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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第二十五話

「あ、あんた……ホントに強かったのね……」

 驚きのあまり、ポカーンと口を開けたまま呆然としたリズに、少しムッとくる。
そこまで弱いと思われていたのは心外だ。

「あのな。これでも一応攻略組なんだからな、俺は」

 ……あまり、攻略ボス攻略以外には参加していない気がするが。
最前線で戦い続けても、レベル上がらないからな……

「じゃ、見た感じ次の部屋への扉は無いが……隠し扉があるかもしれないからな。探そうぜ」

 ポケットから出したポーションを口にくわえながら、HPが0になっているマッシブェイト・ゴーレムを乗り越え、部屋の壁を順々に見たり叩いたりしてみる。

 だが、特に変わった感じは無かったためにリズの方を見てみたものの、リズの方も首を捻っていた。
あちらにも、特に何も無いらしい。

 さて、クエストを発注してきたNPCの老店主の言葉から察するに、レア素材を入手出来るミッションだと思ったんだが……最後の部屋に来て、ボスモンスターまで倒したのだけれど、そのようなアイテムは見当たらない。

 そもそも俺の見当違いだったのか、隠し部屋でも見逃していたのか。

「ねえショウキ。もしかすると、あのゴーレムからインゴットが採れたりするんじゃないかしら?」

 そう言ったリズの指差す先には、HPが0になったにもかかわらず、何故か消えずに残っているマッシブェイト・ゴーレムがあった。
片足は粉々になっており、首から上は、俺の抜刀術《十六夜》によって遠くへ斬り飛ばされている。
 危険だと思い、今まで放置していたが……仕方あるまい。

「……危ないからな。リズは少し離れててくれ」

「え、ええ」

 これまでの反省もあるのだろう、俺からの申し出を素直に頷くリズに、今度はこっちが驚く番だった。

「遂に、あのリズも俺の言うことを聞いてくれるようになるとは……」

「う、うっさいわね! あんたが危ないって言うんだから危ないんでしょ!?」

 危ないという、俺の言葉を信頼……してくれているのだろうか。
もしそうなら嬉しい限りだな、などと思いつつ、マッシブェイト・ゴーレムの胴体を調べにはいる。

 想像とは違って何も起きず、とりあえず胴体をコツコツと叩いてみて、その硬さを再確認してみる。
インゴットとするならば、今の状況ではのどから手がでるほど欲しいのだが……

「まさか、このまま持って帰れってことじゃないよな……」

 来るときの無駄に広い通路を思いだし、まさかそうでは無いかと疑念を深める。
もしもそうであれば、これを運びながらあの小型モンスターと対峙しなくてはいけないこととなるため、非常に面倒くさいことになる。

 頭を捻りながらもその手段しか思い浮かばず、仕方がないので、リズにそのことを相談しようと、一旦マッシブェイト・ゴーレムから背を向けて離れると。

 ――離れた瞬間、明確な殺意が俺の背中へと降り注いだ。

「――抜刀術《十六夜》ッ!」

 本能的な恐怖。
そうとしか言えないモノを感じ、抜刀術《十六夜》を背後に向けて放つ。
結果として、その判断は正解だったと言って良かった。

 背後に放った日本刀《銀ノ月》から、先程も感じた圧倒的に硬い感触が伝わってくる。
そんな感触を持つモノは、この部屋にはたった一つしかない。

「こいつ、さっきショウキが倒したんじゃ……!?」

 リズの驚きのリアクションの通り、俺を再び襲っているのは先程倒した《マッシブェイト・ゴーレム》。
片足と首から上がないにもかかわらず襲ってくるその姿は、あたかも不死のゾンビであるかのようだ。

 そして、俺がこいつの攻撃を防御している間に、マッシブェイト・ゴーレムの身体は治っていく。
いや、治っていくのではなく、再構成と言った方が正しいか。
より鋭く。
より速く。
より攻撃的に。

