101番目の哿物語
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番外編2。とある魔女の現地調査《フィールドワーク》
「やっと着いたよん♪」
モンジ君達と別行動をとる事にした私は、調査対象のあの子、彼女がかつて通っていたとある小学校に来ていた。調査対象にあの子が入っているのは私の独断で、本当は外れてほしいなー、なんて思っている。
あの子とは一カ月くらい前に、モンジ君と出会った際に知り合った。
『魔術』で記憶は改竄したから、あの子からしたら私は高校入学時からの友人だけどねっ!
「さて、始めようかな」
ここまでアラン君の案内で来た。一緒に入ろうと言っても用事かあるとか言って先に帰ってしまった。
慌てて走り去っていくアラン君の背を見ていたら……。
顔はいいのに、やっぱり残念な人だなぁ〜。
なんて思っちゃたよ。
彼からもう少し情報を引き出したかったけどアラン君は何故か、私と二人っきりになるといつも借りてきた猫のように大人しくなる。
モンジ君が側にいるとあんなに騒がしくなるのに、なんだか残念な子だと思っちゃうなー。
……って、話が逸れちゃったね。
今回の目的は『神隠し』を調べる事。
その為に私は境山の麓まで現地調査に来た。
いろんな人や物から情報を得るのが『魔女』の私の役目。
『魔術』を使って人の記憶を操作して情報を引き出すのが私のやり方。
今回も事務員や教職員の記憶を弄って、図書準備室に保管されている過去数十年分の児童の名簿を読み漁っていく。
たくさんある名簿を見ていると、ちょっと気になることがあった。
それは普段から『魔術』をよく使う私だからこそ解る些細な変化。
他の記録に比べると、とある学年の名簿だけやたらと薄くなっているのが解る。
少子高齢化社会だから子供の人数が毎年減少していくのは不思議な事ではない。
だけど他の学年や他の記録と比べて、とある生徒達の在籍期間の間だけ名簿が薄いなんて事は変だ。
「これ、改竄されてる?
……ううん、違う。いなかった事にされてるんだ」
『魔女喰いの魔女』として様々な人やロアの記憶を食べてきた私だからこそ解る。
他の記録より薄くなっているのはその存在を失ったのが原因だという事が。
記録の消去。
つまり、この世界の人や文献から存在そのものがなくってしまったという事。
世界から存在そのものが消されてしまったという事になる。
「……神隠し、かぁ。
『魔女』と呼ばれている私と同じくらい大変な存在だね。
あの子には同情するよ」
「君にだけは同情されたくない、って全ての真実を知ったらいいそうだけどね、ニトゥレスト君」
「っ……いつからそこにいたの⁉︎ んもう、驚いたなぁ。
久しぶりだね、教授」
突然背後から聞こえてきた声に驚きながら振り向くとそこには、白いタキシードを着こなしたいかにも紳士! という感じの初老の男性が杖を片手に佇んでいた。
「久しぶりだね、ニトゥレスト君。
いや、今は仁藤キリカ君と言った方がいいのかな?」
「あはは、うん、キリカ♡って呼んでもいいよ?」
「さて、キリカ君」
「うわぁ、スルーした⁉︎」
「その返答は推理していたよ。そしてその要望にはノーと答えよう。
流石にこの歳でキリカ♡って呼ぶのは紳士道に反するからね。
だから敢えてこう呼ばせていただこう『魔女喰いの魔女・ニトゥレスト』君と」
「ちぇー、相変わらずお堅いんだから、教授は……」
そう言いながらも私は彼と出会ったあの日の事を思い出していた。
彼の事は本人の希望もあって教授と呼んでいる……本名は知らない。名前を聞く前に消えてしまうから解らない。
この老人と初めて出会いは今から10年ほど前に遡る。
当時、10数年前、日本のみならず世界中でとある都市伝説が流行っていた頃で、『世界中』を巻き込んで大パニックになっていた時だった。人間にはあまり知られていないが当時、世界各地ではその都市伝説を倒す為に人間、ハーフロア、ロアが手を取り合って世界中を巻き込んだ大きな戦いが起こっていた。
私は当時、その戦いに参加していた。この世界を守る為に。
その戦いは大きな犠牲が出るくらいに激しい戦いで沢山の人やロアが消えた。
元凶となったロアはとある『ロア』の中に封じ込められ、その結果、世界に平和が戻ったがその戦いであまりに大きな犠牲が出てしまった。
まあ、『魔女』の私からしたらどっちが勝とうが、負けようがどうでもよかったというのが本音だけど……偶々仲良くなった子が人間側にいたからそっちの『勢力』として参加していただけだからね。
戦いが終わった後、『魔女』と呼ばれた私は多くのロアと戦った影響で疲労困憊した身体を休める為に英国でバカンスを楽しんでいた。
バカンスというより療養していたといった方が正しいけど。
私の魔術は代償を支払う事で強力な術が使えるからね。
