少年少女の戦極時代・アフター
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After26 それでもこの道を往く
「またお前に救われたわけか、俺は……っぐ」
無理に起き上がる戒斗を、咲は慌てて支えた。
「無茶すんなよ。全快したわけじゃないんだ」
「この程度の痛み、俺にはどうということ、ないっ。それより」
戒斗は厳しい目つきで紘汰を見上げた。
「葛葉。オーバーマインドはロード・デュークに何かされて自我を取り戻したのか?」
これに対し、意外なことに、紘汰は眉根を寄せて首を横に振った。
「自力で人間としての理性を取り戻したインベスは、オーバーマインドが初めてじゃないんだ。それでもごく少ない数だったから、一人一人説得して、この星で生きるよう頼んできた。でも、今回のことで思い知った。ヒトが故郷に帰りたいって思う気持ちがどれだけ強いか」
ロード・デュークに唆されたとはいえ、オーバーマインドの河守が叫んだように、皆が心のどこかにふるさとへの懐古を抱えている。その懐古が、またオーバーマインドのような事件に繋がるかもしれない。
戒斗の問いは、それを危惧してのものなのだと、やっと咲も合点が行った。
「それでも俺は、俺のやり方を変えない。それにまたロード・デュークみたいな奴が現れても、今度こそ俺自身で止めてみせる。もう地球に迷惑はかけない」
紘汰は力強く拳を握り、宣言した。
――紘汰はこれからも、舞と共に、決して諦めずに試み続けるのだろう。この世界に光を灯すために。
「うん――わかった。でも、タイヘンだと思ったらあたしたち呼んでね。絶対かけつけるから。約束だよ」
「そうですよ。今回みたいに頼りにしてください。だって僕たち、チームじゃないですか」
「咲ちゃん、ミッチ……ああ。約束するよ」
次に紘汰は戒斗を向いた。
「お前はどうする? ここはインベスの惑星だ。お前もここで生きようと思えば生きられる。お前は特別なオーバーロードだから、ヘルヘイムの実を食わなくても生きていけはするけど。周りにバレた時、何かと面倒だろ?」
「戒斗が来たいなら、あたしたち、歓迎するよ」
咲はとっさに戒斗の手を握った。
戒斗が異星に移り住むと言うなら止められないのに、繋ぎ止めずにはいられなかった。
すると驚いたことに、戒斗は咲の手を握り返した。
「俺は地球に帰る。まだ世界を見ていないからな。地球に飽きたら、来てやらんこともない」
紘汰は戒斗を長い間見つめ、そうか、と一言だけ呟いた。
「それじゃみんな地球に転送するぜ。遠い座標だから、着地が雑になったら勘弁な」
紘汰が手をかざした先にクラックが開いた。
春の青空と、どこかの街並みが、穴の向こう側に見える。
「元気でな。これが最後になっても、俺たち、ずっと仲間だぜ」
「地球をお願いね。みんな」
戒斗以外が元気にイエスの返事をした。
――長いようで短かった戦いの終わり。
咲たちはクラックを跨いで地球へ飛び出した。
クラックを越えて帰っていったかつての仲間たちを見送ってから、紘汰は苦笑して溜息をついた。
(未練がましいぞ、俺。どっちが特別かなんて一目瞭然じゃないか)
紘汰には「オトナになれないなんてイヤ」と言ったのに、戒斗には未来を与えてまで生かした。
紘汰には背中を押す言葉をかけたのに、戒斗は引き留めようとした。
「どうしたの、紘汰?」
「いや。戒斗の前途は明るいだろうなあって思ってさ」
「?」
「こっちの話」
閉じたクラックから、青空に顔を向けた。
紘汰と舞は手を繋いだ。
――今度こそ、これから命ある限り、この惑星を守っていこうと、誓って。
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