ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士
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第一章 原作開始前
第一話 入学案内
前書き
他の作品に影響を受けて書きたくなった。
内容自体、影響を受けまくってます。
日本という地のマグルの住処に神崎・エメ・アーロンという少年が住んでいた。
頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群の三拍子が揃った少年は人望が厚く、学園や地域の子供達、場合によっては大人までもを従える才覚を持ち合わせていた。
父親は英国の純血魔法使い、母親は仏国の混血魔女、母方の祖父は日本の魔法使いという血筋で、様々な分野の魔法に手を伸ばしていた。
これほど魔法使いとしての血筋に恵まれた少年がヨーロッパから見れば辺境ともいうような日本の、それも魔法を使えないマグルの地に住んでいるのは、ひとえに両親の所属のせいであろう。
彼の両親は……かつて魔法界を恐怖に陥れたヴォルデモート卿の忠臣であったからだ。
現在、彼の父親はアズカバンに収容され、母親は墓の下に眠っている。エメは唯一の親族である叔父のもとで生活している。
さて、この叔父だが、この人は幾つかの困った癖を持っていた。
一つ目が放浪癖だ。1歳の時に母親が死に、2歳の時に父親が収容されたエメは叔父に預けられたのだが、その叔父はあろう事かエメを連れたまま世界を放浪し続けた。
二つ目は責任感の無さだ。6歳になったエメに屋敷と金を与えると、小学校に放り込んでまた旅に出てしまった。
三つ目が拾い癖だ。世界各地で見つけた物、あるいは人さえも拾って、日本にいるエメに送り込んでくる。管理や面倒はエメが見るしかなく、たちが悪いことにエメの下に届く頃には送り込んだ事すら忘れている事も稀ではない。
そして四つ目のこれが今回の問題を引き起こしている。うっかり癖、忘れ癖だ。叔父は魔法の使えないマグルであったが、魔法使いの一族に生まれている為、当然魔法を知っている。しかし、エメに魔法の事を教えるように頼まれていたのを忘れ、11歳まで放置していた。
神崎家に2つの人影があった。
1人はまだ十歳の幼い少年で、名をエメといった。もう1人は30半ばの男で、エメに対してロッカーソン・ヴェガと名乗った。
エメは突然やってきた男を警戒し、様子をうかがっている。
そもそも服装からして不自然なのだ。とんがり帽子に黒いローブ、片手には明らかに歩行補助用とは思えぬ杖を持っている。
何故か防衛装置が作動せず、家の中に遠慮も無くズカズカと上がり込んで来たロッカーソンを睨みつけ話を聞いていたエメは、その話の不可解さにうろん気な目で質問をする。
「それで、ボーバトン魔法アカデミーでしたか?その入学案内について訪問したと仰っていましたが」
「えぇ、その通りです。ですが、それについて話す前にアカデミーや魔法についての説明しなければならないようですね」
そうして来訪者から色々な説明を受けた。
まず、世界には魔法という一般には秘匿された神秘の業があることから始まり、ボーバトン魔法アカデミーは、その魔法やそれに関連するものを学ぶ為にあるフランスの学術機関ということ。
魔法の学校には誰でも入れるわけではなく、魔法を扱う資質のある者のみ入学でき、魔法の資質さえあれば、過去魔法に関わってこなかったマグルでも入学できる事などを教わった。
「エメ君が希望するならばボーバトン魔法アカデミーは喜んで君を歓迎しましょう。ですが、もし入学を希望しない場合は、今日知った魔法に関する記憶だけ消して君の日常に戻っても構いません。どうしますか?」
丁度その時、屋敷のチャイムが鳴らされた。
「すみませーん!!警察です。通報を受けて来たのですが?」
「あっ、すみませんこっちです。この人が先ほど通報した怪しげな宗教勧誘をしていて、先ほどから魔法がどうのこうのとか……場合によっては精神病院行きかもしれませんし、引き取って貰っていいですか?」
「なっ!?」
驚愕している来訪者を警察に押し付け追い払う。
警察を見送った後、部屋を掃除して屋敷の中の換気をするエメからは、屋敷に他人が上がり込んで来たことと防衛装置がまともに機能しなかったことにたいする強い嫌悪感が漂っていた。
招待もしていないのにかってに部屋へずかずかと上がり込んで来て、厚かましくもくつろいでいた無礼者の痕跡一つ残さぬように徹底する。
「ふぅ、他の奴らが帰って来る前に追い出せて良かった」
突然やって来た不思議な来訪者がいなくなった後、掃除をすることで気持ちを落ち着けたエメはあることを思い返していた。
昔から、自分の身の回りには不可思議なことがよく起こっていた。
接触していると、相手の考えることがなんとなく伝わって来ることがあった。
初めてこの屋敷に叔父が送って来た子は、時々バチバチと放電していた。
次に送られて来た子は、感情が高ぶると(物理的に)爆発する。
どこか余所見をしながら遠くにあるものを取りたいなと思った時、気が付いたら手元にあったり。
心当たりだけならいっぱいあり、魔法を信じる理由にはなった。だが、それがどうしたというのだ?