体調がある程度回復した私は街中のカフェでアフタヌーンティーを嗜んでいると店員が私に声をかけてきた。
周りの席がいっぱいで相席を求められてきた店員に頷いて相席を許可すると私の目の前の席に彼が座った。
それが彼との出会いだ。
英国紳士と自称するように立ち振る舞いは紳士的で会話しなくても利発という雰囲気が感じられる男性だった。
「やあ、初めまして。この時間のここに来れば君に出会えるとそう、推理していたよ」
席に着くやいきなりそう声をかけてきた彼。
「『魔女喰いの魔女』……いや、正確には______といった方がいいのかな?」
最初はナンパかなぁーと思ってしまったけどナンパとかじゃなかった。
いや、ただのナンパならまだよかったかな。
基本的に人を嫌いにならない私だけど彼だけは苦手だと今でも思ってしまう。
彼は私の全てを知っていたからだ。
私が隠している秘密も全て。
「……どうして知ってるの?」
今まで私の秘密に気づいた人はいない。
気づかせる前に全て消してきたからだ。
「それは初歩的な推理だよ、ニトゥレスト君」
彼は私の秘密をその場で全て言い当ててみせた。
イタズラに成功した子供のような笑みを浮かべて。
「日本に来てたんだ⁉︎」
「うん。僕の推理通りなら、面白い人物がこちらの世界に来ているはずだからね」
過去を振り返っていた私が我に返って目の前にいる男性に尋ねると私の顔を見つめる彼は微笑みながらそう言ってきた。
「こちらの世界?
ああ、その人は私達みたいなロアなの?」
私の知らないロアについてなのかと、そう結論づけて聞いてみると彼は。
「残念ながらその問いにはこう返すよ。
半分正確で、半分外れだ……とね」
意味深げに言った。
「?」
半分正確で、半分外れ……どういう意味だろう?
「こちらの世界に僕が来れたくらいだから彼が来てもおかしくはないんだけどね。
だけど運命を感じてしまったよ。
まさか彼が物語の『主人公』になるなんてね」
「ほえ?
まさかモンジ君の事。2人は知り合いだったの?」
一体いつの間にモンジ君は彼と出会っていたのだろうか?
私が知らないうちに出会っていた事実に戸惑いを見せると彼は驚きの発言をした。
「彼とは深い縁があるからね。
だからいつかは再び出会う、それは推理していたよ。
今日、こうしてわざわざ僕が来たのは君達に忠告しておくことがあるからだよ。
まず一つ目。君達が追っている神隠しだが今回騒がれているこれはただの神隠しではない。真実を知れば君達だけではなく彼女達も傷つく事になる。
それでも続けるかね?」
彼の口から出された質問に私は一瞬戸惑ったが戸惑ったのはほんの一瞬で自然と口からその質問に対する答えが出ていた。
「う〜ん、私もなんとなくそんな気はするんだけどねー。でもモンジ君なら大丈夫だと思うよ?」
「……何故だい?」
「うーん、はっきり言えないんだけど彼って、スケコマシで女たらしだけど……やるって決めたら最後まできちんとやる子だからかなー」
「ほぅ……」
「それに……もし神隠しが女の子ならモンジ君なら何がなんでも助けようとすると思うんだよねー」
瑞江ちゃんの時の状況は詳しくは知らないけど少なくとも私の時は、彼は最後まで私を見て、ロアとかそういう目で見ないで、一人の人間として仁藤キリカとして、私を信じようと足掻いてくれた。
私は彼を襲って殺そうとしていたのにも関わらず。ましてや、襲った私を助ける為に『自分の物語』に加えるなんて普通はしないと思うのに。
これまでいろんなロアと戦ってきたけど彼みたいなタイプはいなかった。
「お人好しというか、女の子に甘いというか、普通ならしない選択肢を迷わず選ぶところとか……モンジ君って本当、面白いよねー」
クスクス私が笑いながら言うと彼は「ふむ?」とよく解らないといった感じで首を傾げて呟いた。
「それについてはよく解らないな。女性の恋心は僕の苦手な分野だからね。
ただ解った事もある。この世界でも彼は女たらしだという事はよく解ったよ」
「モンジ君が女たらしなのは結構昔からだと思うよ?」
私がそう言うと彼はクスッと笑った。
「それも因果かな? まあ、どっちにしろ彼が来てくれた事は喜ばしい事だよ。
彼なら君が抱えている問題も神隠しもすぐに片付くだろうからね」
「教授がそこまで言うなんて珍しいね?」
「彼は僕が認めた男だからね。
なんたって彼は『史上最高の名探偵』と呼ばれた僕の推理を翻した男だからね」
「へー、『史上最高の名探偵』かあ。
まさか教授の正体が______とはね?」
「おっと、そう言えばキリカ君にはまだ名乗っていなかったかな。
では改めて。僕は______だ」
「英国が誇る『最高の名探偵』かあ。
有名なロアの正体が教授だとはねぇ。
そんな教授が私に会いに来たなんて……なんだかおっかないなぁー」
「『魔女喰いの魔女』にそう思ってもらえたなら光栄だよ」
手にパイプを持って口に含んだ彼に私は一言告げた。
「構内禁煙だよ?
