ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第4章 ハイネセン同盟軍統合士官学校 休暇と悪夢とPTSD
右から、擲弾装甲兵のトマホーク!
避けて、面を食らわす
直撃!
血しぶき
後ろを振り返るなり、槍が飛んでくる
奴の右腕を切り落とす。
敵が多い
数個大隊に囲まれている可能性はある
一人来た!
組み合った瞬間…! 背中に衝撃!!
激痛
意識が飛ぶ
私にトドメを刺そうとする、擲弾装甲兵
この顔をどこかで見た気が…
槍が振り下ろされる
来る!!!!
目の前がいきなり明るくなる
状況を確認する
今時分は第1艦隊下士官宿舎の自室内
そしてベッドの上
時計を見る
0300時
大量の汗
悪夢であった
自分が殺されそうな瞬間なんていくらでもあった。
この世の中でこの上なく悲惨な現実なんていくらでも見てきたつもりだった。
なのに、どうして…
宇宙歴790年8月 夏季長期休暇中である
私にとってこの年は悪夢であった
理由としては、ローゼンリッター入隊への道が絶望的になったことそれと自分はPTSDであると診断されたことであった。
その年の5月頃から悪夢とフラッシュバックとが睡眠中におき、激しい嘔吐と寝不足に悩まされた。なんでこんな時期に起きたのかは不明であるがさっきの悪夢のように、毎回「あの男」に殺される夢を見る。そう、あの私の名前を語った「あの男」に
眠りに落ちるのが怖い。
そして、私は起き上がり、顔を洗い、シャワーに入った。
シャワーの熱いお湯で一気に現実に引き戻される。
シャワーを浴びながら
明後日から、ハイネセン首都防衛第2空挺旅団戦闘団との合同訓練を思い出した。
中隊で作戦を立てなくては。
と思い、シャワー室から出るなり士官学校第3大隊作戦主任としての仕事に取り掛かり始めた。
あらかじめ作戦会議で決まった立案書に目を通し作戦推移のイメージトレーニングをして考えうる事態を危険度順に書き込む、演習該当地の地図に作戦案の書き込み、予備案などの妥当性の検討などの仕事をやっていた。
おそらく当日は緑地地帯での戦闘になる上に猛暑が見込まれるため、装甲服の着用は2時間が限度と見込まれる。ということは、銃撃戦がメインになる…
などと色々考えるうちにあっという間に0800時になってしまった。
朝食をとるために、食堂へ向かう。
軍服に着替える。
新しい曹長の階級章をつける。
士官学校学生は4年生になると、全員一斉に曹長に昇進するのだ。
そして、席を立ち扉を開けた瞬間!
目に前が、グラッと揺れてそこまま前のめりに倒れこむ。
体が動かない。
目に前に擲弾装甲兵の靴が見える。
あいつだ!おきて反撃しなくては
その時私は全く体が動かなかったのだった
トマホークが振り下ろされる!
と思った瞬間に、誰かに思いっきり体を揺すられる。
意識が飛ぶ。 目の前が真っ暗になる。
どこか遠くで私を呼ぶ声がする。
そこまでしか私の記憶はない
後々、ニコールに聞く話ではあるがその時私を呼んでいたのはたまたま部屋の前を通りかかった彼女であった。(私の住んでいるCブロックと彼女の住んでいるAブロックからは食堂の向きが逆なはずなのだが…)
目が覚めたのはそこから、5時間後の1300時あたりだったらしい。
軍医からは疲労によるものと診断された。
疲労ね〜と思って今までの行動を思い返してみると
つい先週まで艦隊実習に行ったり、実戦部隊との白兵戦の合同演習だったりに行っていたがそれはどの士官学校生も同じことと思っていた。
しかし、軍医からは
「曹長。君は第1艦隊の第23特別陸戦隊に名目上とはいえ所属しているな。
貴官、その毎日の訓練に参加してるだろ
それが疲労の原因だ。
また貴官はPTSDである上に、そんなことで暴走されてもこちらが困る。
貴官は今爆弾を持っているようなものだ。
いつそれが爆発してもおかしくないんだぞ。
それ以上陸戦隊の訓練に参加したいなら貴官を長期強制的休暇にしなくてはいけない。
貴官がPTSDの悪夢を現実で紛らわしたいのはわかっている。
