能だが、融通はない。
先程も、掃除が終わり、さあ今度はテーブルだと意気込んでテーブルのある場所にワープした。
そうしたら、テーブルの上で料理の盛り付けをしていたパチュリーの前に落下し、氷漬けにされた。
何とか解凍してもらい、力を100にしてテーブルを持ち上げたら、神社の屋根を突き破ってテーブルが遥か彼方に吹き飛んだ。
もちろん血祭りだ。
100と0を操る、ということは。
操るものに制限はないものの、それらは最高か最低の状態でしか操れない。ということ。
更にこの能力は、一つのものしか操作できない。
例えば、テーブルを運ぶ際に力を100にして、結果としてテーブルを吹っ飛ばしてしまったが。
実はテーブルを吹っ飛ばした時、同時に俺の指も全て折れた。
最高の力で構成された反作用の力に、骨が耐えられなかったのだ。
俺の能力は、幻想郷で最強の能力であると同時に、最弱の能力でもある。といえるだろう。
どんな能力でも、俺の能力ならば防げる。
しかし、他の要素でやられる。
悲しいことだ。
幻想郷ハーレムなど、所詮は儚い夢だったということだな。
しかし、そんなこんなでテーブルの設置と掃除は終了した。
かかった時間はおおよそ一時間。
2回ほど殺されたのを鑑みれば、最速とも言える速さではなかろうか。
さて、次は料理を運ぶのが私の仕事……なのだが。
なんと、いや、案の定というべきなのか。
レミリアとフランが咲夜の足を引っ張りまくって、料理は今だに完成していない。
さっき見てきたが、咲夜が醤油とって下さいと言って、フランはソースを持ってきた。
因みにレミリアはデスソースだ。
殺す気かよ。
そんなこんなで、色々と難航している。
二人に囲まれて料理している咲夜は今までに無いほど幸せそうだったから、何も言わないが。
よって、俺は手持ち無沙汰。
つまり暇なのだ。
あまりに暇なので神社内をぶらぶらしていると、目の前から誰かがやってきた。
俺と同じく暇をしていた、霧雨 魔理沙。
彼女は俺を見つけた瞬間、目を爛々と輝かせる。
……俺の勘は当たるだろう。
面倒な事に巻き込まれる気がする。
魔理沙は此方に走ってきた。
逃げようと即座に携帯を取るが、アプリを起動する前に肩を掴まれた。
「なあ有波!暇ならさ、弾幕ごっこしようぜ!」
ほら的中。
フラグを惹きつける程度の能力を持っている俺に死角はない。
もちろん死亡フラグだがな。
「嫌ですよ。というか、私はスペルカードを一枚しか持ってない上に、弾幕なんて張れないんですから無理です」
何としても拒否しようとする。
が、魔理沙は下がらない。
「なら他の奴に作ってもらえばいいだろ?お前のスペル『ドッペルゲンガー』だって、フランが作ったものだって話だし」
誰だ、そんな余計な事をバラしおった阿保は。
「いやいやいや、フランドールお嬢様はともかく、私は一介の執事。他の皆様に作って貰えるとは」
「そういうと思ってな、レミリアとフランから新しいカードを貰ってきてあるぜ!」
オー、ガッデム!
有難うございますお嬢様方。嬉しすぎて今日3回目の死を味わいそうですよ。
というか、先んじて準備していた所を見ると、どうしても俺を捕まえる気だったのか。
あっはっはっはっは……。
……ファ○キュー。
「ほら、これだぜ」
魔理沙の手から2枚のカードが手渡された。
フランが作ったカード。
透符『ミスディレクション』
レミリアが作ったカード。
紅符『紅魔城シャボンレイン』
……流石です、レミリアお嬢様。そのネーミングセンス。
その点フランのは……また幻とか、そういう類かな?
力押しと見せかけて、結構頭使ったスペル使うよな、フランって。
レーヴァテインは完全なゴリ押し型だけどね。
「さて、外に行くぜ〜」
二つのカードを見ながら、魔理沙に首根っこを掴まれて外に引きづりだされた。
……はぁ、鬱だ。
「さて、始めるぜ!」
神社の外に出ると、そんな言葉と共に、魔理沙は箒に跨って浮かび上がった。
向こうが空を飛んでいる時点でこっちとしては不利なんだが……まあいい。
魔理沙は様子見をするようで、弾幕を張らずに空中をゆっくり旋回している。
俺が最初に使うスペルカードは『紅魔城シャボンレイン』だ。
お力をお貸しください、レミリアお嬢様。
「紅符『紅魔城シャボンレイン』」
宣言と同時に、俺を中心に赤い結界が張られた。結界はカプセル状に一瞬で膨らみ、魔理沙と俺の両方を結界に閉じ込めた。
更に、膜のようなものが俺の肉体を覆う。
それらの下準備が終わった後、上空に赤い球型の塊が現れた。
その塊は、ゆっくりとした速度で降下を始める。
「んー?なんだこれ」
魔理沙は首を傾げて、降下を始める塊をすり抜けつつ呟く。
なんだこれ?とは俺もいいたい。
多分、張られた結界は魔理沙の逃げる範囲を狭める為のもので、膜は自分の攻撃に巻き込まれないようにする為のものだとは思うが……。
いかんせん重要な攻撃が遅すぎる。
いくら大きくても、当たらなけりゃ意味ない気がするが……所詮はレミリアか。
と、レミリアをdisっていたが、次の瞬間、その評価を覆す事となった。
大きな塊は地面に落ちた瞬間、四方八方に飛び散り、全方位に高速で襲いかかった。
魔理沙は慌てて、バランスを崩しながらも身を捻り、飛んできた飛沫のような弾幕を紙一重でかわした。
が、その飛沫弾幕は周囲の結界に当たると、反射して今度は内部に向かって高速で襲いかかった。
俺に当たった攻撃も、同じように反射される。
更に、飛沫と飛沫がぶつかると、混ざり合い、違う方向に向かって再構成されて放たれる。
弾幕カーニバルだ。
あらゆる方向からランダムで襲いかかる高速の銃撃。
結界に阻まれ、逃げ場はない。
流石レミリアお嬢様!
