地獄に落ちようとも
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第一章
地獄に落ちようとも
ナポリのサンディアナ教会が運営しているサンディアナ孤児院には多くの親のいない子供達がいる、古い孤児院であり。
そこに多くの子供達が幸せに暮らしている、彼等にとって親は教会、孤児院を預かっているサレルモ=グラチアーノ神父だ。
その神父についてだ、彼等は口々に言った。
「あんな素晴らしい人いないよ」
「とても優しくて公平で」
「僕達のことをいつも考えてくれて」
「大切にしてくれてね」
「本当に僕達のお父さんだよ」
「心から尊敬しているから」
本当にというのだ。
「だからね」
「あの人のことを悪く言ったら許さないから」
「本当の意味で神様にお仕えしていてね」
「心清らかな方で」
「神様も喜んでくれているよ」
「あんな素晴らしい人がこの世にいて」
「まさに奇跡だよ」
神父のその存在自体がというのだ、それで。
彼等は神父を心から慕いそうしてだった、誰もが彼に感謝していた。
だが、だ。それでもだった。
ナポリのタブロイド紙であるゲンダイアーノ=フジ紙のヤクザーノ=エジリアーノはまさにならず者の笑みでだ、同僚達にこう言った。
「ああした聖者ぶった奴がな」
「そういう奴がか」
「嫌いだっていうだな」
「ああ、反吐が出るぜ」
こう言うのだった。
「俺はな、だからな」
「あの神父さんの素顔を暴く」
「そう言うんだな」
「ああした奴こそな」
まさにというのだ。
「実際は碌でもない奴なんだよ」
「御前いつもそう言うな」
「評判のいい人程って」
「俺を見ろよ」
その下卑た笑みでだ、エジリアーノは下品な動作で酒を無造作に飲み口をその咀嚼する音を大きく立てて噛んでいるものを丸出しにしつつ言うのだった。
「ガキの頃からな」
「嫌われてたってな」
「いつも言ってるな」
「そうさ、とにかく嫌われまくっていたさ」
こう言うのだった。
「底意地悪いだの弱い者いじめするだの強い相手には諂うだの金に汚いだの告げ口するだの言われてきたさ」
「実際に今もそうしてるだろ」
「御前の記事読者から評判悪いぜ」
「権力者には媚びて弱者を悪く書いてるってな」
「権力者のプロパガンダだってな」
「この前読者が電話で怒鳴り込んできたらだろ」
同僚達も嫌悪を出して彼に言った。
「実際俺達もな」
「こうして飲んでいてもな」
「御前好きになれないぜ」
「はっきり言って御前がこの店の親父の浮気掴んでてツケさせてないとな」
「御前となんか飲まないぜ」
「とてもな」
嫌っているからである。
「若い娘にすぐセクハラするしな」
「ヤクザとかにはへこへこしてな」
「若手の記者こき使っていびり倒してな」
「碌に取材せずに記事書いたりとかな」
「御前みたいな奴ってな」
「誰も好きにならないからな」
「金になればいいんだよ」
だがエジリアーノは下品な声で笑いつつこう返すだけだった。
「それこそな」
「金になればか」
「それでか」
「いいのかよ」
「どんな嘘の記事を書いても」
「嘘を書いても読まれれば金になるだろ」
これがエジリアーノの持論だった。
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