しかし、白兵戦訓練は実戦に限りなく近いものだ。それを日常生活に持ち込んでみなさい。
君は、日常的に殺人をおかすような殺人鬼になる。確実にな
だから残りの夏季休暇は演習、訓練に出ずに休みなさい。
貴官のことはケン中佐とエリー准将からよく聞いている。
なかなか優秀な士官候補生であるそうじゃないか。将来有望な士官候補生をこんなところで殺人鬼にしてたまるか。
私にも3人の娘がいて全員が士官学校に進んだが、1人はヘンシェルで戦死した。残りの2人は今は駆逐艦の艦長だ。しかし、そのうち末っ子はPTSDだ。ついこの間艦内で自殺未遂をおかしたそうだ。今精神病棟にいるが毎日が放心状態だ。
貴官はまだ若い。だからこそそんな風になって欲しくないのだ。
わかってくれ。」
と 涙ながらにその老軍医中佐は語った。
私はその話を聞き、そのように自分を労ってくれる中佐に感謝しそれを快諾した。
中佐からの診断書により、夏季休暇中の一切の演習・訓練への参加を差し押さえられることになったが、当時の自分にとっては良いことだったと思える。
でなかったら今頃は死んでいたかもしれない。
こうして、私は本当の夏季休暇に入った
1日中本をよだり、士官学校の教材を読み漁ったりした。
その中で特に面白かったのが、戦争歴史書を読むことであった。
地球にまだ人類がいた時の戦史から今日までの戦史に至るまでありとあらゆるものを読みまくった。
でも、たまには誰かと話さないとさすがにコミュニケーション障害になると思ってニコールの衛生士官養成課程試験の勉強を手伝っていた。
ニコールは現在衛生下士官であるが、ここから軍医になるために勉強していた。
彼女は現在第1艦隊第2分艦隊衛生下士官であったのでほとんどをハイネセンで過ごしていた。
と言っても彼女には日中勤務があるので、日中は私は士官学校の教本予習や歴史書を読み漁って、夕方から彼女の試験勉強を手伝うというスタンスをとっていた。
ある日、ランニングとトレーニングが終わってベッドに突っ伏していた。
そして、ニコールがドアをノックして入ってきたらしいがその時私は撃沈していて気づかなかった。
彼女は2時間近く私の部屋で勉強していたが、私はその時あの悪夢を見ていたのだ。
「あの男」に斬り殺されそうになる夢を…
そして、寝ている真っ最中に大声を張り上げ
、全身が痙攣し始めたらしい。
びっくりしたニコールは私の顔を思いっきり平手打ちするなり
「シュナイダー!起きなさい!
目を覚ますのよ!!」
それで目を覚ました私は
いきなり、吐き気をもようしトイレに駆け込んだ。10分以上トイレにいたのだろうか?
トイレから出るなりとんでもない恐怖心に襲われた。
なぜか涙が溢れ出てきた、急に。
うずくまって恐怖心と涙が押し寄せてくるのに耐えなくてはいけなかった。
ニコールが私の背中を包み込むように抱いた
「シュナイダー大丈夫よ
私がいるわ。ここにいるから…」
そのまま何時間も泣いていた気がする。
こういう時に彼女がいて良かった。
その晩はニコールがずっと私のそばにいてくれた。
彼女は一晩中思い出話などの軍務と全く関係のない話をしていた。
いつのまにか2人で眠りに落ちていた。しかし、その直前に彼女は私にとって恐ろしいことを口走った。
「あなたのPTSDは重度だわ。
本来なら軍務復帰はほぼ不可能なのよ。」
いっぺんに眠気が吹き飛んだ。
彼女は
「そんな顔しないで。
あなたには私がついてる。
大丈夫よ。」
と言って私の方に口づけをするなりそのままお互いに眠りに落ちた。
その日から何度も悪夢に襲われたが、その度に彼女に救われた。毎回、その後何時間も話した。
そして、夏季休暇が終わる頃には悪夢にうなされることはなくなった。
こうして私の宇宙歴790年 8月は終わった。
その時は卒業まであと8カ月、
全力で走りきろう。
と思っていたが、私たち173期生たちを襲うあの事件を予測したものが誰がいただろうか?
あの「ハイネセンイースト地区大規模テロ事件」
卒業間近のあの悲劇を
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