 少し丸みを帯びたデザインだったマッシブェイト・ゴーレムは、その身を少し紅く染め、尖鋭的になっていた……

「ぐあッ!」

 変態が完全に終わったマッシブェイト・ゴーレムは、まず自由だった片腕を使い、防御に必死だった俺を吹き飛ばした。

 そして、そのままマッシブェイト・ゴーレムのターゲットは……俺に追撃することはなく、俺の近くにいたリズに移ることとなった。

「逃げろリズッ!」

 飲みかけだったポーションを強引に飲み干し、当然《縮地》でリズを助けようと急ぐものの……間に合うはずはない。

残酷な現実を俺に突きつけるように、マッシブェイト・ゴーレムは、日本刀《銀ノ月》と鍔迫り合いを行った、腕が尖鋭的に変化した剣で――リズを刺した。

「あ……!」

「させるかッ!」

 リズに攻撃が当たる前には間に合わなかったものの、深く刺される前になんとか助けることに成功する。

 もちろん、すぐさま《縮地》でマッシブェイト・ゴーレムから離れ、先程の戦いでは安全だった扉の近くへ避難する。

「リズッ! 大丈夫か!?」

 俺の腕の中で、なんだかぐったりとしたリズに向けて問いかける。
リズはさっきまでは元気であり、いくら戦闘には慣れていないと言っても、攻撃一発でぐったりするような根性じゃないだろう。
つまり、リズを刺したあの剣には、何かしらの特殊効果があるらしい。

「……ショウキ、逃げっ……」

 恐らくは、マッシブェイト・ゴーレムの剣の特殊効果により意識を失いかけながらも、リズは俺に逃げろと忠告をしてくれた。
そのお礼と言っては何だが、ポケットからピンク色の回復結晶を取り出し、ボスに刺されて減ったHPを回復させ、静かに壁に座らせる。

「悪いけど、ちょっと待っててくれ――すぐ、あいつを倒すからさ」

 こちらに迫りつつあるマッシブェイト・ゴーレムに対し、《縮地》の使用による奇襲攻撃で、マッシブェイト・ゴーレムの目を俺に向けさせる。
……これで三回、連続使用はあと二回ということなので、若干旗色が悪い。

「ちッ……!」

 厄介であろう、片腕の剣を狙うものの、硬すぎて日本刀《銀ノ月》でも斬れない。
剣を斬ることは諦めて、まずは敵の考察から入る。

 まず、先のマッシブェイト・ゴーレムと違うのは、HPの総量。
流石のSAOでも、HPが0になってから復活するのはルール違反なのか、総HPがマッシブェイト・ゴーレムの三割しかない。
だが代わりに、スピードが速くなっている……所詮はゴーレムで、俺に及ぶ程ではないが。

 そして、最大の変更点はその片腕についた剣。
リズの症状を見るかぎり、その効果は恐らくは、『ダメージを与えたら、与えた対象を失神させること』もしくは、それに準じた特殊効果であろう。
そういう効果ならば真っ先に『麻痺』が思いつくが、リズの症状は、あれとは少し違っていた気がする。

 やはり、あの失神させる剣を使用不能にすることが一番なのだが、いくら小技で攻撃しても壊れる気がしない。
ならば、大技でいくしかないのであろうが……外した場合、失神させる剣が飛んでくる。
そうなれば、俺もリズも一貫の終わりだ。

 迫ってくる失神剣を日本刀《銀ノ月》で弾き、ついてない片腕の攻撃を足刀《半月》で防ぎきっているものの、明らかに不利。
前回行った足の部位破壊は、《縮地》の残り使用数が足りない……!

「これは……絶体絶命って奴か……」

 一際大きい金属音を響かせ、リズがいる壁を護るようにしながら後方へと距離をとる。
少し余裕がでたために口元をニヤリと笑わせると、自然と口からは口癖が飛びだした。

「ナイスな展開じゃないか……!」

 それに、ダンジョンに入る前、リズのことは護ると約束した。
約束は護る、あいつを倒すことで……!

