魔法少女リリカルなのは!?「Gの帝王」
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一匹目《発現》
前書き
どうも!
ではよろしくお願いします。
この世の中には無数のG……もといゴキブリが存在する。人々に忌み嫌われ、見つけ次第駆逐される害虫。しかし何故なのだろうか? ゴキブリは殺される為に存在しているのではない。大量に存在はするが人に危害を加える生物ではないのだ。だが理由はハッキリしている。イメージ……これが一番の原因な筈だ。でなければカブトムシなどの昆虫と同じ昆虫に属する筈のゴキブリが害虫として扱われる筈はない。場所は問わず至る所に存在し、主に下水やゴミ捨て場などといった所に好んで住み着くゴキブリ。その為、ゴキブリには大量で多くの種類の菌がつく。よってゴキブリが害虫とされるのはその菌が原因とも言えるのだ。しかし本来……森などにしかいなかった筈のゴキブリ。それが何故人里になど下りて来たのか。それは人間の所為とも言える。人が森の木を切り倒し、生活圏を広げた事でゴキブリもまた生きる為に人里に下りて来なければならなくなったのだ。もし人里になど下りて来なければもしかしたら今頃、森の妖精と言われていたかもしれない。
「あ! ゴキブリだ……ママ、ゴキブリが出たよ!? 」
「え!? 待ってて、今殺虫剤持って行くから!? だから逃げないように見ててね隆文(たかふみ)」
「うん、分かったよママ! ……ゴキブリって……嫌われるけどどうして何だろう? 」
少年はジッとゴキブリを見ている。この家の長男、蟲黒 隆文(むしぐろ たかふみ)は5歳児だ。だからゴキブリと言う存在がどう言う存在なのか理解していない。単純に親が嫌いだから、いつも駆除しているからといった理由で駆除しているに過ぎない。こうして大人になるにつれゴキブリには抵抗を生むようになる。さらに多少の知識も得たのち、その者の中で害虫として認定されるのだ。
しかしこの少年、蟲黒 隆文は違った。少年には普通の人にはない力があった。だがそれがどうして発現したかは少年にも分からない。ただどうしてゴキブリがみんなから嫌われているのか、その疑問を抱いた事がトリガーになり、その力が目覚めてしまったのだ。普通ならいらない力なのかもしれない。役にも立たない力なのかもしれない。でも幼い少年には大人になる上で他の人とは違う考え方を養っていくきっかけになったのだ。
「君は……僕の家族以外にも嫌われているの? 一体どうして? 僕は君達が悪い虫には見えないのに…………」
【そら〜お前? 俺達が気持ち悪いと思われてるからやろうな? 】
「え? 誰……今のどこから…………」
【何処見てんねん! ここや、ここ。 自分の目の前におるやろ? にしてもお前……中々見所あるな? 俺達にそんな疑問持つなんざ……そう出来るもんやなで? 気に入った! これから仲良くしようや? 俺の名前は「このゴキブリ、どこから入った! 」 ぎゃぁぁぁあああああ!? こらたまらん!? うぐおぉぉ……しょ、少年……ま、また合おうや? ゴキダッシュ!! 】
「嫌だ!? 逃げられた!? くぅぅ……ゴキ◯ット買っておけばぁぁ…………」
「……ゴキブリって喋るんだ? 」
自覚はしていない。ただ単純にゴキブリは喋る物として認識した瞬間だ。だがそれは残酷にも少年を苦しめる事になる。何故ぜならそれからというもの、隆文はゴキブリを見つけては話をするようになってしまった。その為親からは君悪がられ、幼稚園の友達は誰一人として隆文には近寄らなくなってしまったのだ。
幼い子が虫や花に何となく話しかける事はさして珍しいことじゃないかもしれない。好奇心故の無邪気な行動だ。しかし隆文の場合は違う。まるで本当に話をしているような会話。そして極め付けは隆文の周りにゴキブリが自らよって来るという事。実際、ゴキブリを手に乗せて喋る人間を誰が普通と思うのか。ましてや寄って来るゴキブリが一匹や二匹ならまだしも、多い時は隆文の周りの床が黒く染まる。だからこれで隆文が嫌われない筈はない。だが隆文にはまるで罪はない。無実だ。ただゴキブリと仲がいいというだけで迫害されている。
だからその所為もあり本来明るく元気だった性格の隆文は昔より暗く、何のやる気のない少年になってしまったのだ。そしてそれは小学3年生になった今でも変わらない。それどころか隆文に対しての反応は酷くなってきている。イジメ、最初はそれもあったが。隆文にイジメを働くと周りのゴキブリが黙っていない為、誰も隆文に手を出さなくなっている。誰もが無視をし、先生にすらも相手をされない。
