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ミョッルニル

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2部分:第二章


第二章

「行くんだな」
「うむ、行こうぞ」
 はっきりと頷いてみせた。完全に決意していた。
「是非共な」
「わかった。ではわしも行こうぞ」
 ロキもまた名乗り出るのだった。
「同行を呼ぶなとは言っていないしな」
「むっ、確かにそうだな」
「では問題はあるまい」
「確かに」
 トールは今度はロキの言葉に鷹揚に頷いた。
「では頼むぞ」
「わしは杖を持って行こう」
「杖をか」
「御前は何も持って行ってはならぬがわしは違う」
 ロキは巧みに相手の言葉の盲点を突いたのだった。
「だからだ。わしはいいのだ」
「用心の為か」
「その通りだ。わしが持って行ってはならんとあるしな。そしてここでだ」
「ここで?今度は何だ」
「御前の従者のシャールヴィも連れて行け」
 ロキはこう献策したのだった。
「用心の為にもな」
「用心用心と五月蝿い男だな」
 トールはロキの言葉を聞いてその大きな目を顰めさせた。見ればその大きな目からは常に雷が放たれている。流石は雷神であるといったところか。
「全く御前は」
「巨人は馬鹿にはできん」
 しかしロキはトールのそのいぶかしみを嗜めてきた。真面目な顔で。
「魔術もかなり使えるのだ。御前と違ってな」
「ふん、痛いところを言う」
 実はトールは魔術は不得手である。元々戦いを好み魔術といったものは小細工と馬鹿にしているのである。だからそれでも主神であり妹フリッグの夫でもあるオーディンとは不仲なのだ。オーディンは魔術を誰よりも得意とする神だからだ。
「確かに俺は魔術は嫌いだからな」
「向こうもそれは知っているさ。だから御前さんが巨人の国に乗り込むとなればだ」
「魔術を駆使してくるか」
「そう、それだ」
 ロキが言うのはそこだった。言葉が強調されてきていた。
「それでだ。魔術についてはわしが見破って対処する」
「ではシャールヴィは連れて行く必要がないぞ」
「だからだ。話は最後まで聞け」
 自分と親身になってトールに対して話すロキであった。
「巨人共が得意なのは魔術だけではないぞ」
「ふむ」
「謀略もだ」
 ロキはあえて謀略という言葉を強調してみせたのだった。
「謀略も得意なのだぞ。それはいいのか」
「それなら御前の御家芸だな」
 トールは謀略と聞いてジロリとロキの顔を見据えて言ってみせた。
「違うか?」
「つまりそれもわしで何とかなると言いたいのか」
「俺はそう思うがな」
「だからだ。これもまた用心だ」
 しかしロキも引き下がらない。また随分と親身かつ強くトールに語る。
「シャールヴィは俊敏だし頭の回転も早い。だからな」
「連れて行くべきだというのだな」
「そういうことだ、わかったな」
「まあいいだろう」
 何だかんだでトールも頷くのだった。ロキの言葉に対して。
「それではシャールヴィも連れて行く。三人で乗り込むぞ」
「うむ」
「しかしだ」
 話が決まったところでまた言うトールだった。
「ロキ、御前はまた」
「何だ?」
「何か俺に対して色々と世話を焼いてくれるようだな」
 トールが言うのはそこであった。またいぶかしむ顔になっている。その顔で今自分の目の前にいるロキに対して語るのである。
「またどうしてだ。御前はオーディンと義兄弟だというのに」
「気紛れだ」
 ロキは口の左端を歪めて笑ってみせて述べた。
「気紛れか」
「そうだ。全ては気紛れだ」
 口を歪めさせたまま言葉を続ける。
「わしのな。ただそれだけだ」
「それで俺の力になるのか」
「少なくとも御前は一緒にいて面白い」
 ロキはこうも言うのだった。
「悪意がないからな。だからだ」
「ふん、少なくともオーディンとは違うぞ」
「オーディンはオーディンで面白い奴だ」
 これはさりげなくか計算か。少なくともここでオーディンを庇っているのは事実だった。今度は己の口の右端を歪めさせての言葉である。
「御前とは違った意味でな」
「だからあいつも助けるのか」
「そういうことだ。では行くぞ」
「うむ、ゲイルレズのもとにな」
 こうして二人はシャールヴィを連れて巨人の国に入ることになった。シャールヴィは小柄ながら俊敏で利発な顔立ちをした少年である。目は水色で髪は奇麗な蜂蜜色だ。トールの従者であり彼の信頼する側近でもある。その彼もまたこの旅に加わったのであった。
 
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