東方喪戦苦【狂】
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三十一話 「信じてる」解
前書き
…私は捕われている?
未だに、あの悲痛な世界にトラウマを抱いている?
私はもう、死んだ。
死んだんだよ。
…どうやって?
わからない、
貴女は狂って無いけれど。
私の心は死んでいる。
じゃあ、身体は?
私の記憶は故障を起こし、薄れて全て消えていく
ーー私は一人…?
鎖は、解けることも無く、執拗に絡みつく…
鎖を解くのは誰?
…もしかして、一生解けないのかもね…
「すみません」
貴女は透き通るような綺麗な声で話しかけた。
「…白夜…だったか?」
一方、彼によく似た、男性が貴女を一瞥する。
しかし男性は、彼より髪が短く、彼より大人びた印象がある。
貴女はぺこりと頭を下げた。
「狂夜のお父様でいらっしゃいますか?」
貴女は淡々と堅く言う。
彼によく似た男性…彼の父親はこくりと、軽く頷く。
「…既に紫から話は聴いた。狂夜の恋人だろう。」
貴女は恥ずかしいのか、彼に対して少し罪悪感のようななにかがあるのか俯いて頷いた。
「…こっちだ。来なさい」
彼の父親は、くるりと貴女に背を向けてついてくるように催促した。
貴女は、少し躊躇いがちに一歩、二歩と大きく、
しかし、まだ心は迷っているのか歩幅は狭くなっていく。
私は貴女の背を押すが触れられないし、感じない
やがて貴女は、小さな歩幅で『その場所』にたどり着き、歩を止めた。
強い芳香の匂い、たくさん枝分かれして、生い茂る緑…と言うより黄緑色の葉
月桂樹。
たしかそんな名前だ。
花言葉は、『名誉』
まるで彼を象徴する言葉、名誉ある死を遂げた、彼。
貴女は、彼の象徴である木をジッと見つめる。
彼の何時も放つ煙草のようにきつい匂いを放ち、
彼の人生の分岐点のように枝分かれした幹、
そして、そこにただただ感じる存在感。
貴女は、俯いた。
『どうして?』
私の声は聞こえない
『ねぇ、どうして?』
私の声は、聞こえな、い
『ねぇ、どうして、泣いてるの?』
聞こえ、な、い
『ねぇ、ねぇ、ねぇ!聞いてよ!なんで!?なんで聞こえないの!?』
貴女は、どんなに言っても話を聞かない
『ねぇ、届いてよ、聞いてよ、顔を見せてよ、こっち向いてよ、なんとか言ってよ、私を見てよ、反応してよ、触れてよ、一人はやだよ、寂しいよ、なんで、どうして?、私は、死んでるの?彼のために泣かないでよ、彼を否定するの?捕らわれないでよ、過去に。』
貴女は、手で涙を拭い。
一本の短剣…と言うより、
先の折れた一本の刀を
貴女は、それを躊躇うことなく名誉の木に刺した。
すると、彼の象徴の木は、一つの異変を起こした。
木の幹から一斉に花が咲いた。
花は色とりどりで大きさ、形が異なっている。
『あぁ、彼も捕らわれていたのか。』
私は、その中で見つけた。
一つ、この木にふさわしくない…いや、今は、ふさわしいかもしれない。
知識の果実を。
彼は、神に抗い、過ちを犯した。
まるで起源人間。
アダムは彼。
イヴは貴女。
私は、貴女と彼を唆した蛇。
なんだ、全部、私じゃないか。
悪いのは、全部、私。
私は死んだ。
もう貴女達には何もできない。
ははっははははっ
はははははははははははははははは
私の心は壊れている。
もうなにも見たくない。
もう考えたくない。
もう死にたい
これが私の罰だというのなら。
それこそ世界は残酷だ…
貴女は、その果実を木から取った。
黄金の果実。
「…1つ、質問いいか?」
彼の父親は、名誉の木を見ながら躊躇いがちに言った。
「…」
「狂夜と神那は、この幻想郷に貢献出来ただろうか、」
…
私は何もしていない。
出来ない役立たず。
私のせいで彼も死んでしまった。
「…えぇ、あの二人は、この幻想郷の英雄ですよ」
貴女の素っ気ない答えに私は固まった。
そこになぜ、私が含まれている。
私は…何もできなかったのに。
「…そうか」
彼の父親も相変わらず木をいつまでも黙視して言った。
「…自分の子供がどうでもいい親なんていない。子供がなにか大きな事をすると、親は嬉しい。」
「…」
「死んでしまったのは、残念だが」
貴女は、ピクッと反応して言った。
「…随分と割り切りますね…」
私はもう何も言えない。
この場にもいたくない。
ならどうして私は貴女の傍に?
自問自答を繰り返すが、その答えだけは私に出ない。
「例え、望まぬ信義でも、それは運命。
運命とは、レール。
踏み外すのは、簡単だ。彼らはレールを踏み外す事もできた。
しかし、彼らにも誰かしらついてくる。
レールから脱線したら、後ろはそれについていくしかない。
神那は、レールを踏み外さず、運命のままに死んだ。
狂夜は、その神那のレールを引き継ぎ、お前に託した。
お前はそのレールを安心して引き継ぐ事が出来た。
…いいじゃないか。よく、やってくれたよ。」
私は…
…ちゃんと、貴女達を導けたの?
彼の父親は、最後に一つ、いった。
「幻想郷は、全てを受けいれるんだ。」
貴女は、それを少し、笑って答えた。
「それはそれは残酷な話です」
…彼女は、引き継いだ
引き継いでくれたんだ。
気恥しい気もする。
だけど言わせて?
『ありがとう』
私の身体は軽くなり、光の粒子となって消えた。
後書き
蝉の音が響く森の中。
私はそこで目を覚ました。
ここは、どこ?
あたりを見回すと、彼はそこにいた。
「もう、帰ろう。」
私は大粒の涙を零した。
「うん。」
私は一人じゃない。
みんな、一緒。
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