それに、まずって事はまだ忠告する事があるって事だよね?」
「安心したまえ。僕が手にしているこれは電子パイプだよ。
だからタバコではない」
「いや、そういう問題じゃないと思うけど……」
「忠告の二つめだが……「ああ⁉︎ またスルーされたー⁉︎」これは君より彼に関わる事だが……近いうちに『最強の主人公』が君達の前に現れるだろう。
いや安心したまえ、それは僕ではないからね。
僕はこの世界でも『最高の名探偵』と呼ばれているが『最強の主人公』では残念ながらないからね」
教授はそう言いながら電子パイプを蒸しはじめた。
「最強の主人公……まさか⁉︎」
その存在については聞いた事がある。
当たってほしくないくらい私達ロアにとっては危険で最悪な都市伝説だけど。
本心でも当たってほしくない。いくら私が『魔女喰いの魔女』だとしても噂通りなら『消される』可能性が高い存在だからだ。
「3つ目だが……もう間も無く封印が解かれるだろう。
あの『予言』の彼女が解き放たれる日が近い。早くて夏頃かな。
僕はそう推理したよ」
あの『予言』と聞いて、私の脳内ではあの『都市伝説』が浮かんだ。
10年前に流行った終末の予言。
世界を終わりに導く世紀末の大予言。
そして、その後に噂された。
あの『都市伝説』の事も。
「そっか……復活しちゃうんだ」
「残念ながらまず間違いなく復活するだろうね。
それは避けらない出来事だよ。復活した後、この世界がどうなるかは推理出来なかったけどね。
歳のせいか、『条理予知』でも完全には解らなかったよ。
ただ……今回復活してもなんとかなると個人的に思ってるよ」
「え? 何で?」
彼の発言にビックリしてしまった。
あの『都市伝説』が復活するからではない。遅かれ早かれ復活しちゃうもんだとは思っていた。
そして一度復活しちゃえばまた大きな戦いが起こるのも解っている。
『大予言』は世界を終わりにする為に動くのだろうから。
物語的な動きに従うのが私達ロアの行動だから。
だから戦いは避けらない。
この世界を守りたいと思うロアや人間、ハーフロアは数多く存在しているのだから。
私が驚いたのは彼が『なんとかなる』という自信有り気に発言したからだ。
「解らないって顔しているね。
初歩的な推理だよ、キリカ君。
僕が楽観視しているのは彼が来たからだよ。
『不可能を可能にする男』がこの世界に、ね」
「『不可能を可能にする男』ってモンジ君の事?」
「ああ、そうとも。
そしてこれが最後の忠告になる。
まず間違いなく君の真のマスターに彼はなると推理しているがあまり彼に異存してはいけない。
何故なら彼は君が知る一文字疾風ではないまったくの別人なんだからね」
「え?
どういう事なの⁉︎」
聞き間違いかと、戸惑う私に彼は言い放った。
「彼は憑依されている。
今の彼は君が知る一文字疾風ではない。
まったくの他人だよ。
遠山金次というネクラで無愛想、女たらし。
そんな色んな意味で人間を辞めている人間が一文字君に憑いているのだからね」
教授から告げられたその事実に私は衝撃を受けた。
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