親孝行
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第一章
親孝行
李香蓮は都で質屋をしている。そのものを見極める目はまだ十代の少女というのに見事でありだ、そのうえだ。
商才もありだ、店は繁盛していた。それは母の桃姫もこう言う程だった。
「あの娘は商売の天才だよ」
「まさにだね」
「そうだね」
「そう、だからあたしはね」
桃姫もというのだ。
「もう楽隠居だよ」
「おいおい、おかみさんまだ三十代だろ」
「三十七で楽隠居かい」
「あの娘はまだ十五だろ?」
「十五の娘に店を任せるのかい」
「あの娘は天才だからね」
それで、というのだ。
「もうあたしの出る幕じゃないよ」
「やれやれだね」
「まああの娘ならね」
「本当にやり手だから」
弱冠十五歳にしてだ。
「お店は繁盛してるし」
「あの娘が出てから売上は倍だろ」
「倍以上になってるだろ」
「売上?三倍になってるよ」
質屋としての身入りはというのだ。
「だからね」
「それじゃあだね」
「おかみさんは隠居して」
「全部香蓮ちゃんに任せて」
「お店を繁盛させてもらうんだね」
「そうしていくよ、まああの娘はね」
ここでだ、桃姫はこう言ったのだった。
「お金稼ぐには理由があるんだよ」
「理由?」
「お店を大きくすることが理由じゃないのかい?」
「金持ちになる為じゃ」
「その為じゃないのかい」
「まだあるんだよ」
そうした理由以外にというのだ。
「あの娘が頑張る理由がね」
「理由?」
「金以外の理由がかい」
「あるんだよ、これがね」
「ふうん、それでか」
「それでだれだけ頑張るのかい、あの娘は」
「そうだよ」
こう笑顔で言いながらだ、桃姫は笑顔で酒を飲むのだった。娘に店を任せているので夕暮れになると飲みに行っているのだ。
それでだ、米の酒を一杯飲んでからだ。こう言ったのだった。
「あの娘はそれで頑張るんだよ」
「その理由は何だい?」
「理由かい」
「ああ、香蓮ちゃんが頑張る理由がな」
それを聞きたいというのだ。
「一体どうしてだい?」
「ああ、それはね」
「それは?」
「言わないよ」
笑ってだ、その彼に言う桃姫だった。
「その理由は」
「言わないのかい」
「ああ、言わないよ」
酒を飲み赤い顔での言葉だった。
「悪いけれどね」
「そこでそう言うのかい」
「そうさ、言えない理由だってあるんだよ」
「理由がさらに理由になるんだな」
「それが世の中だよ、じゃあ飲もうかい」
こう言ってだった、桃姫は周りの飲み仲間連中の突っ込みを肝心なところはかわしつつだった。酒を楽しむのだった。
そして家でもある店に帰るとだ、香蓮は千鳥足で帰って来た母にこう言った。
「お帰り、今日も儲かったね」
「そうだね、全部あんたのお陰だね」
「稼がないとね」
笑って言う香蓮だった、小さく癖のある黒髪を何とかおさげにしている。目は大きく切れ長で目は一重だ。唇は紅で大きく健康的だ、桃色の顔にやや丸い鼻だ。動きやすい身なりが商売人の娘らしかった。その彼女がだ。
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