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エターナルトラベラー

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第三十二話

さて、次の日から本格的にジュエルシード集めが始まった。

今までも集め様としていなかった訳ではない。ただそれは異変が有ったら駆けつけよう程度の認識だった。

しかし今は母さんの号令の下、精力的に行われている。

捜索にはフェイトとアルフも同行している。

アルフから返されたバルディッシュ。魔法技術について教えると、自分も力になれるのなら手伝いたいと願い出た。

その動機が無くした記憶から来るものなのか、懐いた母さんへの好意から来るものなのかは不明だが、フェイトは一生懸命だ。

とは言え、魔法が使えるのと戦えるのは別物だ。

記憶と同時に戦闘技術をどこかに置いてきてしまったフェイト。

しかしそこはやはり原作キャラ。少し教えただけまるで思い出したかのように物にしていっている。

まあ、原作のなのはですら初戦闘でドッグファイトをやらかしてたしね。

バリアジャケットに関しては何故か一新されている。

母さんの猛反発にあったためだ。

あのレオタードにパレオといった挑発的な衣服に、母さんから口をすっぱく公序良俗について説教されていた。

その結果、黒と金を基調としたなのはのバリアジャケットのコピー…ぶっちゃけダマスク装備に変更されている。


「フェイトちゃん!そっち行ったよ!」

なのはがフェイトに声を掛けて、注意を促す。

俺たちは今、結界内でジュエルシードの暴走体と戦闘中。

黒い大型犬ほどもある大きさのイタチと戦闘中だ。

翼は無いのに空を縦横無尽に飛び回り、俺たちをかく乱する。

「フェイト!危ない!」

フェイトに向けて突っ込んでいった黒いイタチの体当たりをインターセプトしたアルフが障壁を張ってガード。

「あ、アルフ…」

『フォトンランサー』

バルディッシュのアシストでフェイトの周りにフォトンランサーが待機する。

「アルフ!」

「あいよ!」

記憶は無くても二人のコンビネーションはばっちりなようだ。

「フォトンランサー、ファイヤ」

ドドドーンッ

着弾する魔弾。

しかし、相手にさしたる外傷は無く、フェイトに向かって突進を再開。

「あっ…」

驚いて一瞬行動が遅れたフェイトをかばうようにして俺が構えたソルで迎撃する。

振るった刃をあいては防御魔法で受け止める。

「あ、アオ!ありがとう」

「ちぃ!防御魔法だと!?」

今まで肉弾戦のみだった敵が初めて魔法を使った瞬間だった。

目の前の敵がおもむろに口を開くと、眼前に集まる魔力光。

「なっ!収束砲…」

俺はすぐさま離脱を試みる。

「GruuuuuuuuuuuGaaaaaaa」

爆音もかくやといった鳴き声と共に打ち出される砲撃魔法。

間一髪のところで何とかそれを避けることに成功した。

「「ディバイーーーーンバスターーーー」」

すかさず、なのはとソラの砲撃魔法がイタチに襲い掛かる。

「やった?」

「いや、まだだ!」

砲撃による爆煙が晴れるより早く、此方めがけて砲撃が飛んでくる。

「わわっ!」

慌てながらも難なくよけるなのは。

四方八方に砲撃を発射しつつけるイタチ。その魔力が尽きる様子は無い。

此方もかわしながら砲撃主体で戦っている。

俺達が苦労して地面に打ち落としたイタチに母さんが神速を駆使して近づいて一閃。

「はっ!」

「Gyaoooooooooooooo」

胴体が泣き分かれて苦悶の叫び声をあげる。

しかしそれも一瞬。

直ぐに再生して母さんに襲い掛かる。

「母さん!」

しかし、其処はやはり母さん。

瞬間的に神速を発動して射程から離脱した。

「アオ」

どうするの?とその表情が問いかけている。

「しかし、決め手に欠けるな。攻撃と防御に使われている魔力量が半端無い。少なく見積もってもS、それ以上かも知れない」

「そだね、今もなのはとフェイトが二人掛りで攻めているけれど、バスター級の魔力でもその防御を抜けれない」

「攻撃が通ったとしても魔力ダメージ以外は即再生。…まいったね」

俺の記憶が確かならこんな厄介な敵は原作には出てきて無いと思うのだけど…

「手段はいくつかあるね。建御雷で燃やし尽くす。ブレイカー級の魔法で吹き飛ばす。後はスサノオで封印」

「スサノオは…ね。原生生物を取り込んでいるから、そんな事をしたら確実にその生物を殺してしまう。最善は魔力ダメージって事になるけれど…アオの念能力で巻き戻すってのは?」

