富樫
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1部分:第一章
第一章
富樫
彼はだ。その時安宅の関にいた。そこにおいてだ。
周りの者の声を聞いた。まずはであった。
「どうやらまことのようです」
「義経殿はこの加賀を通ってです」
「そのうえで藤原氏のところに向かうようです」
「間違いなく」
「わかった」
それを聞いてだ。彼、富樫衛門はだ。しかとした顔で頷いたのであった。
そしてそのうえでだ。周りの者に対して言うのであった。
「よいな、決して通すな」
「そうですな。頼朝様の御命令です」
「それでは通す訳にはいきませんな」
「そして捕らえたならば」
「鎌倉へ送りましょう」
「無論だ。そうする」
富樫はまた述べた。やはり強い顔になっている。
「義経様は謀反人だからこそな」
「謀反人だからですか」
「それでなのですか」
「頼朝様に弓を引いた」
富樫がここで言うのはこのことだった。
「それでどうして謀反でないといえるのか」
「ですが。それは」
「どうも怪しいのでは」
「そうです。義経様が謀反とは」
「あまり考えられませぬ」
周りの者はここでだ。誰もがだった。
あまり浮かない顔をしてだ。そのうえで富樫に話すのだった。
「むしろ。頼朝様がです」
「義経様を疎みそれでなのではないでしょうか」
「まさかと思いますが」
「それでは」
「言うな」
富樫はそうした周囲の言葉を止めたのだった。そうしてだ。
関所の中を見回す。その中は簡素であり柵に簡単な館がある。そうして彼と彼に仕える者達がいる。そうした場所であった。
その中を見回してからだ。彼はまた言った。
「問題はだ。どうした姿で来るかだ」
「義経様がですね」
「そして仕える者達が」
「どうした姿で来るか」
「そしてそれをどう見破るか」
「それですね」
「そうだ。どんな些細なことも見落とすな」
富樫は彼等に告げた。
「よいな、決してだ」
「わかっております、それではです」
「我等もまた」
「例えどうした細かいこともです」
「見落としません」
こう話してであった。彼等は義経主従を待ち受けるのであった。
そうして待っているうちにやがてだ。関所に山伏の一団が来たのであった。
そのことはだ。館に控えている富樫にも伝えられた。
「山伏か」
「はい、それが来ました」
こうだ。従者の一人が述べるのであった。
「どう思われますか」
「してだ」
ここでだ。富樫はその従者にさらに問うた。
「その山伏は何と言っておる」
「旅をしている理由ですね」
「そうだ。そのことについては何と言っておる」
こう問うのであった。
「それは何とだ」
「東大寺の件で」
それでだというのだ。
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