エメにとって大人は信ずるに足らず、信頼も信用も出来なかった。
おそらく物心
ものごころ
付いた頃から叔父のダメダメな姿を見て育ち、面倒を見てもらった記憶が無いのと、少し大きくなってからは金のある屋敷に子供だけで暮らしているという悪い人間が集まり易い環境で育ったのが原因だ。むしろエメは叔父の送り込んで来る荷物を片付けたり後始末を行ったりするので、逆に面倒を見て上げている気でさえいる。
また、育った環境のせいで精神年齢が他の子達よりも高く、天才であった為に大人たちもクラスをまとめる為などに頼っていたのもそれを加速させた原因だろう。
エメの世界は極々少数の人間関係とその他大勢という括りで既に完結してしまっていた。
子供は大人よりもそういうものに敏感だった。エメの心に張られた壁を超えないように、子供達は大人が気付かぬ内に対等な関係から、上下の関係へと認識を移して行き、最終的に大人に頼る前にまずエメに頼りに行くようになってしまった。
大人たちが気付いた頃には既に手遅れだった。エメはエメ本人すら気付かぬ内に、周りの全てを支配してしまっていた。
そんなエメの心の壁を超える事が出来たのが、叔父の送って来た子であった。
他の者達は近づく事すら躊躇い、決して踏み込むことの出来ない領域に入り込んだ2人だからこそエメは本当の家族に成れたのだ。
だからこそ、エメには理解出来ない。その他大勢の地へ赴くために、家族と別れて自分の支配する土地から去ることが……。
「ただいまー!!お兄ちゃん、今日の夕食なに~?」
「……ただいまです。……ほのかちゃん、今日の料理当番……私、何だけど……」
「ぬぁ~んで~すとぉ~?それでは、夕飯はまだだと言うのですか、ふみ軍曹!!」
「……軍曹?……今から作るから、ちょっと待ってて……」
どうやら随分長々と思考にはまり込んでいたようだ。とエメは思い、立ち上がって2人の元へと向かう。
「お帰り2人共。ふみ、夕飯作り手伝おうか?」
「……むふ~。……大丈夫、問題ない」
「じゃあ、私は風呂に入って来るよ。ほのか一等兵、行きます!!」
ほのかはバッと2人に敬礼すると、風呂場に去っていった。去っていくほのかを見送りながら、エメとふみが言葉を交わす。
「……凄い失礼。……せめて伍長が、良かった……」
「あいつ今、何にはまってるんだ?」
「……アフロ軍曹」
「あぁ、緑のカエルのやつか……」
ふみは料理を作り始め、エメは食器の用意をする。
ほのかが風呂から出て、3人で一緒に食事をする。
これがいつも変わらない神崎家の日常だ。
3人で夕食を食べていたら屋敷のチャイムが鳴らされた。こんなに遅い時間にやって来るなんていったい誰なんだろう?と3人で顔を見合わせる。
もう一度チャイムが鳴らされる。
「あっ、は~い。今行きますよ~」
ほのかが玄関に向かってパタパタと駆けていく。
「はい、はい、どちら様ですか?えぇ、そうですね。お兄ちゃ~ん」
何なんだろう?と思っていたら、ほのかが客人を連れて戻って来た。
ほのかが屋敷に招いた客人を見て、エメは疑問を抱いた。
「ほのか、何でその人を屋敷内に招いたんだ?」
屋敷に招かれたのは、エメが数時間前に警察に引き渡した人物だったからだ。
しかし、質問されたほのかの方は何故そんなことを言われたのか分からないという顔で答える。
「えっ?だってゲンさんからの紹介状を持ってるから、正式なお客さんでしょ?」
「叔父さんの?」
「……紹介状?……ほのかちゃん、見せて……」
本当に持っているならば、さっき来たときに何故見せなかった?と警戒しているエメの横で、ふみが手紙の内容を確認する。
「……本物」
ふみが頷いて、ようやく話し合いが始まる。
早速、ほのかが気になっていることを質問する。
「あの、それで貴方は結局誰なんですか?ゲンさんとはどういう関係で?」