それも有りなんだけどねぇ

「相手がすばや過ぎる。設置型バインドをばら撒いているけれど、どうも野生の勘か何かで避けられている感じがする」

思考しないで本能で動いているような化け物に思兼も少々効果が薄い。

「ならばそれを逆手に取ったら?」

ふむ。それはなかなか。

と、考え事をしていると結界内部で急速に魔力が高まる気配を感じる。

「っこれは!?」

「ジュエルシード?もう一つあったの!?」

遠目になのはやフェイト、アルフも感じ取ったのか、そちらに気を取られている。

戦闘区域の端の方で、今にも発動しそうなジュエルシード。

「GRuuuuuuGAAAAAAAAAAAAAA!」

鼓膜を突き破るかのような鳴き声を発したかと思うと、発動直前のジュエルシードめがけて進路を変えて一直線に飛んでいく。

「まずい!」

俺はすぐさまジュエルシードの確保に向かう。

『フォトンランサー』

「ファイヤ」

ソラは俺に併走しながら砲撃でけん制してくれている。

「間に合え!」

右手を精一杯伸ばしてジュエルシードを掴み取ろうとする。

イタチの暴走体も負けじとジュエルシードに迫る。

右手がジュエルシードを掴もうとした瞬間、相手の牙も同時にジュエルシードに触れようとしている。

そして衝突。

両サイドからかけられた負荷にジュエルシードが暴走。

俺とイタチもどきは互いに跳ね飛ばされた。

まずい!ジュエルシードに衝撃は与えてはいけなかったのに!

ジュエルシードから発せられる高濃度の魔力は次元に干渉し始めている。

「Garuuuuuuuuuuuuuu」

イタチもどきは体制を立て直すともう一度ジュエルシードを飲み込もうと走り出す。

「ディバインバスター」

しかし、出鼻をなのはのバスターで大いにくじかれた。

「サンダーーレイジ」

すかさずフェイトがジュエルシードを封印する。

ジュエルシードの暴走が収まった瞬間、俺はすぐさま駆け寄り、ジュエルシードをソルに格納、そのまま反転してイタチもどきに剣を向ける。

「Gruuuuuuuuuu」

イタチもどきはうなった後、飛び去り、強引に結界を破って逃げ出してしまった。

「あ、逃がしちゃった…」

直ぐに探知魔法を起動させたが、相手の方が一枚上手だったようで終に発見できなかった。

と言うか、割と強固に張った結界魔法を体当たりでぶち抜くとは…

これは次に会うときは一撃必殺のこころづもりで行かないと駄目かも。


俺たちは一度御神家に戻り、作戦会議。

「最後、あのイタチもどきさんがジュエルシードに反応したのはどう言った理由からなんでしょう?」

と、なのは。

「俺たちが最初に倒したジュエルシードの暴走体にも複数のジュエルシードで構成されていた。恐らくだけど、自己の強化の為にジュエルシードを取り込もうとしたんじゃないか?」

「と言う事は、時間をかけるのは拙いわね。相手がどんどん強化してしまう。今のままでも梃子摺っていたというのに…」

母さんの危惧は恐らく当たりだ。時間を掛けるのはまずい。

「だけど現状はさ、どうにもならないんだ。だったら結局見つけ次第封印って事でいいんじゃないかい?」

「アルフ…」

「まあ、結局はそうなるな。まあ、それでも出来るだけ早めにという事だけは確かだ」

結局は今まで通りと言うことで落ち着いた。

しかし、強敵の出現に、街の被害を最小限にとどめる為にジュエルシードの探索と、あのイタチもどきの索敵は夜通し行われる事になる。

まあ、真夜中の索敵は俺と久遠が中心で、授業のある真昼は母さんとフェイト、そしてアルフだ。

なのはとソラはそれ以外、早朝と夕方に行ってもらう。


そして舞台は夕方。

「あ、ジュエルシード発見」

なのはのお気楽そうな声が響く。

海岸付近にある資材倉庫の一角で、発動前のジュエルシードを発見。

居合わせたのは俺とソラ、なのはの三人。

学校帰りにそのまま捜索していた所で見つかったジュエルシードだ。

「さっさと回収して一旦帰ろうか」

「そうだね」
「うん」

ソラとなのはが同意して、なのはがジュエルシードに近づき拾いあげたようとした、その時。

いきなり現れる転移魔法陣。

俺達はすぐにデバイスをセットして臨戦態勢を取る。

「ストップだ!時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。その宝石、それを此方に渡してもらいたい」

