扇の香り
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第一章
扇の香り
爛熟の極み、その頃のフランスはその中にあった。
特に王宮であるベルサイユ宮殿ではそうだった、夜ごと舞踏会等様々な宴が行われ。
貴族達がその中にいた、王宮にいる殆どの者が美食と美酒、芸術と美男美女に囲まれていた。その中において。
ミシェル=ド=オーセル男爵は王宮の中で知り合った友人達にだ、ワインをグラスで一口飲んでから言った。
「ここにいますと」
「この世ではない様な」
「そうした感じがするというのですね」
「はい、領地にいる時とは違い」
男爵の領地はごく普通の田舎だ、貧しくはないが豊かでもない。有り触れた田舎だ。
そこから父の跡を継いで爵位を得てから王宮で役目を貰い入ったがだ、そこがなのだ。
「全く以て」
「ここはですね」
「非常にですね」
「華やかで」
そして、というのだ。
「料理もワインも音楽も」
「まさに何もかもが」
「夢の様ですね」
「この宮殿自体も」
ベルサイユ宮殿そのものもというのだ。
「様々な意趣の装飾で飾られ」
「華やかですね」
「流石は我がフランスの王宮です」
「ブルボン家の」
「まさにそうですね」
「はい、この王宮は」
まさにと言う男爵だった。
「私がこれまで知らなかった世界です」
「私もです」
貴族の一人が男爵に笑顔で答えた、彼等の誰もが色とりどりの装飾で飾られた見事な絹の服も着ている、当然男爵もだ。
その装飾の豊かな服も来てだ、その帰属は言うのだった。
「まさにこれこそが真の楽しみです」
「真のですね」
「この楽しみを知らない者は不幸です」
この貴族はこうまで言うのだった。
「このタレーランはそう思います」
「タレーラン卿はここを楽しいと言われますね」
「心から」
微笑みだ、タレーランは男爵に答えた。
「そう思います」
「確かに卿はいつもですね」
「美食と美酒を楽しんでいます」
「そして女性も」
「女性をどう楽しむか」
タレーランは男爵の言葉に応えてだ、微笑みのままこうも言った。
「それがわからなくてはです」
「意味がありませんか」
「生きている意味がありません」
こう男爵に言うのだった。
「何も」
「そう思われるからですね」
「私はこの王宮において美女を楽しんでいるのです」
「多くの女性を」
「宜しければ女性の楽しみ方を教えさせて頂きます」
タレーランは男爵を見つつ笑顔でこうも言った。
「男爵がお望みとあらば」
「女性の楽しみ方も」
「私などのものでよければ」
「そうですか、しかし今は」
「女性はですか」
「その他の楽しみが多くまた凄過ぎて」
それで、というのだ。
「女性までは」
「左様ですか」
「折角の申し出ですが」
それでもだというのだ。
「今は」
「わかりました、しかし」
「女性を楽しめる余裕が出来ればですね」
「是非私にお声をかけて下さい」
タレーランは男爵のまだ幼さが残るがそれでも端整な、鳶色の目が澄んでいて役者の様に整っている顔を見て言った、貴族の髪型、白い鬘のそれも似合っている彼をだ。
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