「私はボーバトン魔法アカデミーの教員をしているロッカーソン・ヴェガです。学校ではヴェガ先生と呼ばれている……貴方達はまだ生徒では無いので好きに呼んでいいですよ。それで、彼は何も知らなかったらしいのですが、貴方達はボーバトン魔法アカデミーについて何か知ってますか?」
「いいえ、何も……」
「……何かの、実験施設……ですか?」
「まさか、貴方達は……本当に何も知らないのですか?エメ君のご両親の事や、自分達の持つ力について何処で何を学んでいくべきなのかを?」
「学ぶって、小学校でちゃんと勉強してるよ?」
「ちょっと待った!」
大人しく話しを聞いていたエメは椅子から飛び上がるようにして立った。
その全身からは怒りが迸っているようで、空気が張り詰め辺りに緊張が走る。理由は分からないが怒っている様子の来訪者を睨み付け、エメは口を開く。
「お前、俺の本当の両親を知っているのか?」
「貴方が……あのアーロン家の末裔ともあろう者が……何も、知らないと? 自分が、どれほど偉大な血筋の生まれにあるかも?」
「「?」」
「ちゃんと説明しろ、俺はこの世界の王族か何かとでも言うつもりか?」
「違います、我々の世界でのこと、魔法使いの世界。私を始め、貴方の両親の生きる世界でのことですよ」
「またそれか……」
「……さっきから何を言っているの?」
ロッカーソンの信じがたい会話に頭を抱えたエメの横で、ほのかが首を傾げている。
何も知らない2人に、ロッカーソンは我慢の限界を迎えてしまった。
「事情は分かりました。これだからマグル生まれやマグル育ちの魔法使いと話しをするのは嫌なんですよ」
その後に続いた一言の罵倒のセリフで、屋敷内が静まり返った。
まるで時間の流れが止まってしまったのではと錯覚する程に、エメの怒りが充満した緊迫とした空気に変わる。
しかし、気が付かなかったロッカーソンはそのまま言葉を続ける。
「俺らが……何だって?」
「魔法使いです。しかもアカデミーでキチンと学んで、訓練さえ受ければ、そこらにいる有象無象の魔法使いなんかよりずっと凄くなりますよ。誰もが認める偉大なる魔法使いの一人……なにせ、英国で上から3番目に入る純血の家系の父親と万能の天才と言われた母親の間に生まれた子供なんですから。さて、手紙を読むときが来たようですね」
「……ん」
ふみは読み終わったようで、差し出された手紙を、今度はエメが読む。
内容は魔法の事をうっかり忘れていたということと、詳しいことや細かいことはロッカーソン・ヴェガという人に聞けということだった。脱線や雑談などが手紙の八割を占めていた為、2枚目に来年ほのかとふみも魔法学校に行くという事が、3枚目にその他の案件が書かれてようやく手紙が終わった。
「事の起こりは数十年前の英国、一人の魔法使いが強大な力を付けていった事から始まりました。その者は類まれなる魔法の才能を有していたのですが、過激な思想故に道を踏み外しました。その力を悪用し、自らに忠誠を誓う仲間を引き連れ、英国の魔法界を支配していったのです。無論、それに立ち向かう者たちもいたが……誰も彼もが殺され、まさに暗黒時代の始まりと呼ぶような時期だったのでしょう。
そして貴方の両親は、『あの人』の配下の中でも一番を争う程に優れた――魔法に愛された魔法使いと魔女でした。結局、『あの人』を守る為、貴方の母は死に、忠誠故に父はアズカバンに収容されていますが──当時、英国程ではありませんが、仏国やその他の国も多くの被害を出したのですよ?」
エメの服の袖を引いて、ふみが声をかける。
「……行くべき」
「一年間俺がいないのに大丈夫か?」
「……ん。……向こうにも、拠点を……作るべき」
ふみとエメの会話を聞いていたロッカーソンが、それを聞いて手を打つ。
「大丈夫ですよ。仏国のマグルの地には貴方の母の実家が、英国の魔法界には貴方の両親の家が今も保存されているらしいですから」
……意外な事実が発覚した。
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