「……すぅ……すぅ…………」
【おい隆文! た〜か〜ふ〜み〜! 】
「んん〜……ん? 何だよゴキ兄……今僕寝てるんだけど? 」
【授業中やろ? 起きろ言うてるやん! ちゃんと授業しないと将来いい大人になれへんで? 他の人間はどうでもええけどな? 隆文には立派になって貰いたいんや? 】
「嫌だよ……授業眠いもん」
【隆文……あ! あ〜あ、チャイムなってもうたで? まったく……まぁ〜ええ。それじゃまた家でな隆文? 】
「はいよゴキ兄」
【何しけた面してんねん。元気だし? お前は出来る奴やろ? 何せ俺達が「このゴキブリ! 」ぎゃぁぁぁあああああ!? ごっつー効くでこの殺虫剤ぃぃ……ぐおぉぉぉ……だが……まだだ! ゴキダッシュ! 】
「あ!? 逃げたわよ!? 」
隆文がゴキ兄と呼ぶこのゴキブリは隆文が最初に話をした個体。運がよくも悪くも隆文とは4年の付き合いになる。だから隆文よりも歳上と言うことになるからと言う理由で兄と名付けているのだ。
そして隆文に久しぶりに近づく人影、クラスメイトとのアリサ・バニングスだ。今ゴキ兄を撃退したのも彼女。だから隆文はあまりいい顔をしていない。隆文にとってゴキブリは友達であっても害虫ではない。よってゴキブリに対しての駆逐行為は隆文にとっては人間の殺害となんら変わりない。言うなれば価値観の違いだ。
「あんた……ちゃんと風呂入ってんの? 」
「…………」
「あのね? あんたがいるから教室にGが絶えないのよ? 何とかしてくれない? 」
「…………」
「あんたね、何か言いなさいよ!? 」
「ちょ、ちょっとアリサちゃん!? ダメだって!? 別に蟲黒君の所為じゃないんだから」
「何言ってるのよすずか! 知ってるんでしょう? あいつがこの学校で何て呼ばれてるか」
「そ、それは…………」
隆文の存在は学校では有名だ。ただそれはいい意味でじゃない。隆文のいる場所、例えば教室や廊下には良くゴキブリが出る。そして隆文がゴキブリと話をする事もあり、悪い噂は学校中に広まったのだ。だから今では学校で知らぬ者のいない嫌われ者。ゴキブリの長。ゴキブリの帝王。生徒は皮肉を込めてこう呼ぶのだ……Gの帝王と。
「へへ……僕が何をしたって言うんだ…………」
「はぁ!? 何をしたですって? 決まってるじゃない!? Gよ、G! あのおぞましいGを呼び込んでるのよ! 何? それを今更しらばっくれようとしてる訳? 知らないとは言わせないわよ」
「お、落ち着いてアリサちゃん!? だからそれは蟲黒君の所為じゃないって!? 人がGを呼んだり出来るわけないよ」
「出来るけど? 」
「「え? 」」
「みんな〜? ちょい集合! 」
「な、何言ってるの? あんた馬鹿なんじゃ……ひっ!? いやぁぁぁああああああああああああ!? 」
「ご、ごき、ごごごゴキキ…………」
隆文の言葉はすぐに本当の事だと今クラスに残っている全ての生徒が認識した。何故なら壁の隙間や掃除用具入れの中、教室のありとあらゆる所からGが集まってきたのである。その為、クラスでこれでもかと言うくらいの悲鳴が起こった。しかしそれも当然である。隆文が呼んで集まったGは数で数えられない。教室の景色が黒一色になる程ここにはGがいるのだ。勿論、人がいるところは綺麗に避けている為人に張り付いたりはしていない。だがもしそんなことにでもなれば気絶ものである。
「どう? 信じた? バニングスさん? 」
「信じる! 信じますから!? 早くなんとかしてよ!? 気持ち悪いぃぃ……うっ……ひぐっ……うわぁぁ…………」
「ごめんみんな? 解散……女の子泣かせちゃったよ」
隆文も悪気があったわけじゃない。ただ、知って貰いたかったのだ。別に言葉が通じるいい奴らなのだからそんなに嫌う必要はないと。しかしそれはGと会話の出来る隆文だからこそ分かること。よって他人には絶対に理解されない。
「あれ? 花ちゃんは帰らないの? 」
【うん、私は隆文お兄ちゃんと帰りたい。お話ししてお家帰ろう? 】
「そう? じゃ〜帰ろうか? 」
「うっ、ひぐっ……あ、あんた……何なの? どうしてこんな事……うっ、うっ……出来るのよ!? あんた……気持ち悪いわ…………」
「…………」
「こっち見ないで……さっさと帰りなさいよ……化け物」
「っ!? 」
「アリサちゃん!? そんな事言ったら……蟲黒……君? 」
