魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 07 「募りつつある不安」
俺は今機動六課の隊長陣とフォワード、シャマルやザフィーラといったバックヤード陣の代表と共にヘリで移動している。
「ほんなら改めてここまでの流れと今日の任務のおさらいや」
そう言ってはやては、これまで謎だったガシェットドローンの製作者並びにレリックの収集者と思われる人物をスクリーンに映す。
スクリーンに映された人物の名前はジェイル・スカリエッティ。違法研究で広域指名手配中の次元犯罪者である。こいつは前にフェイトが捜査対象にしていたことに加え、生命操作や生体改造、そして精密機械に通じていた人物であるため、ほんのわずかばかりではあるが俺も奴に対して知識を有している。
「今後は違法研究で広域指名手配されているジェイル・スカリエッティの線で捜査を進める」
「こっちの捜査は主に私が進めるんだけど、一応みんなも覚えておいてね」
フェイトの言葉にフォワード達は元気良く返事をする。初めて出動した日と比べると実に落ち着いたものだ。まあ今回は急な任務ではなかったため、前もって心の準備が出来たのも大きいのだろう。
――ただ……ティアナに関しては不安なところだ。
一見落ち着いているように見えるが、スバルのように感情を簡単に表に出すようなことはしない子だ。もし焦燥感を抱いている場合、訓練を開始してからの時間的に考えて最初の山場を迎えている頃だろう。今回の任務で何かしらミスでも犯せば、一気に危険な道に進みかねない。
「……マスター、どうかした?」
「ん? いや別に……」
「そう……考え過ぎても意味がないときはないからね」
あっさりと流してくれたものの、付き合いが長いだけにファラには俺の考えていることは分かっているのかもしれない。
確かにファラの言うとおり、俺が考え過ぎているだけという可能性もある。それに確たる証拠がない今下手に動けば、かえってティアナの精神状態を悪くしかねない。今はまだ見守るしかないだろう。
ジェイル・スカリエッティに関してはその手の専門家であるフェイトに今は任せる他にないため、必然的に話は今日の任務に移ることになる。
リインがスクリーン近くに移動すると、映像が今向かっているホテル・アグスタのものに切り替わる。骨董美術品オークションの会場警護と人員警護、それが今回の任務だそうだ。
なぜ俺達機動六課がそのようなことを行うのかというと、出展されるものの中に取引許可が下りているロストロギアがあるからだ。それ故にレリックと誤認してガシェットが襲撃する可能性が高いのだ。
またこの手の大型オークションは密輸の隠れ蓑になることが多いため、様々な方面に気を配っておかねばならない。
「現場には昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長他数名の隊員が張ってくれてる」
「私達とショウくんは建物の中の警備に回るから、前線は副隊長達の指示に従ってね」
今の心境的には外でティアナを気に掛けておきたいのだが、任務の内容的に内の警備も重要な仕事だ。
シグナムやヴィータの力量はこれまでに何度も手合わせしてきたから知っているし信頼もしている。キャリア的に考えても周囲から実力は認められているはずだ。
そう思えるだけにフォワードのことはシグナム達に任せるべきなのだろう。が、どうにも今日は嫌な気がしてならなかった。なので俺はティアナの所属しているスターズ分隊の副隊長であるヴィータに念話を飛ばす。
『ヴィータ、少しいいか?』
『別に構いはしねぇけど、急にどうしたんだよ? そっちで何かあったのか?』
『いや、今のところは何もない。もうすぐそっちに到着する』
『そうか……ってことは、あたし個人に対する頼み事か?』
見た目は子供でも歴戦の騎士であり、管理局に入ってから10年目を迎えているだけに話が早い。まあ付き合いが長いのが最大の理由な気もするが……理由はどうであれ、理解が早いことはこちらにとっても良いことだ。
『ああ……ティアナのこと少し気に掛けといてくれないか?』
『ティアナ? 分かった』
『……こっちとしてはありがたいことだが、理由も聞かずに承諾してくれるんだな』
『あたしはスターズの副隊長だかんな。あいつらの面倒見んのも仕事だ。それにお前は途中から参加したあたしよりもあいつらと接してる。気にしといて損なことはねぇ』
今言ったことも理由ではあるのだろうが、ヴィータ自身フォワード達のことを常に気に掛けているのだろう。
昔から不器用ではあるが思いやりのある奴だからなヴィータは。
こういうことを口にすると照れ隠しで怒鳴ってくるし、今は和んでいい状況でもないだけに返す言葉は感謝の言葉だけにしておいた。
そうこうしているうちにホテル・アグスタに到着。俺やはやて達は内部の警護を行うため、シャマルが用意していた衣装に着替える。
あまり人前に出る仕事はしていなかったし、堅苦しい格好をするのは苦手なほうだ。まあ女性陣に比べればスーツに着替えるだけなので、普段着ている制服の色違いを着ているようなものなのだが。
「マスター、もたもたしてると怒られるよ」
「分かってる。というか、お前はかばんの中で大人しくしてろ」
外側の警護ならば制服なのでファラを連れていてもいいのだが、スーツ姿で連れて回ると確実に目立つ。人型のデバイスも日に日に増えつつあるようだが、やはりアクセサリー型のほうが携帯に便利だ。それにコスト的にもアクセサリー型が中心になってしまうのは仕方がない。
