真田十勇士
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巻ノ一 戦乱の中でその六
「父上はまずは北条につかれるな」
「相模のですな」
「そして徳川家になびいたとみせてじゃ」
「羽柴殿に」
「その羽柴家と手を結ぶであろう上杉家ともじゃ」
「そう動かれますか」
「戦の用意をしつつじゃ」
強き家の間を動き回るというのだ。
「そうされる」
「他の大名家の間を動き回る」
「これは確かに忙しいな」
「はい、しかしそれは」
「他の家の中を動き回り蝙蝠と呼ばれてもな」
「それは生きる為に必要なことですな」
「当家の様な小さい家はそうするしかない」
それが現実だというのだ。
「北条も徳川も大きい」
「そして上杉も」
「その大きな家と比べれば違う」
まさにというのだ。
「当家は精々十万、だからな」
「それで、ですな」
「我等は強い家の間を転々としてもな」
「生きるしかありませぬな」
「そういうことじゃ、しかし誇りは忘れぬ」
それは絶対にというのだ。
「武士のそれはな」
「例え強い家の間を転々としても」
「そうしてでも生きる、よいな」
「ではそれがしも」
「何時いかなる時でも武士でいようぞ」
これは幸村に対してだけではない、自分自身にも言った言葉だ。信之は弟の顔を見つつ確かな声で言ったのだった。
「よいな」
「はい、それがしもこれから何があろうとも」
「武士でいるのじゃ、よいな」
「そのお言葉忘れませぬ」
「では行くのじゃ」
信之は幸村を心で送り出した。
「そして豪傑達を集めるのじゃ」
「果たして何人集められるか」
「それも大事じゃな」
「そうです、一体どれだけの者を見付けられるか」
「そして家臣に出来るか」
「それがわかりませぬが」
「そうじゃな、しかし花には蝶が寄るもの」
信之はこうも言った、幸村に。
「優れた者には優れた者が来る」
「ではそれがしが優れていれば」
「優れた者が寄って来てな」
「家臣となりますか」
「必ずそうなる」
信之は確信してだ、幸村に言った。
「だから御主は御主の才を信じるのじゃ」
「優れていれば」
「必ず勇士達が集まるわ」
「そして勇士達を」
「終生大事にせよ、御主を見込んで来てくれたのならな」
「そうさせて頂きます」
「そういうことでな」
ここまで言ってだ、そしてだった。
信之は支度を終えた幸村にまた問うた。
「して明日の朝にじゃな」
「すぐに城を出てです」
そしてというのだ。
「旅をはじめます」
「道中気をつけてな」
「賊も倒してきます」
山や町にいるそうした不逞の輩共もというのだ。
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