魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 04 「新たな力と目覚める竜」
私を含めたフォワードメンバーとスターズ分隊の隊長であるなのはさん。それに特殊魔導技官であるショウさんは山岳を走っているリニアレールに向けてヘリで移動している。
初出動ってことで不安はないとは言えないけど、これまでなのはさんみたいな魔導師になりたくて自分なりに努力してきた。
加えてこの2週間、なのはさん直々の訓練も受けてきたんだ。なのはさんは訓練どおりにやれば大丈夫だって言ってたし、ティア達だっている。マッハキャリバーっていう新しい相棒も出来た。私はひとりじゃない。やれるはずだよね。
そう自分に言い聞かせていると、状況に変化があった。何でも航空型のガシェットがこちらを捕捉したらしい。
航空型……空でも一応戦えなくはないけど、私はなのはさんみたいに自由に空を飛べるわけじゃない。今の実力だときっと足手まといになるだけだ。
「ヴァイスくん、私も出るよ。フェイト隊長とふたりで空を抑える」
「うす、なのはさんお願いします」
メインハッチが開かれたことで中の空気が乱れる。一歩間違えれば落下してしまいそうなものだが、なのはさんの顔色は何ひとつ変わることなく穏やかなままだ。
「じゃあちょっと出てくるけど、みんなも頑張ってズバッとやっつけちゃおう」
なのはさんの力強い言葉に私達は一斉に返事する。が、キャロだけひとり遅れてしまった。
戦闘が目前に迫ったせいか不安な気持ちが強まっている。そんな状態になっているのは、ティア達の顔を見る限り私だけではないようだ。キャロは女の子でまだ小さいんだし、一際緊張や不安を覚えるのは仕方がないと思う。
それを私達以上に敏感に感じ取ったなのはさんは、温かな笑みを浮かべながらキャロに近づくとそっと彼女の両頬に手を添えた。
「キャロ、そんなに緊張しなくても大丈夫。離れてても通信で繋がってる。独りじゃないからピンチのときは助け合えるし、キャロの魔法はみんなを守ってあげられる優しくて強い力なんだから」
なのはさんの言葉にずいぶんとキャロの顔色が変わったように思える。心なしか私の中にあった不安も軽くなった気がする。やっぱりなのはさんの存在や言葉は、私達にとって大きいようだ。
「それにショウくんも居るから。キャロのこと……ううん、キャロだけじゃなくみんなのことちゃんと守ってくれるよ。ね、ショウくん?」
「当たり前だ。こいつらのことは俺に任せて、お前は自分のことに専念しろ」
「うん」
なのはさんは開いているメインハッチから勢い良く飛び出していく。その姿は見ているだけで勇気が湧いてくるほど勇ましかった。
とはいえ、いつまでもなのはさんに意識を向けているわけにはいかない。私達には私達の任務があるのだ。今はそれを成功させることだけを考えないと。
「今回の任務だが目的はふたつ。ひとつはガシェットを1体も逃すことなく全て破壊すること。それとレリックを安全に確保する……でいいんだよなリイン?」
「はい。ですからスターズ分隊とライトニング分隊、2組に分かれて車両の前後からガシェットを殲滅しながら中央に向かうことを提案するです」
「レリックの保管場所が7両目ということを考えれば妥当だな。今の作戦で行こうと思うが異論はないか?」
ショウさんの問いかけに私達は異論はないことを伝える。
するとリイン曹長はくるりと回転しながらバリアジャケットに切り替えると、自分も私達と一緒に降りて管制を手伝うと言ってきた。彼女もやはり新人の私達からすると頼れる上司のひとりであるらしい。
なのはさん達が航空戦力を抑えてくれているおかげで無事に降下ポイントに到着する。ヴァイスさんの激励に近い声を聞きながら、私とティアが先に降下していく。
「行くよマッハキャリバー!」
今日出会ったばかりの相棒を起動してバリアジャケットを纏う。事前に説明されていたとおり、リボルバーナックルも同時展開される。マッハキャリバーも無事に足に装着された。ティアも無事に変身出来たようで私に少し遅れる形で降下している。
