ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士
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第二章 賢者の石
第十話 動物園
6月23日。
休日を利用して、家に久し振りに帰って来ていたふみとほのかはその膨大な時間を図書館で本を読んだりゲームをすることで暇を潰していたが、すっかり飽きてしまっていた。
「お兄ちゃ~ん、退屈だよ~!!」
「……気分転換を、要求する……」
「困った、どうしようかな~?」
ふみとほのかがどこかに遊びに行きたいと言い出して、エメも退屈していたのでロタロタにどこか遊びに行けそうな場所を聞いてみた。
「ふむ、どこか遊びに行ける場所ですか……」
ロタロタが困ったように言う。
基本的な前提条件として、このアーロン家にはいろいろな施設や道具が揃っているので、わざわざ外に遊びに行く必要がないのだ。
そもそもロタロタは屋敷しもべ妖精なので、屋敷からあまり出ない。ここ十年程も、必要な物資は全て注文して宅配して貰っていたので外に出掛けたことが無く、ここ最近は外にどんなものがあるのか分かっていない。
しかし、主人に頼られたからには役に立ちたいと思うのが本音だ。知恵を絞って案を導き出す。
「──動物園などは如何でしょうか?」
ロタロタの提案を採用したエメ達3人はさっそくふみの持つ世界図絵で適当な動物園を検索すると、エニグマがお薦めした動物園に出掛けていった。
動物園に着いた3人はさっそく入場料を払って園内に入ろうとしたが、保護者がいないからと入れて貰えなかった。
「困ったねぇ~? どうしようか?」
「どうするも何も、いつも通りで良いだろ?」
さっそくそこら辺を縄張りにでもしているマフィアの人間とO・HA・NA・SHIをして動物園に侵入するのを手伝って貰うことにする。
本当は真面目に交渉をしてもいいのだが、少し時間や手間が余計にかかるので、今回は手っ取り早く罠にかかった馬鹿を利用することにする。
裏をしばらく歩いていると、カモだと思って絡んで来る奴がさっそく現れた。
O・HA・NA・SHIする〈さしすせそ〉に則って、
さ 先んじて撃て(先制攻撃)
し しこたま撃て(飽和攻撃)
す すかさず撃て(連続攻撃)
せ 背中から撃て(背面攻撃)
そ それから話を聞いてやれ(停戦交渉)
を忠実に再現する。
背後から問答無用の不意打ち攻撃に、3人がかりで止むことの無い集中攻撃を加えて、抵抗心を徹底的に折ってから交渉をした為、紅茶を飲みながら、笑顔で平和的にお願いをしても、簡単に受け入れて貰えた。今回は人数も要らないし、下っ端1人を狙って相手にしたのが正解だったのだろう。
ボロボロになった男は、大急ぎでエメ達を動物園に放り込むと逃げ出していった。
動物園に入ったエメ達はさっそく園内を見て回る。
トラ、ライオン、ヒョウ、ヒグマなどの動物を同じ高さから観察、上から観察するなど、さまざまな角度から動物を観察したり、空中にせり出したオリにいる動物を真下から観察したりして楽しむ。
「見てみて、肉球! 肉球が見えるよ!!」
「……ほう。……これは、なかなかに斬新」
ほのかは初めて来た動物園にテンションを上げて走り回り、ふみは動物そっちのけでコーヒーイチゴミルク味のアイスに夢中になっていた。
しばらくして、3人が爬虫類館に入ると、建物内に響くような大声を出している奴がいた。
デブった少年が喚き立てているのを不快に思ったエメはそちらの方に注目する。
止めるべき保護者も防護ガラスをバンバンと叩いているのを見て、注意しようと近づくが、その前にその家族は次へ行ってしまった。
せっかく遊びに来ていたのにと気を悪くしたエメが蛇のガラスケースの前まで行くと、少年が1人呟いていた。
「君たちも大変だよね。人の都合で起こされたり、沢山の人にジロジロと見られて……僕は物置に隠れられるだけ、マシなのかな」
なんだコイツと気味の悪い少年を一瞥した後、蛇の方を見ると不思議なことが起こっていた。
さっきまで寝ていた筈のガラスケースの向こう側にいる大蛇がいつの間にか目を覚まし、少年の方を見つめていたのだ。まるで少年の言葉でも聞いていたかのように、それに返事するようにウィンクまでした。
『シュ、シュー(なに、いつものことさ)』
「キミ、どこから来たの?」
少年が尋ねると、蛇は器用にもガラスケースの脇にある掲示板を尾でつついた。見ればそこには《動物園生まれ・ブラジル産-ボア・コンストリクター・大ニシキヘビ》と記されているのが分かる。
「そう……じゃあブラジルを知らないんだね」
コイツ、蛇と会話をしてやがる。魔法使いはこんなことも出来るのかと思っていて、少年の言葉に蛇が頷いたその時、急に二人の背後から劈くような大声が響いた。
「早く蛇を見て! 信じられないことが起きてる!」
「っ!?」
振り返ってみると、どうやら叫んだのは先程迷惑行為を繰り広げていた少年のようだ。
そのまま太った体を揺らしながらドタドタと足音を響かせて少年が全力疾走でこちらに突っ込んできたのが見えた。その様子からこのままの状態で立っていると拙いことになると感じたエメだが、咄嗟のことで回避が間に合わず、巨体による体当たりで横にいた少年諸共突き飛ばされた。
「どけよ!」
ふざけた野郎だと思い、ぶちのめそうと立ち上がったエメの目の前で、蛇を閉じ込めていたガラスケースのガラスがフッと消えてしまった。
ガラスに寄り掛かって蛇を見ていた太った少年は、いきなり支えを失ったことで前のめりに倒れてケースの内側に落ちる。あまりの出来事に太った少年とその家族たちは慌て、側にいる大蛇に対して悲鳴を上げた。
その不可解な現象をエメは呆然と見詰め、その後横の少年に気づき、そういえばコイツも魔法使いだったなと現状に納得する。
マグルの分際で魔法使いの怒りを誘うからこうなるのだ。完全に自業自得である。
大蛇は素早くケースから外へと出ると、魔法使いの少年の方に顔を向けた。
『シャー(俺はブラジルへ行くよ。ありがとうよ、アミーゴ)』
大蛇がケージから逃げ出したことに気付いた客たちは悲鳴を上げ、我先にと出口へと殺到していた。蛇もまた同じ方向へと向かっているので、結果として館内は更なるパニックへと陥ってしまったが。
それからが大変だった。
騒ぎを聞きつけた園長自身が直接やってきて、ひたすら謝った。
他の客の怒りはもっともだが、それを煽るように太った少年が淹れられた紅茶やお菓子に目もくれず、興奮した状態で訳のわからないことを口走っていた。曰く、蛇が首に巻きついてきて絞め殺されそうになっただの、蛇に足をへし折られそうになっただの等云々。
意味の分からん言いがかりを付けられて謝り続けている園長を哀れに思うエメ達。
結局、太った少年の父親が怒り狂って言葉にならない声で怒鳴り散らした後帰って行ったのを見て、他の客達も次々に帰り始める。
それに合わせてエメ達も家に帰ることにした。
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