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エターナルトラベラー

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第三十五話

side フェイト

今私の眼前には強制起動させたジュエルシードが6個。

起動時の広範囲魔法は久遠が変わってくれたから私の魔力は十分。

「フェイト!」

アルフがバインドで捕まえた一つの竜巻のようなジュエルシードの発動体へ私はバルディッシュの矛先を向ける。

『グレイブフォーム』

バルディッシュが変形して砲撃魔法の発射形態へと移行する。

「フェイトちゃん!危ない!」

捕らえた一体に気を取られた瞬間に他の発動体からの、その巨体を利用した体当たりのような攻撃が迫る。

「あっ…」

私は一瞬反応が遅れた。

迫り来る水流にダメージを覚悟するが、一向に衝撃がやってこない。

それどころか、私を包む暖かな二本の腕。

「ゆかりお母さん…」

「フェイトちゃん、大丈夫だった?」

ゆかりお母さんがその身を挺して私をその攻撃の直撃から反らしてくれた。

「だ、大丈夫です」

「そう」

そう言えば、アオ達の話だとゆかり母さんは魔導師じゃないって言っていたけれど、だったらどうやって空を飛んでいるのだろうか、などという疑問が一瞬脳裏に浮かんだが、それも一瞬。

私は直ぐに今の最優先事項を思い出し、その疑問を思考の隅に追いやった。

ゆかり母さんから離れてもう一度バルディッシュを構えなおす。

アルフと久遠がバインドで一体ずつ敵の動きを止めてくれている。

迫り来る余波はゆかり母さんが捌いてくれている。

私は今度は安心してバルディッシュからジュエルシード封印するために魔力砲撃を放つ。

「サンダーーーーレーーイジ!」

動きを止めていた二体のジュエルシードの暴走体を封印し終える。

全身に魔力消費の倦怠感に包まれる。

だけどここで弱音を吐くわけには行かない。

残り4つ。

余り時間はかけられない。

そう感じていた時、上空からこの結界内に突如として現れた人影が私に話しかけてきた。

「わたしも手伝うよ、フェイトちゃん!」

「な、なのは!?」

突然現れたなのはが私に近づいてきてそう言った。

「二人で一気に封印。アルフさんもくーちゃんもお願いね!」

「おう!」
「くぅん!」

なのはに激励されて二人は今度は二体ずつジュエルシードをバインドで拘束した。

『カノンモード』

なのはのレイジングハートが変形して射撃体勢に入る。

「いくよ!フェイトちゃん!」

『サンダーレイジ』

なのはの声に応えるようにバルディッシュがチャージを始める。

私も気を引き締めて術式に集中する。

「せーの!」

合わせてねと、なのはが一瞬私に目配せをする。

「ディバイーーンバスターーー」
「サンダーーーレーーーイジ」

気合一閃、私となのはが放った魔法はジュエルシードを確実に捕らえ、封印した。

「やった?」

海中から現れる残り4つのジュエルシード。

「あらら、俺達の出番は無かったかな?」

不意に上から声が聞こえた。

振り向くとそこには下降してくるアオとソラの姿が。

その姿に少し安心する私が居る。

それでもジュエルシードを持っていかれる訳には行かない。

私はバルディッシュを牽制の為にアオ達に向けようとしたところにアオが大声で叫ぶ。

「危ない!後ろだ!」

え?

その声に振り向くと空気を切り裂かんばかりの速度で放たれた無数の砲撃魔法。

いつの間にか張られていた結界が破壊されている。

マズイ!直撃する!

