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極短編集

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短編88「男の子たちの挽歌」

 小学から中学になったばかりの頃。僕たちは、何も変わらないハズなのに、いつの間にか変わっていってしまった、そんな頃の話しだ。

◇◇◇

 狙撃の体勢になって、かれこれ20分がたったが、目標はまだ現れなかった。《僕は今、迷彩に身を包み、木の上にいた。太い枝に腹ばいになり、エアライフルを構えている。ライフルはM1カービンだ。そして、20倍スコープがついていた。今回、僕がスナイパーの番だったので、この銃を持たされていた。僕の銃はガスガンのARー7。前方の遊撃部隊のコウに貸していた。汗が額から垂れる。

パスッパスパスパス!

 散発的に、エアガンの音が遠くに聞こえ、それが段々と近付いてくるのがわかった。今回のサバイバルゲームは、相手を全滅させた方が勝ちだった。スコープでのぞくと、撃たれた奴らがモルグ(死体置場)と呼ばれた場所に集まって、次のゲームに備え、銃の手入れをしているのが見えた。
 中学1年になって、銃遊びも小学時代とはいっぺんした。今まで撃ち合っていた銀玉鉄砲とは違い、エアガンやガスガンが主流になった。弾も、BB弾というプラスティックの弾になった。
 銀玉鉄砲が、ガンダムのザクのマシンガンなら、エアガンはガンダムの持つ、ビームライフルに匹敵した。精度も射程も全く違った。
 スコープを動かす。向こうから仲間のウッチーが、走って逃げてくるのが見えた。距離にして、200メートル先だ。ウッチーは両手に銀玉鉄砲を持っている。ウッチーは言っていた。

「所詮、銃は腕だよ!!」

 と、豪語していた。エアガンの射程圏を知っているウッチーは、一度、撤退しアンブッシュ(待ち伏せ)をかけるようだ。キョロキョロとあたりを見回し、植え込みに身を潜めていた。
 中学になり、新しく仲間になった奴らは、国鉄の巨大団地に住んでいるのが多く、今日は奴らのホームタウンでの戦闘となった。
 新しい仲間たちは、線路を挟んだ向こう町の連中だった。向こう町の連中と友達になってからは、銃は、銀玉鉄砲から、エアガンになり、さまざまなエアガンの存在を知った。そして、撃ち合いも作戦を立てる、本格的なサバイバルゲームになっていっていた。

 仲間のテラも走って来た!ウッチーが植え込みから合図する。テラは、反対側の植え込みに潜み、ワルサーMPLをコッキング(撃てる状態に)した。今回のサバイバルゲームは、向こう町対、こっち町だった。
 向こう町の連中は、新しいエアガン、ガスガンの使い方を良く知っている連中だ!新しい銃での戦いに不慣れな、こっち町の作戦は、相手の出方を待って、少しずつ撤退しながら相手を減らしたあと、総攻撃をかけるものだった。
 向こう町と、こっち町は、巨大団地の西と東に分かれ、陣地をとっている。そして、東の一番端に僕はいた。

パスッパスパスパス!

 という、エアガンの音の後、仲間のコウが走って来て、団地の階段を駆け上がり、階段からARー7を構え迎撃体勢に入った。こちらは僕を入れて、残り4人だった。迎え撃つは、あっち町の10人だ。撤退に釣られて、出て来た目標をねらう。それがスナイパーの役目であり、今回の作戦の要だった。
 このライフルは、こっち町、最強だ。バネも強化してあり、50メートルは飛んだ。当時、飛距離はあっても、有効射程距離(当てられる距離)は短く。銀玉鉄砲で5メートル。エアガンでも、10から15メートルで、ガスガンで20メートルだった(夏場のみ)

パスッパスパスパス!

 弾が撃ちこまれてくるのが見えた!!敵は、6人でフォーメーションを組んで、歩いてきた。辺りを慎重にうかがっている。
 このライフル、M1カービンは市販のエアガンではなくカスタムだった。今では、規制されているが、当時はカスタムライフルで、100メートルなど狙えるのが売っていた。もちろん、僕たちには売ってはもらえない。年齢制限があったからだ。この銃は、コウの兄貴のだった。

パス!!

