観化堂の隊長
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
3部分:第三章
第三章
「食べよう。頼んだものは全部食べないと」
「一片だけ残してるよね」
「勿論」
にこりと笑って答えた。このことは忘れない。中国圏だと食事をほんの少しだけ残しておくのが満足したという証なのだ。中国圏独特だ。
「ほら、こうしてね」
「合格ね。じゃあ後は」
「うん、食べてしまおう」
「ええ、努力してね」
こうして二人で頑張って残りも食べた。そのうえでお勘定を払ってお店を後にした。そして朴達が泊まっているこれまた馴染みのホテルに戻った。台湾ではまあそこそこのホテルで内装も設備もしっかりしている。そこの赤紫の絨毯と白い壁のロビーに行くと丁度もう八十をかなり越えているお爺さんが椅子に座っているのが見えた。この人だった。
「あっ、馬さん」
「そこにいたんですね」
「ああ、おやおや」
お爺さんは僕達の声を聞いて愛想よく顔を向けてくれた。御歳のわりには姿勢もいいし動きも早い。屈託のない愛嬌のある笑顔を僕達に見せてくれた。
「早いね、二人共」
そして流暢な日本語で返してくれた。台湾はかつて日本領だったことは知っているけれどそれでもかなりいい日本語を話している。
「もう食べたのかい?」
「ええ、あの店で」
「もうたっぷりと」
「そうかい。それはいいね」
「ところでですね」
「うん?」
そして玲子が馬さんに尋ねたのだった。
「明日ですけれど」
「明日行く場所かい?」
「苗栗県ですよね」
「うん、そこだけれど」
「何処に行くんですか?」
玲子は怪訝な顔で馬さんに尋ねていた。
「そこの何処に」
「獅頭山だけれど」
「獅頭山!?」
「何処だろ、それ」
「さあ」
僕達は馬さんの話を聞いてもさっぱりわからなかった。ただ顔を見合わせ不思議な顔をするだけだった。
「全然わからないわよね」
「うん」
「ああ、そのうちわかるよ」
けれど馬さんは陽気に笑って僕達にこう言うのだった。
「そのうちっていうか明日にね」
「明日にですか」
「そう、いけばわかるよ」
また僕達に言う馬さんだった。
「それでね」
「ひょっとして道観ですか?」
ここでまた玲子が馬さんに尋ねた。
「行く場所って」
「まあそこだね」
それは馬さんも認めてくれた。
「道観なんだけれどね」
「道教の神様かな」
「関羽菩薩みたいなもの?」
また僕達は顔を見合わせて言い合った。中国人、海外では華僑になるが中国圏の人達のいる場所では絶対にあるものだ。横浜にもあるあの関帝廟のことだ。
「ああいうものかな」
「そうじゃないの?」
「そんなものだね」
馬さんは少し考える顔になってからまた僕達に述べた。
ページ上へ戻る