ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士
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第八話 クラス分け
4月8日。
クラス分けに参加するため、エメはロッカーソンに連れられてボーバトン魔法アカデミーにやって来ていた。
他の者達は汽車で来るらしいのだが、海外まで迎えの来ていたエメだけはロッカーソンの“付き添い姿現し”の魔法で城門までひとっ飛びだ。
本当ならば城内までひとっ飛びしたいところだが、ボーバトン魔法アカデミーもアーロン家と同じく入って来れないようになっているので、敷地内には歩いて入るしかない。
城門と駅の間には広大な森が広がっているらしく、何の嫌がらせだ?と問いつめたくなる。今回は自分に害が無いので黙ってへとへとになってやって来る同期の生徒達を待つことにする。
少し待っているとゴブリンっぽい見た目の背の低い教師に引率された生徒達が続々とやって来る。
城門をくぐった先の大きな庭で休憩を始めたので、適当に混ざる。
全員が揃ったところで列を成し、城にはいって長い階段を登っていくと、上の方に緑色のローブを着た魔女がいた。
「リチャル先生。今期の生徒を連れて来ましたよ」
「ご苦労様ですグーリットさん。ここからは私が預かりますので、貴方は森に帰ってください」
リチャルは嫌な者を追い払うようにグーリットに手を振る。
リチャルに生徒を引き継いだグーリットは階段をヒョコヒョコ降りながら出て行った。それを見届けたリチャルはエメ達の方に向き直り、全体を見渡した後静かに、それでいて全体に響くように話し出した。
「それでは皆さん。これから新入生歓迎の宴が行われますが、その前に皆さんには、所属する寮とクラスを決めるための組分けを行っていただきます。組分けはとても神聖な儀式です。これから皆さんが七年間過ごす所属を決め、そこに所属する生徒は皆が家族のように助け合って過ごすことになります。」
リチャル先生は一息入れ、もう一度全体を見渡して、再度話し始める。
「我がボーバトン魔法アカデミーには、クラスや寮以外に派閥というものがあります。それぞれに輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いや魔女が卒業していきました。ボーバトンにいる間、皆さんの行いが派閥の評価になります。よい行いをすれば所属する派閥の得点になり、反対に規則を破れば減点されます。学年末になれば、その年の獲得点数に応じて派閥には報償が与えられます。皆さん一人一人がボーバトンにとって誇りとなるように望みます」
リチャル先生は話し終えると、準備をしてくるので身なりを整えて待っていなさいと言い残し、奥の扉から広間へと入っていった。
一体どうやってクラスを決めるのだろうか?これだけの人数がいて、あとに宴が控えているなら、そこまで時間は割かないはずだ。
エメの周りにもクラス分けの方法を知っている者はいないみたいで、結局リチャル先生が戻ってくるまで、分からないままだった。
先生の案内で奥の扉を抜けると、そこはかなりの大きさをした大広間だった。一番奥の壇上には巨大長テーブルが横に一つ置かれている。
正面の壁には、エメから見て左から藍色の布に鬣を靡かせ旗を掲げる銀のユニコーン、黒布に冠を被って玉座に君臨する赤い獅子、赤布にラッパを吹く金のドラゴン、青布に体を膨らませた茶色のフクロウ、エメラルドグリーンの布に前脚を高く上げているホワイトグレーの馬、と五つの旗が掛けられてはおり、さらにその上にカトリック派の十字架が輝いていた。
左右と後ろの上階からは多くの先輩が今年入学する生徒達を見下ろし、壇上のテーブルには恐らく教師であろう人たちが座っている。
エメたちは大広間の真ん中を通り、壇上前へと進んでいく。
壇上前に全員が並び、上級生たちに向かって立たされる。
しばらくは静かな時間が流れたが、突如、天使達が光臨し、歌を歌い始めた。
『『『愛を信じる者達よ不屈の覚悟を掲げなさい。聖なるジャンダルクに敗北は無し。
誇り高き者達よあまねく愚者を支配せよ。偉大なアントワネットに栄光あれ。
正義を掲げる者達よ信頼を胸に突き進め。猛るローランスには勝利のみ。
知識を集めし者達よ努力を惜しむ事無かれ。賢人エヴァリストに謎は無い。
勇気を持ちし者達よ調和の心を忘れるな。優しきボナパルトには大義あり。
旗に宿る志しを見失うな!
