少年少女の戦極時代・アフター
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After22 鳥なき星のコウモリ ②
『どうして戻ってきたんです! 舞さんの体だって捕まってるのに!』
横にふわりと浮かび寄った舞は、まっすぐ龍玄を見つめた。
「“あの時”のあたしは、ミッチを独りぼっちで置き去りにしちゃった。でも今は、あたしにだって力がある。ミッチを助ける――ううん、ミッチと一緒に戦える力があるんだから」
『舞さん……』
レデュエに囚われていた頃の情けない光実を、舞はこれほど案じてくれていた。異星に紘汰と共に行ってなお、あの時の光実を心の中に留めていてくれた。
「何よりこれは、あたしたちが選択した結果の問題。あたしが背負わなきゃいけないことだから」
龍玄は舞の手を後ろから取った。
『僕も一緒に背負います、舞さん』
仲間は助け合うもの。あの戦いを通して龍玄は、呉島光実はようやくそれを体得した。
自分の中の舞への恋心を措いても、チームメイトだった舞を一人で苦悩させるなど容認できない。
「ありがとう――」
『人が黙ってりゃあ、イチャコラしてんじゃねえぞゴルァ!!』
わん、と放たれた怪音波に対し、舞が前にバリアを張った。そのバリアはすぐヒビが入った。
「やっぱりヘキサちゃんの体じゃ普段の力が出せない……!」
『舞さんは守りに徹してください。攻撃は僕がします』
龍玄は屈み、ブドウ龍砲を撃ってバリアを打ち破り、コウモリインベスに命中させた。
『ぐはっ……このぉ!』
コウモリインベスが翼を広げて飛んでくる。また鉤爪攻撃に出る気だと思い、龍玄は銃を構えたが――
コウモリインベスは鉤爪ではなく足で龍玄の両肩を掴み、高く飛び上がると、その足に力を入れて龍玄の肩を圧迫し始めた。
『ぐっ…っ……ぅ』
両肩を折って戦闘不能にするつもりだと気づいた時には遅かった。
龍玄が暴れれば暴れるほど、コウモリインベスの足は肩に食い込む。
「ミッチ!」
コウモリインベスが腰を180度折って、龍玄の顔を逆さに覗き込んだ。
『どうだ。痛いだろ。けどなあ、俺の心はもっともっと痛かったんだよ! 思い知れ、人間!』
鉤爪が、裂くためでなく、龍玄の首を捉えて絞め始めた。
――この時の龍玄が思ったことは、肩の痛みや呼吸の苦しさではなかった。
奇跡的にブドウ龍砲は手から落ちなかった。
肩を掴まれていても、手は動かすことができる。
龍玄はカッティングブレードを3回切った。
《 ブドウスパーキング 》
拘束に抗いながら上げる腕は力んだことで震えている。
龍玄は酸素欠乏で朦朧とする視界に何とかコウモリインベスを見出し、額に銃口を定めた。
今度は。今度こそは。
『舞さんは、僕が守るッ!!』
喉よ潰れろといわんばかりの怒号を上げ、最大限にエネルギーを撓めた銃のトリガーを、引いた。
ブドウ龍砲から最大のエネルギー弾を受けたコウモリインベスが、舞の目の前で爆散した。
拘束が外れていく中、光実の変身も解けた。
光実が傾いで落ちかけたところを、舞は翔けて行って抱き留めた。
光実の体は冷たかった。
「やっぱりミッチってば、一人で無茶ばっかり。あたしに挽回のチャンスもくれないんだもん」
舞は光実の頭を胸の谷間に抱き寄せた。
舞の本体の心臓は黄金の果実。そのエネルギーを注ぐことで、光実に回復を促す。ヘルヘイム抗体を持つヘキサを経由することで、効果は普段の10分の1にまで落ちたが。
冷えていた光実の体が、短い両腕の中で徐々に温まっていく。
舞はほっとし、一層強く光実を抱き締めた。
“舞さんは、僕が守るッ!!”
「ありがとね。嬉しかったよ。紘汰以外の男の子にあんなこと言われたの、初めてだったから」
舞は光実のまぶたに唇を軽く当てた。ちゅ、と軽いリップ音。
「これはヘキサちゃんの体だから。ここまでで我慢して?」
舞は自身と光実を対象範囲に絞り、先に行った月花のもとへと転位した。
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