しかしその魔法は私に直撃する事は無かった。

先ほどはゆかり母さんが、今度はアオが私を抱きしめるようにして庇ってくれていたのだから。


side out


俺は遠距離から高速で放たれた砲撃魔法の直撃から寸前の所でフェイトを抱きかかえながら射線上から身を引いた。

その砲撃の威力はディバインバスター級でその数およそ12本。

それが全て俺達への直撃コースとジュエルシードから分断するように掠めて行った。

「何だ!?」

直ぐに皆の無事を確認しようと視線を走らせる。

なのはは自力で回避、母さんはソラが、アルフは久遠がそれぞれ助けたようだ。

全員の無事を確認している一瞬の間に猛スピードでジュエルシードに飛来する影が。

あのイタチだ。

今の砲撃で体勢を崩された俺たちはソイツの行動を邪魔する事も出来ずにジュエルシードへと接近を許してしまった。

イタチに取り込まれるジュエルシード。

GRAAAAAAAAAAAAAAAAAA

咆哮が轟くと同時にイタチを中心にして円形に光が通り過ぎる。

まばゆい光で眼を奪われていると、発光が収まったそこにはその体積を3倍ほどに増やし、尻尾の数も9本に増えた黒いイタチの化け物が。

真紅に光る双眸がこちらを睨み付けている。

「クロノ!管理局員で結界と、結界の強化をお願いできるか?」

俺の問いかけにすぐに俺の前に通信ウィンドウが広がる。

『すでに送っている。彼らも負傷が完治しているわけではないから直接戦闘こそ出来ないが、結界の展開くらいならば大丈夫だ』

「さすが執務官」

直ぐに俺たちを包み込むように何重にも結界が展開される。

遠目にはその結界の一番外側から一つ内側でデバイスを掲げている管理局員が見て取れる。

『当然だ。だが、これはまずい事になった。あのイタチの化け物、先ほど封印した全てのジュエルシードを吸収したようだ』

そんなのは見ればわかる。

先述の通り、今戦えるのは俺達だけという事だが…

GRAAAAAA

しばらくの間対峙していたかと思うとその身から溢れる無尽蔵とでもいうべき魔力を使い、こちらに向けて砲撃を連発してくる九本の尻尾をもつイタチ。

なんかもうイタチではないしこの際九尾でいいか。

九尾の攻撃を俺はフェイトを抱えたまま右に左に避けて結界の境へと向かって飛びのいた。

その間に攻撃は大量のスフィアをばら撒く面攻撃へと移行している。

それを避けて結界の境ぎりぎりまで飛翔すると母さんがアルフを連れて同じように飛んできた。

「あーちゃん!」

「母さん!悪いんだけどフェイトをお願い。一緒に結界外へと出ててくれ!クロノ、聞こえているか?詮索は後にして三人を結界外へと転送してくれ」

『……事情は後で話してくれるんだろうな?…エイミィ、3人を転送、急いで』

モニター越しにエイミィさんに指示を出すのが見て取れた。

「アオ!私も戦えるから、一緒に!」

「ダメだ!今のフェイトじゃあの弾幕の全てを避ける事は出来ない!ガードしてもバリアの上から落とされる!」

「で、でも!」

「フェイトちゃん、あーちゃん達を信じて」

「ゆかり母さん…」

「フェイト!あたしもアオに賛成だ。あたしたちじゃアオ達の足手まといになる」

『ロードカートリッジ、ディフェンサー』

薬きょうが排出されて攻撃を防御する。転送には一瞬でもその場で停止しなければならず、その時間を稼ぐためだ。

三人の足元に転送魔法陣が形成される。

「アオ!無事でいて」

「ああ、任せておけ」

「あーちゃん、ソラちゃんとなのちゃんを任せたわよ」

「勿論だ」

「絶対、絶対。無理はしないで!」

フェイトの叫びにもにた懇願の声を最後に3人は転送されていった。

さて、俺は障壁を消して未だにその数が衰えない弾幕をすり抜けるようにして九尾へと飛んでいく。

「クロノ。あの化け物のスキャンは出来ているか?」

前方に再びウィンドウが現れる。

『ああ、いまエイミィが解析を終えたところだ』

「結論は?」

『やはり現地の生物を取り込んでいるだろうと言う結論だ。その体にわずかながら生体反応が出ている。純粋な魔力の塊では無い事は明らかだ』

「今でも元の生物の生物機能、代謝なんかは健在なのか?呼吸なんかは?」

『エイミィ』

クロノがモニタ越しにエイミィさんに回答を譲る。

『はいはーい。結論から言うとその可能性は高いよ~。今までのジュエルシードの暴走体、その中で現地生物を取り込んでいた奴らのデータ分析で、ベースにした生物をそのまま変質させている感じだからね』