こんなものを作り出すとは、そこに痺れる憧れるぅ!
余裕の表情で見学する俺に対して、魔理沙はかなり辛そうな表情をしていた。
魔理沙はスピード型で、小回りが効かないのだろう。
上、下、横、斜めから違うタイミングで逃げ場を埋め尽くしていく弾幕をかわすのは、厳しいか。
ふははははは、逃げろ逃げろ!
俺に逆らうとこうなるのだ!思い知ったか!
と調子に乗っていると、俺の体が後方に吹き飛ばされた。
地面を転がり、結界にぶち当たって運動をやめる。
あいたたたた……な、なんだ?
見てみると、魔理沙はよけつつも弾幕を張り、俺に向かって攻撃を放ってきていた。
何発かは俺の弾幕に相殺され届かないが、数発は俺の元まで突破してくる。
結界があまり大きくないが故の障害、というやつか。
というか、この膜はあの飛沫にしか反応しないのな。
相手の攻撃も反射してくれてもいいのよ?
そんなこんなで20秒経ち、俺の弾幕は力尽きたように空気に溶けて、消えた。
タイムアウト。
時間制限式だったか。
魔理沙は無傷で、額の汗を拭いつつ旋回している。
くっそ、おちょくられている気分だ。
「ふー、危ない危ない。厄介なもの作るなぁ、レミリアも」
くっ……ふふっ……ま、まだだ、まだ終わらんぞ。
「透符『ミスディレクション』」
今度はフラン様のだ。
フラン様。そのお力を私めに授けて下さい!
宣言すると、青い球が五つ、俺の周囲に現れた。
しかし、それ以外には何もない。
え?何これ?まさかこれだけ?
この五つの球で戦えと。
流石フラン様!エコですね!
任せて下さい、この攻撃で魔理沙を仕留めてみせますとも。
覚悟を決めて、いざ魔理沙に視線を送ってみると……。
魔理沙は動き回っていた。
まるで俺には見えない何かがそこにあるかのように、細かい動きで何かを避けているかのように。
「くそっ、これも中々……っと!」
何か言ってる。
何をやっているんだあいつは。
とりあえず近くに飛んでいる青い球を投げ付けた。
五つの球はほぼ同じ速度で飛んでいく。
しかし、魔理沙はそれに気付いていないようだった。
あと1mほどで当たる、という所まで球が接近した所でようやく攻撃に気付いたようだった。
慌てて上空に逃げ出す魔理沙。
しかし、ホーミングなのか五つの球は魔理沙を追いかけた。
それから暫くの間、その流れは続いた。
魔理沙は何もない所で必死に動き、球が近付いてくるとハッとして、また逃げて、また動き回り。
そのループを繰り返している。
もしかしてと思うが、もしや魔理沙の目には彼女にしか見えない弾幕が張られているのではないだろうか。
つまり、幻覚の弾幕。
魔理沙は実態の無い弾幕をかわし続けているのだ。
その幻に気を取られている間に、本物の攻撃である球が奇襲する。
先程までの様子を見ていると、どうやら本物の球にも策が講じられているようだ。
恐らく、球が近くに寄ってきた時だけ見える、というものじゃないだろうか。
だから魔理沙は普段はかわし続け、球が近付いた時だけ本物に反応してかわす。
流石フラン様やでぇ。
そこに痺れる以下省略!
「あぁ、もう拉致があかないぜ……!しょうがないし、そろそろ終わらせるか!」
そう言うと、魔理沙は懐から何かを取り出した。
俺の知識が正しければ、あれは恐らく八卦炉。
……あ。
「マスター……」
「ちょ、ま、落ち着くんだ。なあ、落ち着こう。深呼吸をしよう。ねぇ、俺はただの人間だよ?ただの人間にスパークは不味いって。それは不味いだろう?」
俺の必死の説得。
しかし、八卦炉の発射口が光を帯び始めてから、俺は悟った。
あぁ、やっぱり、俺の死亡フラグは回収されるんだよね。
「……生命力を100に」
次の瞬間、俺は灰になった。
後書き
主人公のプロフィール。
名前:有波 風羽化
性別:男
能力:無し
容姿:赤いTシャツに、灰色のデニムシャツを羽織っている。薄青いジーンズを履いており、靴は黒いローファー。
目は一般的な黒。髪も黒く、襟足や耳辺りの髪を伸ばしているウルフカットスタイルである。しかし、瞳の色が最近になって赤く変貌しつつある。
性格:ビビり且つ卑怯者。真っ向からの戦いにこだわったりはせず、勝てればいい、という思想を持つ。
負けそうな場合は全力で逃げる。例えそこに大切なものがあっても逃げる。
有波の所持品。
携帯。
携帯は『0と100を操る程度の能力』を持つ。
中にあるアプリを起動すれば、その能力を使用できる。
また、携帯自身には他の能力の効果を受け付けないジャミング機能も搭載されているが、馬鹿は気付いていない。
というか、気付いても対してメリットがない。
作者の一言。
ストーリーが進むにつれ、様々な機能が有波に搭載されていくだろうけど、雑魚は雑魚である(断言)
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