初期の頃のファラならよかったのだが、アウトフレーム機構といったシステムを搭載……も理由ではあるが、セイやリインより小さいのが嫌だという彼女の想いもあってポケットに入れるには大きすぎる背丈になってしまった。なのでかばんに入ってもらうしかないのだ。
準備を終えた俺はかばんを手に持って待ち合わせ場所に向かう。そこにはまだ誰も来ていなかったが、数分もせずに後ろから声を掛けられた。
「ごめん、お待たせや」
立っていたのは見事にドレスアップしたはやて達だ。
なのははいつもはサイドポニーにしている髪を下ろしている。昔から似てはいると思っていたが、やはり髪を下ろした彼女は桃子さんにそっくりだ。さすがは親子といったところか。
はやては逆に髪を結んでいる。なのはやフェイトほど髪を伸ばしていない彼女は基本的に髪を結んだりしない。それだけに新鮮に思えた。フェイトは髪型はいつもどおりだが、彼女の長い金髪は下ろしているほうが栄えて見える。髪型は弄る必要はないだろう。
それにしても……この手の衣装を前に見たのはクロノとエイミィの結婚式だっただろうか。ただあれから数年経っているだけに彼女達はより女性らしくなっている。それだけに思わず見惚れてしまった。
しかし、任務で来ていることが幸いし俺の意識は一瞬にして平常時のものに入れ替わる。
別にそれほど待っていなかったので、それが伝わるように返事をする。警備をするためにも受付を済ませなければならないので歩き出そうとするとはやてに呼び止められる。
「ちょっとショウくん」
「何だよ?」
「仕事熱心なのはええことやけど、一言くらい何か言ってくれてもええんやないの?」
……こいつは何を言っているのだろうか。
いやまあ確かにマナーというか礼儀として何かしら言ったほうがいいのかもしれないが、俺達は今仕事でここに来ているわけで私用で来ているわけではない。
部隊長がそんなんでいいのか、とも思ったりもするが、受付にはオークションに来た客が並んでいる。割って入るわけにもいかないため、俺達の番が来るのに時間があるのも事実だ。周囲に客だと思わせるための話題提供だとも考えるだけに反応に困る。
「はやてちゃん、ちゃんと似合ってるから大丈夫だよ。だから今はお仕事に集中」
「それはちゃんと分かっとるよ。ただショウくんは今回私の相手役やからな。おかしなところがあったらショウくんにも悪いやろ。そのための確認や」
「え、そうなの?」
声を発したのはフェイトだけだったが、なのはの顔にも彼女と同じ疑問の色が見て取れる。ちなみに俺も初耳に近いが、長年の付き合いとスーツが俺の分しか用意されていなかったことから何となく予想は付いていた。
部隊長だから忙しいのは分かるけど、ここに来るまでに伝える時間はあった気がするんだがな。別に仕事でそう振る舞うだけなら、なのは達に変な疑いも持たれないだろうし。こういうやり方のほうが逆に疑いを持たれるだろう。
「ほら、若い女がひとりだけってのもあれやろ?」
「それはまあそうだけど……だったら私やフェイトちゃんの相手も用意するべきなんじゃないかな」
「それはそうなんやけど、ショウくんは何かあったら外の応援に行ってもらおうと思ってるから居って居らんようなもんやし」
だったら最初から外の警備に回してよかったんじゃないのか。正直お前ら3人居るだけでも十分な戦力なんだから。
「別になのはちゃんかフェイトちゃんがショウくんと一緒でもええよ」
「え、いや、それは……その」
「こっちとしてはその手の準備はしてなかったわけだから、いきなり言われても困るんだけど……まあはやてちゃんは上から急な連絡が入ったりもするかもしれない立場だし、その際の穴を埋めるためにもショウくんと居たほうが良いだろうね」
「というか、元々今なのはが言ったような理由で相手役にしたんじゃないのか? 受付までの時間潰しであんな言い回しをしたような気もするし」
俺の発言にはやては笑いながら本音を見抜かれたことを認めた。彼女が言うには部隊長として緊張を解そうとしたらしいが、俺やなのは達は生きてきた年月の半分以上の時間を管理局員として過ごしている。
そのため経験はそれなりにあるのだから極度に緊張したりしているわけがない。今のような行動をされると、逆に気が緩みすぎる可能性の方が高いくらいだ。
ただ……これまでのはやての動きや仕事量などを考えるとストレスの類は俺達の比ではないほど感じてきたはずだ。彼女の気が少しでも休まっているのならば、これくらいのことは認めるべきかもしれない。
「あっ、次私達の番みたいだよ」
「後ろにまだお客さんもいるみたいだから急いだほうがいいね」
「そうやな。みんな、気を引き締めて行こか」
「……ふざけてた奴が言ってもな」
「ショウくん、こういうときは野暮なことは言わないもんや」
「はいはい、了解しましたよ八神部隊長」
お気楽な会話をしてはいるが、やはり胸の中にある不安は消えてはくれない。むしろ時間と共に募っていくばかりだ。
例えガシェットが襲ってきても戦力的には充分に任務を達成できるはずだ。ティアナのこともヴィータに頼んでいる……だが嫌な予感がしてならない。
何も起きなければいいのだが……。
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