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dark of exorcist ~穢れた聖職者~

作者:マチェテ
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第28話「誇りを持つ者」

バラデュール家。
フランスの貴族で、代々"異形"を狩る一族だ。

古くは紀元前の悪魔狩りとして活躍し、悪魔の隔離場「シェルター」の開発にも貢献した。
その功績を称えられ、神官から「バラデュール」の名を授かった。
それ以降、15世紀の「正確無比な魔女狩り」、18世紀の「ヴァンパイアハンター」など、裏の
世界で広くその名を轟かせている。
現在はヴィクトワールの出資者(スポンサー)として悪魔狩りを支えている。

そのバラデュール家の出身で、ヴィクトワールに所属している悪魔狩り。
その人物が、シャルル=シモン・バラデュールだ。












―――深夜 2:04


―――【フランス・パリ 凱旋門・展望台】


「種別不明の悪魔の目撃情報が特に多かったのは凱旋門付近……つまりここだ」

シャルルに連れられて、アイリスとクリスが今現在いるのは、深夜の凱旋門の展望台。

「クリス君、見て見て! 夜景がすっごくきれい!」

「本当ですね…ニューヨークもすごかったけど…ここも綺麗です」

パリの夜景にはしゃぐ2人に、シャルルは僅かに笑みを浮かべるが、すぐに無表情に戻る。

「気持ちは分からなくもないが、今はパリの観光が最優先ではない。ここに来たのは種別不明の悪魔
の捜索のためだ。発見次第、速やかに狩ることになる。気を緩めるな」

「すいません……」

「ごめんね、シャルルさん」

素直にシャルルに謝罪すると、シャルルは特に気にしていないといった様子で、2人に周囲を注意深く
見回すよう促す。アイリスとクリスはシャルルの指示に従い、展望台から空を見回す。




「そういえば、シャルルさんって、バラデュール家の方なんですよね?」

クリスが突然、シャルルに問いかける。

「あぁ。それがどうかしたのか?」

「バラデュール家と言えば、悪魔狩りで知らない者がいないほどの名家じゃないですか。そんな
すごい血統を持った人が、なんでこの仕事を引き受けたのかな、と思ったので…」

「バラデュール家の人間なら、もっと高難度な任務を好みそうだ、と言いたいのか?」

「あ…失礼なことを言ってすいません……」

「いや、怒っているわけじゃない。他の悪魔狩りからも似たようなことをよく言われる」





「バラデュール家の血には誇りを持っている。だからと言って、バラデュール家以外を見下したこと
は一度もないし、任務を選り好みしたこともない。名家かどうかは関係ない。悪魔狩りになった時点
で我々は人間の守護者だ。…血筋だけでなく、悪魔狩りであることにも誇りは持つべきだ」


自身の肩書を鼻にかけないその姿勢と、悪魔狩りであることの誇りを持つ心意気。
クリスはシャルルを純粋に尊敬できると、心の底から思った。

「シャルルさんは……すごいです」

「君だって、誇り高い悪魔狩りの一人だ。アイリスだってそうだ」

シャルルの言葉に、クリスは自嘲気味な笑みを見せた。

「僕はそんな大した悪魔狩りじゃないですよ……僕は…アイさんを守れればそれで…」



人間でも悪魔でもない。フォールマンという特異な存在であるクリスにあるのは、誇りではなく
"自己犠牲の精神"だ。
中途半端な自分にできるのは、大切な人の盾になること。
クリスはずっとそう思いながら悪魔狩りを続けていた。


「いいじゃないか、守るために悪魔狩りになるのも。大切な誰かのために戦うのも、立派な悪魔狩り
の資質だ」

「えっ……」

「ただ、自分を犠牲にする姿勢は感心できないな。守りたい人を守って死んでも、その人が本当の
意味で救われたことにはならない。それで死んで満足するのはただの自己満足だ」

そう言い終えると、シャルルはクリスに背を向け、展望台の端まで歩いて行った。

シャルルの言葉に、クリスは納得と同時に、今までの自分の考え方に後悔した。
言われてみれば…というより、少し考えれば分かることだった。
自分の"自己犠牲の精神"を貫いて本当に死んだとしたら。


アイリスはどうなってしまうのか。


その答えは、長年パートナーとしてアイリスに寄り添ってきたクリスなら容易に出せる。

生涯癒えることのない心の傷を刻み込んでしまう。




「(……自分を犠牲にせず、大切な人を守る……僕に、できるかな…)」

















「……! クリス、アイリス! 現れたぞ! 3時の方向だ!」


突然のシャルルの大声に、2人は同時に彼と同じ方角を見た。
”それ”は、深夜のパリの上空に現れた。


赤黒い羽毛で覆われた巨大な鷲の姿が見えた。
暗闇で一際目立つのは、4つの黄色い眼光。
狙った獲物を食い千切る鋸のような牙の生えたクチバシ。
普通の鳥類にはないはずの、鉤爪の付いた長い尾。



「アイリス、あれを見ても背中に乗りたいと言えるか?」

「うぅ~ん……ちょっと怖そう、かな…」

アイリスとシャルルとの会話を聞いていた最中、クリスはただ一人、大鷲を険しい表情で見ていた。
フォールマンの優れた視力によって、大鷲のわずかな変化にも気づくことができた。

黄色い4つの眼がギョロリと動き、こちらを睨んでいる。視線はそこから全くぶれていない。


「まだ距離は遠いですけど、僕たちの存在に気付いたみたいです」

「……見えるのか?」

「はい。あの大鷲、僕らを見つけてから全く視線を逸らしません。完全に獲物を見る眼です」

「…よし、敵意があるという事実があれば十分だ。狩るぞ」


アイリスは腰のホルスターから2丁拳銃を取り出し、クリスは骨が鳴るまで拳を握る。
シャルルはというと、いつの間にか展望台の出入り口まで引き返していた。

「シャルルさん? どうしたの?」

「僕の武器を取ってくる。大きなアタッシュケースに入れてあるから出入り口に置いてきたんだ。
持ち運びに不便でな」

2人が展望台に案内された時、シャルルはそれなりに大きなアタッシュケースを持ってきていた。
あのケースの中に武器を入れていたようだ。

カチッという音が聞こえた。
アタッシュケースが開かれ、クリスは遠目で中身を確認した。

中に入っていたのは、2種類の武器。




「ファルシオン」と「フランシスカ」という武器を知っているだろうか。

「ファルシオン」とは、刀剣の一種で、片刃のナイフを長くした鉈のような外見が特徴の武器。
「フランシスカ」とは、投擲武器として使用される小型の斧。







シャルルはアタッシュケースの中から、ファルシオンとフランシスカ3本を取り出す。

「さて…クリス、一応確認するが、君は本当に素手で十分なのか?」

「はい、フォールマンの腕力は伊達じゃないですよ」

「そうか……アイリス、奴が接近してきたら頭に銃弾を浴びせて怯ませろ。僕もフランシスカを
投げて援護する。目を潰せば叩き落とせるはずだ。ここに引きずり落とした時が、クリスと僕の
出番だ。2人とも、準備は?」

「バッチリだよ!」

「いつでも大丈夫です」

2人の答えにシャルルは静かに頷き、大鷲の方に向き直る。




"フレースヴェルグ"との戦闘が始まった。 
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