三種の人と五つの旗が集いしここはボーバトン魔法アカデミー。
ボーバトン!ボーバトン!!ボーバトーーーン!!!』』』
天使達の歌が終わると、一際偉そうな天使が進み出る。対応するように校長が進み出て、頭を下げる。
『祝言を述べに来たぞ』
「今年もよろしくお願いします。ガブリエル様」
今日は、お告げの祝日。
本来ならば大天使ガブリエルによる聖母マリアへの受胎告知を祝う日であるのだが、受胎告知を新たな魔法使いの誕生、つまり新入生の祝いに変換した魔術的な儀式がこのクラス分けの正体である。
さっそくガブリエルによって新入生たちは次々とクラスや寮を分けられていく。
どうやら名前を呼ばれると前に出てガブリエルにクラスと寮を決めて貰う。その後迎えに来た同じ寮の先輩が自分達の席まで案内する。という流れのようだ。
「エメ・アーロン!」
エメの番がやってきた。名を呼ばれたエメはゆっくりと前に歩み出る。
あれほどまでにざわめいていた大広間が少しずつ静かになっていく。
ゆっくりとした足取りで歩き、まさにこれから天使に挑もうかと言わんばかりの堂々とした姿が、その洗練された動作の一つ一つが見る者を釘付けにする。
かの大天使ガブリエルを相手にしながら、ふてぶてしいまでもの不遜さに、誰もが目を離せない。
この場にいる全ての人間が、エメの発する異様な雰囲気
カリスマ性
に呑まれてしまっている。
「…………」
ガブリエルはほぅ、と感嘆の息を吐く。
……時折、この手の生徒が現れる。他と違うカリスマ性とでも呼ぶべき物を備えている優秀な者だ。
「ほーう、これはまた難しい者がきたな。ふむ、聡明でいて知識欲に溢れている。目的のためにはどこまでも貪欲になれる。他者を見下し常に上に立っているのが当たり前だという不遜さを持っている。大事な者の為なら全てを投げ打つ覚悟もある。……実に悩ましいな」
悩ましいと言いながらも、既にガブリエルはエメの寮とクラスを決めていた。
「1組、アントワネット寮!!」
おぉ~、と先輩達にどよめきが走る。
不思議に思いつつアントワネット寮の先輩が迎えに来るのを待つが、誰も迎えに来ない。
本当の上下関係を理解させる為にカリスマ性を魅せたにも関わらず迎え1人よこさないアントワネット寮の先輩達を不快に思ったエメの下に一匹の黒猫がやって来る。
ニャーンと鳴いて招くように尻尾を振るとエメを先導する。
迎えさえも使い魔にやらせ、舐められていると感じたエメは余計に苛立ちを募らせる。
黒猫に連れてこられたテーブルの様子にエメは驚いた。
他の寮に比べて何倍も豪華なテーブルや椅子。何よりもそこに座るもの全員が大小の差はあれど、支配者の風格を纏っているのだ。
「どうした新入生? そんな意外そうな顔をしなくても良いだろう?」
「ああ、すまない……ここだけ周りと違いが大きくてね。不快にさせたでしょうか?」
「フフッ、冗談だよ。これは君の歓迎会だ。そう気を張るな、仲良くやろう
俺の下に下れ
じゃないか」
既に駆け引きは始まっている。
支配する者同士にしか分からぬ些細なやり取り。
エメに黒猫を送り込んで来た先輩がワイングラスを差し出し、杯にワインを注
そそ
ぐ。
仲良くしように込められた副音声に気付いたエメは、注
つ
がれたワインを一口含んでにこやかに微笑み返す。
「ええ、もちろん。これからよろしくお願いしますね。先輩?」
先輩から差し出された手は無視して、ワイングラスを持っていない手をポケットにしまう。もし手を取ってしまえばそれだけで知らぬ間に配下に加わったことにされてしまう。
含みを持たせた喋り方で言外に警告を掛ける。
この僅かな会話の間にも先輩同士で秘密裏に牽制のしあいが行われる。
自分を出し抜こうとする者がいる。自分の指示を聞くだけの操り人形のようだった日本の連中とは違い、自分と同等の実力を持って競える者達の存在を知り、エメは期待に胸
むね
を膨
ふく
らませる。
先輩同士の駆け引きを出し抜いてエメに一番最初に声を掛けてきたこの先輩は相当上位なのだろう。
エメに声を掛けてきたのは軽い様子見の為だけだったのだろう。先輩はそれ以上の会話をしてくることはなかった。
結局エメを含めてアントワネット寮に来たのは他より大分少ない5人だった。
勿論そこにはちゃんとした訳がある。
アントワネット寮はホグワーツのスリザリンに近い考え方を持つ、純血主義の魔法使いや魔女が集まる寮だ。
基本的に魔法使いや魔女は貴族、もしくはその関係者だった。これは力を独占する為に貴族が積極的に魔法使いを血筋に取り入れてきた結果だ。
つまり純血≒貴族の方式が成り立つ。
そしてフランス革命で多くの者が死に、アントワネット寮に入る純血の魔法使いは激減したという訳だ。
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