| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ローマの終焉

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

2部分:第二章


第二章

「陛下、オーストリアからです」
「あの国からか」
「はい、そうです」
 その通りだというのであった。
「神聖ローマ皇帝を退位し」
「そして神聖ローマ帝国の滅亡をだな」
「そうです。それを承認するサインがされています」
「わかった」
 小柄な男はそこまで聞いて満足した声を出した。そしてだ。
 そのうえでだ。彼はまた話をするのであった。
「ではこれで私がだな」
「フランス皇帝になられます」
「その通りだ。タレーランよ」
 男は前にいるその足の悪い男の名前を呼んだ。そうしてだった。
 今度はだ。こう話すのであった。
「神聖ローマ帝国は滅んだ。しかしだ」
「ローマ帝国はですね」
「それは不滅だ。そして新しいローマ皇帝はだ」
「貴方がですね」
「そうだ、私だ」
 他ならぬだ。彼だというのだ。
「ナポレオン=ボナパルトがなるのだ」
「真の意味でのローマ皇帝に」
「私はこの欧州を完全に私のものにする」
 そこには絶対の自信があった。小柄だがそれでもだ。そこにあったのは絶対の自信であった。それを玉座の中に見せたのであった。
「わかったな」
「イギリスはどうされますか」
「封鎖せよ」
 ナポレオンが強い声で述べた。
「よいな、ここはだ」
「陛下、それは」
「駄目だというのか」
「イギリスは暫くはどうとでもなりません」
 こう話すのであった。
「ですから閉鎖をしてもです」
「効果がないというのか」
「はい、ありません」
 また言うタレーランであった。玉座にいるその男、ナポレオンに対してもだ。彼は臆するところがない。むしろ拮抗さえしていた。
「ですからそれは」
「いや、それでもだ」
「封鎖されますか」
「そうする。最早決めた」
「わかりました」
 タレーランはこの場では頷いた。しかしであった。
 その目にある光は油断のならないものだった。既に未来が見えている、その目でだ。彼はナポレオン、新しいローマ皇帝を見ているのであった。
 そしてだ。一人の男が机に座っていた。その彼のところにだ。
 彼と同年代男が来てだ。そしてであった。彼にこう言った。
「ゲーテ君、聞いたか」
「滅んだそうだね」
「そうだ、神聖ローマ帝国が滅んだ」
 こうだ。その深い叡智をたたえながらも憂いを含ませている顔の男、ヴィルヘルム=ゲーテに対してだ。彼は話すのであった。
「遂にね」
「そうなのか」
「おや、あまり何も思っていないね」
 友人はゲーテの言葉が素っ気無いのを見てこう言った。
「千年に渡る歴史を持つ国が滅んだのに」
「最早形だけだったからね」
 こう話す彼だった。
「それではね。最早ね」
「最早なんだ」
「最初から形だけの国で」
 これはその通りだった。神聖ローマ帝国は当初から中央の力が弱く諸侯の力が強かった。皇帝がいなかった時期さえあったのだ。
「三十年戦争で死亡通知を出されて」
「ウェストファリア条約だね」
「そうした国だよ。名前だけだったんだ」
「領土といってもね」
「そうだね。形だけだった」
 実質的にはどの国も独立国だった。それが神聖ローマ帝国だったのだ。
「そんな国が滅んでも」
「どうということはないんだ」
「そうさ。まあ日記には書いておこうかな」
 やはり素っ気無いゲーテの言葉だった。
「それ位はいいだろうね」
「本当に何も思っていないんだね」
 友人はそんなゲーテの言葉を聞いて述べた。
「そうなんだね」
「そうだよ。じゃあ書いたよ」
 見れば日記にだ。ペンで書いていた。本当に簡潔であった。
「これで終わりだね」
「神聖ローマ帝国という国も」
「そうさ。これで終わりだよ」
 素っ気無い。あくまでそうだった。そうしてだ。
 ゲーテは書き終えた日記を閉じて机の中にしまってしまった。これで何もかもが終わりだった。神聖ローマ帝国はだ。実に素っ気無く滅び後には何も残っていなかった。それがこの国の滅亡だった。


ローマの終焉   完


                2011・2・24
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