現れるや否や用件だけを告げる黒ずくめの少年、クロノ。

「えっと、宝石ってそれのこと?」

掴む前で指を止めて臨戦態勢に入ったためにその宝石を背中にしていたなのはがそう問いかけた。

「ああ、その宝石は危険なものなんだ。だから…む?」

話の途中で今度は強大な魔力反応。

空中から放たれる収束砲撃。それを左手を突き出して障壁を張り、ガードしようとするクロノ。

「馬鹿っ逃げろっ!」

しかし、そこは流石に歴戦の執務官。それなりに強固なバリアだったらしく、何とか持ちこたえたようだが、その砲撃は突如として方向を変えてなのはに迫る。

「なのはっ!」

「きゃあ!?」

一瞬の悲鳴の後にすぐさまその場から飛んで空中に逃げる。

ジュエルシードから離れたなのはをけん制するようにもう一発の砲撃。

その発射元はあのイタチもどきだ。

「大丈夫か!?」

「大丈夫ではあるんだけど。ジュエルシードが」

その言葉でジュエルシードへと視線を戻すと一直線に飛来してその大きく開けた口でしっかりと飲み込んだ。

「ああ!?」

GuruuuuuuuuuuuuuuGAAAAAAAAAAaaaaaaaaa

けたたましいほどの鳴き声。

直ぐに俺は奴を封じ込めるように結界を張る。

途端に景色から色が失われ、外の時間から隔離される。

ジュエルシードを食ったイタチもどきはその体を一回り大きくさせ、その尻尾が二本に増えている。

「何だあいつは!?」

直撃をガードしつつもその砲撃が反れた事で砲撃の直撃から脱出したクロノが飛行魔法で飛び上がり俺達のそばまで来てあの化け物の情報を求める。

とは言っても俺も知っているのはクロノの承知の事実なのだが。

「詳しくは知らんよ。だが今、宝石を一つ食らって強化されたようだ」

増強されていた体積の変化も終え、さらに禍々しさがましたソイツは紅い目で俺達を睨み付けた。

「来る」

GRAAAAAAAAA

遠吠えと共にその体から溢れだす濃密な魔力。

体の周りに幾つもの魔力スフィアが形成されてその一つ一つから発射される魔力弾。

バリアジャケットを展開する隙が無い。

それでも何とか迫り来る魔力弾を避けつつ、起動したソルを片手に反撃に移る。

『ディバインバスター』

「ディバイーーーンバスターーー」

俺の撃った砲撃は直撃コースでイタチもどきに迫る。

直撃する一瞬前に砲撃をやめてその体を包むように障壁でガードされた。

「ディバイーーーンバスターーーーー」

ここぞとばかりになのはも起動したレイジングハートで砲撃をぶっ放す。

「ディバイーンバスターー」

次いでソラの砲撃。

「チェーンバインド」

俺は開いた穴から忍び込ませるようにして相手を拘束する。

ひゅん ひゅん

辺りの魔力がなのはの掲げたレイジングハートの刃先に集うように収束する。

『スターライトブレイカー』

「スターーライトーーーー」

GRuuuuuuuuuuuuGAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

一際激しく鳴いたかと思うと俺のバインドを引きちぎり、その体から何の嗜好性も持たない純粋な魔力を放出させる。

それは一瞬で半円状に広がって行き、俺達を弾き飛ばした。

「ぐあっ」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ」
「くうぅぅっ」

飛ばされた俺達は衝撃をどうにか受け流せる位置でどうにか堪える。

バリンっと音がして俺が張った結界が解除される。

粉塵が収まると其処に奴の姿は無かった。

直ぐに円を広げて索敵してみたけれど見当たらず。

探知魔法も効果なし。

「また逃がした」

「まずいね、あいつ強くなってる」

「ああ」

「お兄ちゃん大丈夫だった?」

隣に飛んできたソラとそんな会話をしていると、なのはも合流したようだ。

「大丈夫。むしろなのはは平気か?」

「大丈夫。ちょっと疲れちゃったけれど、怪我はしてないよ」

お互いの無事を確認してさて、一旦家に帰ろうかと言うときに又しても会話に混ざってくる黒い奴。

「悪いんだが、君たちは管理世界の関係者かい?詳しい事情が聞きたいのだが」

理由はどうあれ、魔法技術の無いこの地球で彼らの目の前でデバイスを起動してしまったからなぁ。

ポワンっと何も無い空間にいきなりモニター画面が開き、緑色の髪をポニーテールで纏めている女性が映る。

『クロノ執務官。詳しい話はアースラで聞きましょう。案内してくれるかしら』

「艦長…分りました。案内するから着いてきて欲しい」

あれよあれよと言うままに俺たちは次元航行艦アースラへと招待された。

「わー、凄いね。宇宙船だよ!?」

生の宇宙船にテンションが上がっているなのは。