「まずはこいつだ!」

 ポケットから五本のクナイを取り出し、それぞれ別の場所に投げる。
狙いは首、胴体、片腕、両足。

狙い通りに全弾命中するも、ただでさえ硬いゴーレム系のモンスターにただ投げただけのクナイ程度では牽制にもなりはしないが、首に当たったクナイだけは、マッシブェイト・ゴーレムのHPゲージを少しばかり減らした。

「弱点は変わってないか……ッ!」

 当たったクナイなどどこ吹く風、といったマッシブェイト・ゴーレムが、大きく腕を振り上げ、パンチを繰りだしてくる。
スピードはまだ遅いため、避けるのも弾くのも容易い……が。

 後ろには、いまだに気を失ったままのリズがいる。
運が悪いことに位置が悪く、俺が避けるか弾くかしたら、気を失ったリズに直撃する危険がある……!

「くそッ!」

 日本刀《銀ノ月》を、マッシブェイト・ゴーレムのパンチから自身とリズを防御出来るように構えて待ち構える。

「耐えてみせろよ、銀ノ月……!」

 幸いなことに、日本刀《銀ノ月》は耐久力を上げている。
我が愛刀なら大丈夫だと信じ、大質量のマッシブェイト・ゴーレムのパンチを、日本刀《銀ノ月》で防ぐ。

 ……よし!
大分押されたが、日本刀《銀ノ月》の刀身に歪みも無く受け止められたことを確認する。
流石にダメージ0とはいかなかったが、このまま反撃に入る。

 ――が、甘かった。
俺が日本刀《銀ノ月》でパンチを防いだ隙を突き、マッシブェイト・ゴーレムはもう一方の腕についている剣――対象を失神させる剣を放ってきていた。

 それになんとか気づいた俺は、急いで態勢を立て直し、日本刀《銀ノ月》で弾こうとするものの……やはり隙は大きく、失神させる剣が俺の肩を穿つ。

 すぐさま弾いたが、少しでも当たったらダメなのか、意識が朦朧としていく。

 ……ならば、朦朧としていない意識を、全て目の前のマッシブェイト・ゴーレムに注げば良い話……!

「……《縮地》!」

 連続使用回数五回のうち、四回目の《縮地》。
だが、そんなことは関係はない……なぜなら、次の攻撃で終わらせるからだ。

 《縮地》のスピードで俺はマッシブェイト・ゴーレムの腕の上を走り抜け、そのまま頭の部分まで到達する。
そのまま、先程のように首をたたっ斬ってやりたいものだが、ここは我慢してマッシブェイト・ゴーレムの頭を踏み台に、天井へとジャンプする。

 この部屋の天井は高いが、マッシブェイト・ゴーレムの頭を踏み台にすれば天井までは届く。
そして、天井スレスレで一回転をし、天井に足をつける。

「斬撃術《弓張月》!」

 かけ声と共に日本刀《銀ノ月》を抜き放ち、身体が重力に従うと共に、天井を大きく蹴った。
マッシブェイト・ゴーレムの伸ばしてきた手が掠めるが、気にせず本体に向かい、その脳天を斬りつける。

 高高度からの、重力と天井を蹴った加速を追加した斬撃。その威力は、まさに――

「一刀両断、ってな」

 マッシブェイト・ゴーレムを頭から身体まで一刀両断し、日本刀《銀ノ月》をしまいつつきちんと着地する。
そして俺が着地したと同時に、マッシブェイト・ゴーレムの身体はポリゴン片となっていき、今度こそ爆散していった。

「ってて……」

 流石に天井が高すぎたようで、きちんと着地したのだが足がヒリヒリと痛む。
そして、先程受けた失神させる剣を受けた影響で、未だに意識は朦朧気味だ。

「もう復活しないだろうな……」

 意識をいくつか回復させようと、頭を振りながらマッシブェイト・ゴーレムの爆心地を見てみる。
爆散した跡地の中心部には、光り輝くインゴットが浮かんでいた。

「これでナイスな展開、じゃないか」

 ありがたくインゴットをアイテムストレージに入れ、扉付近で倒れているリズに近づく。

「さて……帰ろうぜ」

 未だに応答はなかったが、リズを背中におぶりながら……一瞬、監獄送りにされないか不安になったが……転移結晶を掲げて叫ぶ。

「転移! 《アルゲート》!」

 これからどうしようか考えながら、とりあえず転移のライトエフェクトに包まれた。 
 

 
後書き
テスト中?
触れないでやってください。

リズ編は、予定だとあと二話で終わる予定です。

ではまた。
感想・アドバイス待っています。 
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