なるほど。ならばやりようがある。

『今から僕もそちらに向かう』

「怪我は完治しているのか?」

『くっ…だが、執務官として見過ごすわけには行かない!』

正義感が強い事はいいことなんだが。

「クロノはこの弾幕の中、被弾無く攻撃出来るのか?」

しばらくの沈黙。

『……無理だ』

「ならば俺たちに任せておけ」

『しかし…』

「俺たちなら大丈夫だ。…ただ、原生生物は最悪殺してしまう事になってしまうかもしれないがな」

『…それは仕方が無い事だ』

このままあの九尾を放置していると、その被害は莫大なものになるだろう。

全てを救う事なんて神にしかできず、結局一を切り捨てて九を救う事しか人間には出来ないのかもしれない。

なのはとソラ、それと久遠が何とか抑えてくれている戦場へと戻る。

相手はその無尽蔵の魔力に物を言わせた弾幕戦のみとは言え、その威力が此方の同系の魔法の数倍もある。

実際、距離により術式が甘くなり、魔力の結合に綻びが見られる遠距離で、結界に当たる威力でさえその数と威力で下手をすればその結界を抜けかねない。

まあ、そこは流石に管理局の魔導師が頑張ってくれているのだが。

【なのは、ソラ。戦況は?】

俺も手に取ったソルでバスタークラスの砲撃を入れながら念話を繋いで確認する。

【ダメだよ。シューターは言わずもがな、バスターすらシールドで止められちゃってる】

【ブレイカーでも通るか分らないし、相手の動きも早いから当てられないかも】

なのはとソラからそれぞれ返信された。

【弾幕が濃すぎてなかなか相手に近づけないし】

【斬りつけてもシールドに阻まれて必殺の一撃とは行かないと思う。】

今までですら厄介だったのがさらに厄介になったものだ。

【どのくらいの威力の魔法ならあいつの障壁を抜けると思う?】

俺の質問に攻撃の手を緩めずに戦いながらなのはからの返答。

【最低フルチャージのブレイカー3発分。…ううん4発かな?】

核シェルターすら余裕で破壊できそうな攻撃だ。

【だけど、さっきも言ったけれど、相手の動きを止めないと当てられない。バインドなんかもそのバカ魔力ですぐさまレジストされるだろうし、そもそも動きが速くてバインドを行使できない。設置型のバインドもどうやってか当たらずに避けているし】

【そっちは俺が何とかする。なのはとソラはブレイカーの準備をしてくれ。影分身を使用して、それこそ辺りの魔力が枯渇するくらいの勢いで】

普通は自分の使いきれ無くて放出してしまった魔力を集めて再利用する収束砲。

自分の匂いが残っている物の方が集めやすいからだが、効率が悪く、時間がかかるだけで、決してそれ以外の魔力を収束できないわけではない。

それと、一人で扱う事の出来る魔力量にも限界がある。

しかし、ここで影分身だ。

最初にチャクラと魔力を均等に割り振ってしまう影分身。

普通は行使できる力の源が減少するので高威力攻撃の行使には相性が悪い。

しかし、これと周りの魔力を収束して放つ収束砲は自身の魔力量が少なくても周りの魔力をかき集めるため相性が良い。

【影分身を管理局の人たちに見せちゃっていいの?】

【良くは無い。だけど、現状では他に有効な手段が無い】

俺と久遠も混ぜれば4人でブレイカークラスの魔法を撃つ事は可能だろうけれど、敵の足止めをする事が出来なくなる。

ぶっちゃけ人数不足。

人数が足りないならば増やせばいい、と言う事だ。

【俺があいつを何とか足止めするから二人は影分身を使用してのブレイカー、久遠は二人の護衛】

チャージに時間がかかる収束魔法、久遠はその時間を稼ぐための盾だ。

【わかった】
【うん】
【くぅん】

その後なのはとソラには対角線にならない位置でそれぞれチャージを始めてもらい、俺は九尾を誘導するべく行動に移る。

「はぁっ!」

体からオーラをひねり出す。

影分身の術!