化け物……それは隆文が初めて人から言われた言葉。隆文は流石に傷ついた。だから当然、隆文は涙を流す。泣いている。何故ならそれは今までどんなに無視されても何を言われても時にどうも思わなかった隆文に初めて心に深く突き刺さった言葉だったのだ。
そんな隆文を見て流石に言い過ぎたと自覚したアリサは申し訳なく目を逸らす。だが謝ろうとはしなかった。いや、とっさの事で出来なかったのだ。隆文はアリサが声をかけようと思った瞬間走り出し教室を出たからだ。
【隆文お兄ちゃん!? そんなに走ったら落ちる!? 落ちちゃうよ!? 】
全速力で走る隆文の手の甲に必死でしがみついているゴキブリの花は風の抵抗で落ちそうになっていた。隆文もそう言われて初めて気が付いたのか通学路の途中で一旦足を止める。息を切らせ、手に乗った花を自分と同じ目線に合わせ、悲痛な思いを吐き出した。
「僕は……何か悪い事したの? ただ花ちゃん達とお話しが出来るってだけで……うっ……ひぐっ……どうして…………」
【ごめん隆文お兄ちゃん……私達がいるからいけないんだよね? 】
「違う!? どうして? 花ちゃん達は何かしたの? してないよ! ただ生きているだけだ!? 僕達と何も変わらない!? 悪い事した訳じゃないのに……どうして……どうして!? 」
【隆文お兄ちゃんは優しいね? でもね? みんながみんな……隆文お兄ちゃんみたいに思えるわけじゃないんだよ? だって……私達とお話し出来るの隆文お兄ちゃんだけだから。だから……仕方のない事なんだよ。けど私達は満足だから。隆文お兄ちゃんが私達にしてくれる事だけでも十分幸せだよ】
隆文もG達も悪い事は何もしていない。だが世間という奴は残酷にもイメージで迫害してしまっている。だが基本的な問題として人々がG達を隆文のように受け入れる事は難しい。どちらが多数派と言われれば圧倒的に、比べる事もなく隆文が少数派だ。一体誰が汚いイメージのG達を受け入れると言うのか、一体誰が菌の運び屋と称されるGを受け入れると言うのか。故に隆文は孤独である。誰にも受け入れて貰えず、君悪がられ、しまいには嫌われる。こんなどうしようもなく理不尽な事があるだろうか。
「ありがとう花ちゃん。少し元気出たよ。だから早く帰ろうか? 多分今頃ゴキ兄が母さんに追いかけ回されてる頃だと思うから」
【あはは、そうだね隆文お兄ちゃん。でもゴキ兄しぶといから捕まるわけないと思うなぁ〜? どっちかと言うと反撃してる頃だと思うよ? 】
隆文の母親とゴキ兄は因縁の相手だ。勿論、個体の識別が出来ない母親にはそのつもりはないのかもしれないが、それでも明らかに他のGと対応が違う。もしかしたら本能で分かっているかもしれない、自分と相手が4年も戦っているという事を…………
そして、その戦いは隆文が家に帰った時にはもうピークであった。母親のドスの効いた叫び声、そして何かを叩くような音。壮絶な戦いの途中である。
「ただいま? 」
「あ! おかえり隆文? ちょっと待ってね? 待てこのG! 生かして返さんぞゴラ゛ぁぁあああああ」
【へん! そんなもんが当たるわけないやろ? 喰らえ、奥義……密着・顔歩き! 】
「ひっ!? いやぁああああああああ!? 」
【へへん! どうや! 今日は俺の勝ちやな? まだまだ甘いで? 】
「なめるなクソGがぁぁぁああああああ! 」
【はん! 馬鹿がっ! 当たらんって言うとるやろ? な!? ぎゃぁぁああああああああ!? 泡が!? 泡がぁぁああああああ!? 】
そのバトルは突然決着した。母親が丸めた新聞紙を囮にゴキ兄が躱した所をよくあるゴキブリ用の泡スプレーを吹き付けたのだ。これにより、ゴキ兄の身体は泡で包まれ閉じ込められてしまった。母親はその固まった後の泡を手で掴みゴミ箱へと捨てる。その顔は満面の笑みだ。きっと花や隆文には悪魔の笑みに見えてるに違いない。
「ふぅ〜今日のは手強い相手だったわ。さぁ〜隆文? おやつでも食べましょ? 」
【隆文お兄ちゃん……ゴキ兄が……ゴキ兄……が……いやぁぁぁぁぁああ!? ゴキ兄ぃぃぃぃいいいいいいい!? 】
「ゴキ兄……嘘でしょ…………」
隆文と花はその場で立ち尽くす。ゴミ箱でご臨終しているだろう、ゴキ兄のご冥福を祈って…………
【殺すな!? 早くこの泡何とかしてくれぇぇぇええええええ!? 】
後書き
次回もよろしくお願いします。
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