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戦国異伝

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第二百十一話 磨上原の合戦その十

「そういうことでしたら」
「案内して頂けますな」
「はい」
 一言での返事だった。
「そうさせて頂きます」
「さすれば」
「ではこちらに」
 羽柴は笑顔のままだ、政宗を。
 その場に案内するのだった、そして。
 その話を聞いた信長は本陣においてだ、笑ってこう言った。
「ははは、利休とか」
「左様であります」
 羽柴から報を伝えられた伝令役の旗本が応える。
「お会いしてです」
「茶を教わりたいというのじゃな」
「その様に」
「そんなことを言っておるぞ」
 信長は傍に控えているその利休に問うた。本陣にいるがいくさ人ではないので具足も刀も一切身に着けていない茶人の身なりである。
「伊達政宗は」
「その様ですな」
「どうする、それで」
 信長は利休に笑みを浮かべてまた問うた。
「会うか」
「是非共」
「では茶の用意をせよ」
「さすれば」
「そしてじゃ」
 さらに言う信長だった。
「その姿で来るとはな」
「まさかとは思いましたが」
「面白いわ」
 実に、というのだ。
「このこともな」
「伊達殿は一体何をお考えなのでしょうか」
「うむ、それはな」
 そのことはというと、
「傾いておるのじゃ」
「傾いているのですか」
「そうじゃ」
 それで、というのだ。
「それでその格好で来たのじゃ」
「殿の御前に」
「あえて」
「そしてじゃ」
「利休殿にお会いしたいということも」
「そのことも」
「傾いておるのじゃ」
 それで言ったというのだ。
「それもな」
「いや、そこまで傾くとか」
「伊達殿はこれまた」
「大層な傾奇者ですな」
「これはまた」
「ううむ、これはまた」
 信長に次いで傾奇者とだ、織田家で言われている前田が言った。
「それがしもです」
「思いも寄らぬな」
「はい」
 全く以てというのだ。
「大層な傾きですな」
「全くじゃ」
「いや、ここまで傾きますと」
 今度は天下の傾奇者である慶次が口を大きく笑って言った。
「愉快でございますな」
「ははは、やはり御主はそう言うか」
「見事な傾きでござる」
「全くじゃ」
「さてさて、ではその傾きをです」
 さらに言う慶次だった。
「是非共です」
「見たいな」
「はい」
 その通りだというのだ。
「これより」
「ではな」
「はい、これよりですな」
「伊達殿を」
「こちらに入れよ」
 こう言ってなのだった、信長は政宗と会うのだった。その政宗の傾きを見る為にも。


第二百十一話   完


                            2014・12・26 
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