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戦国異伝

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第二百十二話 死装束その十三

「しかもじゃ」
「しかも、ですか」
「あの方は」
「普段から他の公卿の方とも交わることがないのでおじゃる」
「では和歌等もですか」
「一切」
「陰陽道をしているとのことでおじゃるが」
 だが、という口調での言葉だった。
「その陰陽道も」
「安倍家や賀茂家のそれとは違い」
「また別のですか」
「朝廷の正式な陰陽道と違う」
「そうしたものというのですか」
「その様でおじゃる」
 そうだというのだ。
「噂でおじゃるが」
「ううむ、面妖な方ですか」
「古い家だというのに一切わからない」
「そうした方とは」
「おかしなことですな」
「あの御仁のことは」
 氏真は考える顔で述べた。
「織田殿と竹千代殿にでおじゃる」
「お話されますか」
「殿にも」
「そうするでおじゃる」 
 こう話すのだった。
「そうさせてもらうでおじゃる」
「左様ですか」
「そうされますか」
「しかもでおじゃる」 
 ここで氏真がさらに言うことはというと。
「あの御仁は麿も都でお見かけしたでおじゃるが」
「どう思われましたか」
「それで」
「妖しいでおじゃるな」
 非常に、というのだ。
「妖しい方でおじゃる」
「妖しい、ですか」
「怪しいではなく」
「そちらですか」
「そちらになられますか」
「あの方の服は」
 その着ている服の話にもなった。
「黒、いや闇でおじゃる」
「闇の色のですか」
「衣ですか」
「そうでおじゃる」
「闇といいますと」
 ここでだ、徳川の旗本達は闇と聞いてだ。その顔をすぐに険しくさせtだ。そのうえでこう氏真に言ったのだった。
「前に我等が戦った」
「あの一向一揆の者達もです」
「着ている服は闇でした」
「具足も旗も何もかもが」
「それは麿も竹千代殿から聞いているでおじゃる」
 氏真もこう返す。
「そしてそれは織田殿が戦った一向宗もでおじゃるな」
「一向宗の色は灰ですが」
「その灰の者達とは戦いませんでした」
「顕如殿も命は粗末にするなと仰っていたので」
「それで、です」
「灰の者達とはです」
 その彼等とは、というのだ。
「特にです」
「戦いませんでしたが」
「しかし闇の色の門徒達とは」
「かなり」
 戦ったというのだ。
「そうしました」
「おかしなことに」
「しかもです」
「あの者達はかなりの数がいました」
 織田家が相手にした者達と同じく、というのだ。 
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