極短編集
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短編100「月までの値段」
前書き
100作品目となりました。
宇宙協会の裏手からバイクを出す。走り出そうとした瞬間!
キキー!!
「バカやろ!!危ないだろ」
俺は文句を言った。
道端から飛び出して来た少年。8歳くらいか?
「あ~あ、チョウに逃げられたあ!」
その時は、手には虫捕り網を持っていた。それから……
「またお前か」
少年とは、それからの付き合いだった。宇宙協会の裏手で、サボっていると少年に良く会った。いつものごとくサボっていると……
「これで月に行ける?」
少年がポケットから硬貨をだした。出した硬貨は、全部で157円しかなかった。
「それじゃあ、いくらなんでも足りなすぎだ!」
少年はポケットに硬貨をしまった。
「月に行ってどうする?」
「お父さんに会う!」
俺はこの手の話が嫌いだった。面倒臭いし、自分の事でも大変なのに!と思うからだ。
「そうかあ」
俺は適当に相槌を打った。
「ねえ、お兄さんにとって宇宙ってなに?」
『俺にとっての宇宙かあ……』
宇宙協会は民間組織の会社だった。正式名称は「宇宙旅客協会株式会社コスモツアーズ」と言った。
『宇宙に行く意味……』
今の時代、木星まで簡単にいけるようになった。宇宙協会は、単なる旅行会社の一つだった。
「だってお兄さんは、宇宙飛行士なんでしょ?」
「昔の動画の見すぎだ」
そして俺は、ただの旅行ガイド兼運転手にしか過ぎない。大型ポーター(星間宇宙船)に客を乗せ、アチコチの惑星を見せて回るのが俺の仕事だ。
でも、そんなある日……
「リストラかよ~!!」
突然の解雇だった。
『それでも退職金が出ただけましか』
と、俺は思った。
宇宙協会の裏手からバイクを出す。
キキー!!
「また、お前か!?」
俺は文句を言った。
道端から飛び出して来た少年は……
ヒックヒック
と、大粒の涙を出して泣いていた。
「アイス食えよ!」
「いいの?」
「俺のおごりだ」
俺は少年をバイクに乗せ、近くの海に来ていた。
「ママが居なくなった」
「そうか」
「僕、どうしよう……」
俺は、その足で警察に少年を連れて行った。
「では、こちらで対応します」
警官は事務的に言った。
『ま、これでもかなり助けたほうだよな』
俺は警察を後にした。
『ねえ、お兄さんにとって宇宙ってなに?』
俺にとって宇宙は、ただの職場だ。
『だってお兄さんは、宇宙飛行士なんでしょ?』
昔の動画……
その昔、親父と映画館で見た『アストロノーツ』の映画を思い出した。宇宙飛行士たちは幾多の困難にも立ち向かい、乗り越えていった……
「売ってくれ!」
気付くと俺は中古屋に居た。俺はまとまった金で、中古の小型ポーター(星間宇宙船)を買った。
「よっ!来たぜ」
「お兄さん!?」
俺は、しばらくしてから、少年が収容されている施設に行った。施設に行く前に色々な手配をした。あとは少年を連れて行くだけだった。
「これがお兄さんの宇宙船?」
「ああ、さあ乗った乗った!」
俺は、少年を小型ポーターに乗せた。
小型ポーターは音もなく浮かび上がると、地球脱出速度まで一気に加速した。俺は月まで真っ直ぐに飛んだ。
「毎度!料金は157円になります」
「えっ!?」
少年はビックリしていた。月に着いた。
「冗談だ!さあ、そこにお父さんがいるぞ!」
月の宇宙港に少年の父親がいた。少年を父親に手渡す。少年と手をしっかりとつないだ父親は、何度も何度も頭を下げていた。
それをきっかけに、俺は……
「火星のタイタンまで!」
「分かりました。ところで、星間ワープは使いますか?その場合は時間は早いですが、割高になりますが?」
星間個人タクシーを始めた。
なんて事のない毎日。そんな日常をつまらなさを、誰かのせいにするのではなく、自分から面白さを求めてみたいと思った。そう、ささやかだが人生に、自分から向き合ってみたいと決めたのだった。そう、あの日見た……
映画の主人公のように。
おしまい
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