スターズ分隊が降下してすぐ、ライトニング分隊のほうも向こう側に着地しているのが見えた。
ふとバリアジャケットを見てみると私達のはなのはさんのものに、エリオ達のはフェイトさんのものに酷似していた。胸の内に生じた疑問をエリオ側に降りたリイン曹長が説明してくれる。どうやらこのへんに隊長陣の意見が組み込まれているらしい。少し癖はあるそうだが高性能な代物だそうだ。
なのはさんと……。
そう思うだけで、しみじみと込み上がってくる感激に自然と顔が緩んでしまう。だが次の瞬間、私は現実に意識を引き戻される。目の前にある人物が着地したからだ。
「スバル、感激してもらえるのは嬉しいことだがあとにしろ」
話しかけてきた落ち着きのあるの低めの声の主は、バリアジャケット姿のショウさん。白を基調としている私達は真逆で真っ黒なバリアジャケットだ。右腕には袖がなかったりして気になりはするが、何より意識を向けられるのは腰周りにある無数の剣だ。
刀身の中に柄を入れ込んだような長剣が一振り。刃の途中にいくつかの溝がある左右対称な長剣が二振り。それらとは刀身の長さは半分ほどしかない短剣が二振り。そして、右手に持たれているファラさんだと思われる肉厚な刀身を持つ両刃の長剣。
双剣といった両手に武器を持って戦う人間がいるのは知っているが、6本も剣を持って戦う人を私は見たことがない。いったいどのようにして戦うのだろうか。
「……来るぞ」
静かに紡がれた直後、目の前の天井部分が歪に変形する。青色の光線が次々と空に向かって放たれたかと思うと、ガシェットが2体顔を出した。
「ティアナ、左やれるか?」
「え、はい、やれます!」
ティアがクロスミラージュを構えると魔力弾が生成される。ガシェットにはAMFがあるので、もちろん多重弾殻でだ。新デバイスの補助のおかげか、ティアの努力の賜物か、これまでで最も早い。
だがそれ以上にショウさんの行動が早かった。剣尖をガシェットに向けたかと思うと、次の瞬間には魔力弾が放たれていたのだ。その魔力弾は敵のAMFをたやすく貫く。ティアが魔力弾を放ったときには、2発目を天井部分に放って内部への進入路を作った。
ショウさんの視線を感じ取った私は、小さく頷き返しながら走り始め、気合の声を出しながら内部へ侵入する。
「うおおぉぉぉッ!」
落下地点にちょうどガシェットが居たため、リボルバーナックルを装備している右腕を思いっきり叩きつけた。木っ端微塵にはできなかったが、行動不能には出来た。私は残骸となったガシェットを掴むと、移動しながら残っている敵に投げつけた。
即座に2体破壊できたけど、敵はまだまだ残っている。あらゆる方向から飛来する光線を避けながら壁側に向かっていると、私の意志を汲み取ったかのようにマッハキャリバーが速度を上げてくれた。壁を走りながら《リボルバーシュート》を放つ。
「え……」
AMFを抜くために思いっきり放ったものの、まさか天井を大きく食い破るとは思いもしなかった。それまでの加速もあって私は空中に舞い上がってしまう。
「おっとっと」
このままじゃ敵から良い的にされる、と思った矢先、空中に魔力で形成された道が出現した。私はそれを走り抜け、原型の状態にある車両に着地する。
「マッハキャリバー……お前ってもしかしてかなり凄い? 加速とかグリップコントロールとか。それにウイングロードまで」
「私はあなたをより強く、より速く走らせるために作り出されましたから」
「……うん、けどマッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょ。だったらちょっと言い替えよう。お前はね、私と一緒に走るために生まれてきたんだよ」
「それは同じ意味のように思えます」
「違うんだよ色々と」
まあ生まれたばかりだからまだ分からないかもしれないけど。
そう思って意識をガシェットに戻そうとすると、マッハキャリバーがぼそりと考えておくと言ってきた。自分のことを理解してくれようとしているんだと思うと自然と嬉しくなる。
「マッハキャリバー、この調子でどんどん行くよ!」
