脆い午後
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第一章
脆い午後
京都駅で二人きり、はじめて来た京都駅はとても広くて。
私も彼も驚いて、苦笑いで話した。
「ここ何処かな」
「京都駅なのは確かだけれどね」
「広いね」
「想像していたよりもね」
「JRがあって近鉄があってね」
「市営の地下鉄もあるわね」
とにかく何処にどの線があるのすらわからなかった。
「それとお店も」
「観光の街だけあるね」
「一杯あるわね」
お店も多かった、土産もののお店ばかりでなく食べもののお店も多い。少し行くと迷路みたいな場所にお店が沢山あって。
しかもすぐ傍に百貨店もある、とにかく何から何まで複雑でわかりにくかった。
けれど今は京都駅を回ることが目的じゃない、それでだった。
私は彼にだ、こう言った。
「今からね」
「うん、デートだね」
「前から計画していたね」
京都での二人きりのデートをはじめようと話してだ、そしてだった。
実際に私達は二人でだ、一緒にだった。
京都駅から地下鉄まで行ってそうして四条まで行った、碁盤の目の様な街に土産もののお店が沢山ある。
その中を歩きつつだ、私は一緒にいる彼に言った。
「四条もね」
「ここもだよね」
「物凄くお店が多くて」
「しかも人が多くてね」
「ちょっと油断したら」
それでとだ、私は心配する顔で言うのだった。
「道に迷いそうね」
「離れ離れになってね」
「だからお互い手を握り合って」
実際にそうしている、二人でだ。
けれどそれだけでは足りないと思ってだ、彼にこうも言った。
「地図もよく見てね」
「そうしないとね」
「本当に道に迷うわ」
「京都って怖いね」
「何か違う世界に来たみたい」
「同じ京都府なのにね」
彼はこうも言った。
「舞鶴とはね」
「舞鶴はね」
私達の住んでいるその街はだ、同じ京都府にあっても。
「山をずっと越えてそこにだけ街があるって感じで」
「自衛隊の人達がいてね」
「道路は碁盤みたいでもね」
「駅が広くないし」
むしろ小さい、京都駅みたいに駅自体が「一つの街みたいにはなっていない。舞鶴駅は本当に小さい駅だ。
そしてだ、街自体も。
「広くなくてしかも人も少なくて」
「こんなに驚く程度じゃないからね」
「静かだから」
「同じ京都府なのかな」
彼は首を傾げさせてこうも言った。
「いや、全然違うじゃない」
「昔は違ったのよね」
「京都は山城でね」
「舞鶴は越前で」
昔の国では違っていた。
「違ったのよね」
「昔はね、けれど今は同じ京都府だからね」
「同じ京都府とは思えないわね」
「全くね」
「それでだけれど」
ここでだ、意を決した顔になってだ。私は彼に言った。
「ここでね」
「うん、前に話していたけれどね」
「行く?」
緊張した面持ちでだ、彼にこうも言った。
「後で」
「そうだね、確かね」
四条の地図を見つつだ、彼も私に言う。
「ここからすぐだからね」
「京都のホテル街は」
そうしたホテルだ、舞鶴は地元なのであっても行ける筈がない。知っている人に見られたらそれこそことだ。
それであえて京都まで来て行こうと話したのだ、それで私はここで意を決した顔になってそのうえで彼に言ったのだ。
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