 僕たちの射程圏内に入った所で、まず僕が撃った!まず、前方の一人にヒットした。僕の狙撃に合わせて、階段上のコウジが連射した。

 コウに貸した、ARー7はガスガンで、いちいちエアガンのように、コッキングしなくてよい。相手が次の弾をこめる間にヒットさせた。コウは2人にヒットさせたあと、階段に身を潜めた。これで敵残り7人だ!
 僕たちは、迷彩服(カモフラ)を着ていた。僕のは木々に隠れるようにウッドランドパターンだった。建物に隠れる奴は、当時、出たばかりのモノトーンのシティパターンを着ていた。そうそう、その他には、全身真っ黒の特種部隊。ベレー帽をかぶって、グリーンベレー!南ベトナムだったか、タイガーストライプというのもあった!だいたいは、アメ横の仲田商店で買った物だが、その店以外にも何軒もあった。服は、中古を良く買った。中には、本当に戦場で撃たれて、穴空き血糊付!(どうみても、着ていた人は生きてないだろ!?)もあった!足元はブーツ。頭は、キャプがほとんどだが、ヘルメットの奴もいた。リュクは背嚢(はいのう)といい、米兵仕様ならアリスパックを背負っていた。
 階段のコウジに対して、敵の攻撃が始まる。敵の2人は、コウの隠れた階に、弾を撃ちこむ。残り1人は階段をあがっていった。それをみたテラが、階段をあがる1人に弾を浴びせる。ヒット!それに気付いた2人が、テラの隠れる植え込みに、弾を撃ちこんだ。僕もライフルで援護する。
 エアガンには、エア式とガス式があった。エア式は、ポンプ式とも言って、空気を圧縮して弾を発射した。ガス式は、今はないが、当時はフロンガスが使われていた。寒い時期は、ガス圧が下がってしまい、ショボイくなるが、夏場は最強だった。
 激しい交戦状態になった。コウとテラで、残り2人をはさみ撃ち合いになる。

パスッパスパスパス!

 BB弾が水をまくように撃ちこまれ、敵の残り部隊も援護に加わってきた!敵残り5人だ!
ガスガンが、エアガンに優れている所は、その連射性だ!エアガンは一回ごとに、ポンプをコッキングする。しかしガスガンなら、引き金ひとつだ!

パスッパスパスパス!

 敵の、フルオートガスガン、M76インターセプターが火を吹いた。コウがやられた!テラが撤退する。僕はライフルで2人ヒット!!残り3人。
 ガスガンには、セミオートとフルオートがあった。一発づつ撃てるのがセミオート。引き金を引いてる間、撃てるのがフルオートだ。フルオートは、まさに機関銃だった。
 テラの撤退に合わせて、敵は歩を進める。その背後にウッチーが飛び出した!テラが敵と相打ちになる。その瞬間、ウッチーが一人をヒットした!残り1人。
 ウッチーの銀玉の射程は5m!とてもじゃないが、かなわない。ウッチーは、そのまま反対の植え込みに飛び込み、僕の方へ逃げてきた。植え込みをはさみ、敵のブッチャーが、ウッチーを追った。植え込みが切れた!その隙を見てブッチャーは、M76を構え、植え込みの先にめがけ連射する!

ズッパッパッパッ!

 間一髪で、ウッチーは、僕のいる木の幹の裏に飛びこんだ。僕は、ほぼ真下にいるブッチャーに向けて引き金を引く!

カチンッ!

 しまった!!なんてこった弾切れだ!ライフルに弾を装填する時間はない。僕は、ブッチャーの前に飛び下りた!すぐさま、ライフルの銃身で相手のM76を押さえた!僕は、白兵戦に持ち込んだ。

「ミズキ、何するんだよ!!」

 と、ブッチャーは叫ぶ。僕はそのまま、相手の腰に、自分の腰を入れて跳ねあげた!

「これが、こっち町の戦いだ!」

 ブッチャーを投げ倒すと、幹から飛び出したウッチーが、銀玉鉄砲でヒットした!こうして、向こう町とこっち町の戦いに決着が着いたのだった。

◇◇◇

 このサバイバルゲーム中に、ちょっとしたアクシデントがあった。次のゲームをしようとした時の事だ。上級生が数人で、近付いてきた。

「よお!なんか、いいもん持っているなあ。貸せよ!!」

 と、ブッチャーのM76を取りあげた。ブッチャーは嫌な顔だが、文句はいえない様子。どうやら、同じ小学校の先輩らしい。

「お前のも貸せよ!」

 と、僕にも言ってきた。僕は、こいつの事は知らない。だから、一発かましてやった!一人を殴り倒してしまえばあとは簡単だ。そのあとは、こっち町の連中が残りの上級生をボコボコにした。

「あのさあ、関係ないだろ!だいたいお前、誰だよ!!貸してもらいたいなら、ちゃんと頼みな!!」

 と、僕は上級生に言った。ブッチャーたち向こう町の連中は、かなりビビッていた。こっそり聞いてみると……報復を恐れているしい。じゃあ、っていう事で……

「あいつらに手を出したら、どうなるか分かるか?(バッチ見て)お前、〇組だな!文句あるなら、一年〇組までこいよ!タイマンはってやるよ!!」

 と、凄んでおいた。当時のケンカは、一対一のタイマン勝負!気合があれば勝てるのだ!!とりあえずは、これで大丈夫!!パッと見、どうみてもグループの頭を張る奴じゃなかったし。まあ、こっちも先輩に知り合いいるし、ケンカはタイマンなら、たいてい勝てるからいいか!と思っていた。その後、この出来事は、向こう町と、こっち町の結びつきを強める事になった。
 小学時代とは違う、中学時代。一見無邪気そうな中に、無数の駆け引きがあった。ただのケンカは、暴力性を増し、うそ、虚言まじりのトークも多くなっていった。密やかな暴力と、不合理なルールの世界。そういう中を抜け……



 男の子たちは、少年へとなっていったのだった。

おしまい
 
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