「なのは、浮かれるのも良いけれど、しっかり前見ないとこけるよ?」

「あぐっ!」

「言わんこっちゃ無い…」

「えへへ」

「仲のいいところ悪いんだが、デバイスとバリアジャケットを解除してもらえるだろうか?此方に敵対の意思はないよ」

「あ、はい」

バリアジャケットを解除すると、俺たちは戦艦には似つかわしくない、日本の茶室を模したような所へと案内された。

その光景には知っていた俺を含めて三人とも絶句。

辺りを見渡すと桜の木やシシオドシまである。

流されるままに座布団へと案内されて正座を組む。

【お兄ちゃん…】
【アオ…】

なのはとソラから届けられた念話。その声に戸惑い…と言うより呆れ?の感情が見て取れる。

まあ、分るよ。

庭園風な部屋とかはまあいい。

いかし、緑茶に砂糖とクリームは許されねぇ。

俺達の憤りをよそに目の前のこの船の艦長、リィンディさんからの質問が続き、それに答えていく俺達。

「そう、それじゃあ貴方達は最近起こる不思議な事件の調査をしていたら、偶然あの場所で発動前のロストロギア、ジュエルシードを発見したと?」

「はい」

嘘は吐いてない、ちょこっと真実を誤魔化しただけ。

「子供だけで危険だとは思わなかったのかしら?」

「多少の事ならば何とかできる力がありましたから」

「あなたたちがなんで魔法を使えるのかも聞かなければならないわね。一応管理外世界には知らされてない技術だから」

一応俺の父親が管理世界関係者っぽいと言う事は伝えた。

既に故人で、その技術は残してくれたデバイスと自己流で訓練したとも。

その際周りに都合よく魔導師資質を持っている子が居たから一緒に訓練していたと。

全て話したわけではない。

リンディさんも表面上は納得してくれていたが実際はどうか分らない。

仮にも提督の地位まで上り詰めた人だ、その辺の機微は俺なんかより上だろう。

「なるほどね、管理世界からの移住者の子孫。個人転移の出来る昨今。いくら管理局とは言え、人の出入りを全て管理できる訳ではないと言う事ね」

その事例自体はありふれた物なのだろう。

とは言え、文化レベルで劣る多世界へ進んで行くような人は稀であろうが。

その後あのジュエルシードが次元干渉型の古代文明の遺産である事を教えてもらった。

移送中だったジュエルシードを載せた次元航行艦が襲撃を受け、積まれていたジュエルシードが喪失したと、それを発掘した一族から次元管理局に捜索願が出されたそうだ。

あれ?ユーノは?

これまでの話を総合し、リンディさんから管理局としての結論を出す。

「これよりジュエルシードの回収は私たち(管理局)が行います」

次元震で世界が崩壊してしまうような事態は防がないとね、と。

「だからあなたたちがこれ以上ジュエルシードを捜索する必要は無い」

クロノがそうまとめた。

【お兄ちゃん、これはアレなのでは?】

【うん、ちょっとまずい方向だと思うよ】

なのはとソラからの念話。

俺たちは今、母さんがプレシアとの口約束でジュエルシードとフェイトの親権との交換の為にジュエルシードを集めている。

とは言っても、俺としてはプレシアさんにはあまりジュエルシードは渡って欲しくはない。

ジュエルシードが正しく制御できるのか。

原作ではジュエルシードの数が足りず、暴走覚悟で無理やり起動し、その結果次元震が発生してしまった。

海鳴でも地震が起きる様な描写があったような気がする。

出来れば原作の様に行って欲しい。

罪を全てプレシアに擦り付けるようで悪いとは思うけれど。

まあ、既に原作の『げ』の字も存在していない現在、何が最善かは自分で模索するしかない。

【そうだけど、敵対するのはあまり良い選択とは言えない】

【それはそうかもだけど…】

【それじゃどうするって言うの?】

「普通に生活していてあの化け物に会った場合やジュエルシードを発見した場合は?」

「此方の連絡コードは教えます。出来れば直ぐに連絡して欲しいのだけれど」

「自衛はしても問題は無いのですよね?」

「勿論です。出来れば直ぐに逃げて欲しいのだけれど」

「了解しました」

最後に、もし今ジュエルシードを持っていれば提出して欲しいと言われる。

まあ、持ってないよと言っておいたけどね。

実際今は持ってない。

取り合えず俺達と管理局の初めての接触は無難に終わった。

海鳴へと転送してもらい家路に着く。

「良かったの?アレじゃこれ以上わたしたちがジュエルシードを回収する事は難しいよ?」

と、なのはは言う。

「仕方ないだろう。向こうはどうやら大きな組織みたいだし、逆らってもいい事は無い」

「じゃあどうするの?」

「それは帰ってから家族会議で決めよう」 
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