ボボボボンッと爆発音にも似た音と共に総勢20体の影分身を作り上げる。

「いくぜっ!」

『アクセルシューター』

九尾に向かって飛翔しながら術式を展開する。

「シューーートっ」

迫り来るスフィアを避けながら右手を突き出して全ての分身から無数のシューターが九尾に襲い掛かる。

GURAAAAAAAA

咆哮と共に迫り来るスフィアを全て眼前に展開したバリアで受け止めた。

ダメージが通った様子は無い。

しかし、時間は稼いだ。

その隙を見逃さずになのはとソラは九尾から距離を置き、影分身を使用してそれぞれ一体ずつ分身を用意。その後チャージに入った。

久遠も影分身をしてそれぞれの護衛へと向かっている。

Gruuuu

九尾が魔力の収束を感じてかその視線を俺からソラ達へと向ける。

九尾の魔力が高まりソラ達を狙い打つべく体制を整える。

だがしかし、それを許すわけには行かない。

『ディバインバスター』

「シュート!」

俺の分身たちが時差式でバスターを連射して牽制。

かわし、防御している間は奴も砲撃を打つことは出来ない。

分身が砲撃で牽制している間に俺は高速で近づいて九尾の周りに設置型のバインドを多数展開する。

GA!?…Gruuuuuuu

「ストラグルバインド」

展開した魔法陣から鎖が伸びて九尾を拘束しようと迫る。

GURUUUUU

九尾はその拘束を難なく避けてソラの方向へとその身を躍らせる。

行かせるか!

そう思い俺の分身たちもストラグルバインドを展開するが、設置型のバインドをもその直感で難なく避けて少しずつだがソラへと迫る。

Gura!?

物凄い勢いでソラに迫っていた九尾の体がいきなりぐらついたかと思うと、今まで避けれていたはずのバインドにその身を拘束された。

Ga…garuu…

息が苦しいのか口をパクパクさせて酸素を肺に取り込もうと一生懸命もがいているようだ。

その隙に俺の影達は十重二十重とバインドで九尾を拘束する。



九尾と対峙するに当たって切った奥の手。

そう、俺は九尾と対峙するや否や万華鏡写輪眼を発動していたのだ。

志那都比古(シナツヒコ)
視界に映った空間の空気を支配する力。

その力で俺は九尾の周りの空間の空気に干渉した。

空気中に含まれる酸素を抜いて二酸化炭素へと置き換え。

今奴は急激な酸欠により脳の活動が著しく阻害されている事だろう。

その結果、奴は体の制御能力を失い俺の影分身達に拘束されている。

とは言え、人間ならば死んでしまうかもしれない環境だが、ジュエルシードの暴走体へはどうだろうか?

やはりと言うかこの環境に対応すべく体組織が組みかえられているようで、その体は淡く発光している。

しばらくすれば無呼吸で生きる事が可能な生物に変態しそうだ。

だが、俺は十分に時間は稼いだぞ?

「なあ?なのは、ソラ」

見上げた先に居るなのはとソラ。

「うん」

「任せて!」

煌々と煌く魔力の塊に吸い寄せられる魔素が箒星のように尾を引いて集まっていく。

その光景は神々しくとてつもなく綺麗だ。

九尾もどうやら無呼吸状態に適応したらしく、溢れんばかりの魔力で俺のバインドによる拘束を引きちぎろうとしている。

「俺の影ごと撃て!」

俺の叫びを聞いてなのはとソラはその分身も含めて四つの極光を振り下ろす。

「スターーーライトォ…」
「ルナティックオーバーライトォ…」

「「ブレイカーーーーーーーーーーーーーー」」

眩い光は一つの目標へと走り、それは螺旋を描きながら折り重なり一つの砲撃となって九尾を包んだ。

その後爆音と海を裂いた水しぶきが俺を襲う。

ザァァァッ

水しぶきによる水蒸気が晴れるとそこには封印された6つのジュエルシードが浮かんでいた。 
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