★
わたしはエリオくんと一緒に順調にガシェットを破壊していき、8両目まで進んだ。そこで現れたのは新型の大きなガシェット。わたし達の姿を確認したそれはすぐさま機械の腕を伸ばして攻撃してきた。
わたしはAMFの影響を受けないよう大きく後ろに下がりながら回避して、追撃しようとしてくる腕に向かって魔法を放つ準備をする。
「フリード、ブラストフレア……ファイア!」
フリードから放たれた火球は真っ直ぐガシェットの腕に向かった。だが大型だけあってパワーも装甲も段違いなのか、いとも簡単に跳ね返されてしまう。
エリオくんがストラーダに電気を纏わせながら斬りかかっていく。だけど破壊するどころか、傷ひとつつけることができなかった。直後、ストラーダに刃に纏っていた電気が消滅。距離を取っていたはずのわたしまで魔力が乱される感覚に襲われた。
「これは……」
感覚からしてAMFに間違いない。でもこんな遠くまで届くなんて……これじゃあ上手く魔法が発動できないよ。
魔法が使えないのはエリオくんも同じらしく、生身で大型とガシェットと交戦している。けど体格的にも彼のほうが不利であり、敵のほうが優勢に見える。助けたいと思うけど、わたしの魔法は補助が中心。近接戦闘が出来るわけでもないため、それが封じられている状態では何もできない。
「あの……」
「大丈夫、任せて!」
元気な声が返ってきたけど、攻撃が通らないため防戦を余儀なくされている。
エリオくんは近距離からの光線は見事に回避したけど、着地した瞬間に機械の腕で殴られ壁に打ちつけられた。それを見た時、わたしの脳裏にある記憶が蘇る。
わたしは昔アルザス地方に住んでいた。けれど強い力は災いを呼ぶということで部族を追放され、その後は管理局に保護されて育った。けど竜達の力を制御できなかったため、その恐怖からか優しい言葉を掛けてくれる人はいなかった……あの人が来るまでは。
あの人……フェイトさんと出会ってわたしの人生は変わった。昔のわたしには居ちゃいけない場所があって、しちゃいけないことがあるだけだったけど今は違う。
「うわぁぁぁっ!?」
エリオくんの悲鳴に意識が戻される。車両の天井がこじ開けられたかと思うと、機械の腕に包まれた彼が姿を現し、空高く放り投げられた。
瞬間的に脳裏に走るエリオくんとの日々。出会ったのはほんの2週間ほど前だけど、それでもわたしにとって大切な記憶。
気を失っているのかエリオくんは風に流され落下していく。わたしは、気が付けば彼の名前を呼びながらリニアレールから飛び降りていた。
――守りたい……優しい人達を。わたしに笑いかけてくれる人達を……自分の力で守りたい!
エリオくんの手を掴んだ瞬間、わたしの意志を感じ取ってくれたケリュケイオンが魔法を発動させてくれて落下速度を緩めてくれる。わたしは彼をそっと抱き締めると、近づいてきたフリードに話しかける。
「フリード、不自由な思いをさせてごめん。わたし、ちゃんと制御するから……行くよ竜魂召喚!」
今までは怖くて使おうと思わなかった。
だけど今のわたしには守りたいっていう強い気持ちがある。なのはさんだって、わたしの魔法はみんなを守れる優しくて強い力だって言ってくれた。今ならきっとできる。
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」
巨大な召喚魔法陣に加え、周囲に環状魔法陣が形成されていく。召喚魔法陣から巨大な2つの翼が現れたかと思うと、真の姿になったフリードがわたしの前に姿を現した。
昔みたいに暴走したりしてない。わたしにも出来たんだ……エリオくんを助けることが出来た。
胸を撫で下ろしながらふと下ろしていたまぶたを上げると、抱きかかえていたエリオくんと視線が重なった。自分で何をしていたのか理解したわたしは、すぐさま彼から両手を退けた。恥ずかしさが芽生えてしまっているため、顔が熱くなってしまっている。
「キャロ、よくやった」
第三者の声が聞こえたかと思うと、大きな手に優しく頭を撫でられた。わたしの頭を撫でてくれたのは、優しい笑みを浮かべているショウさんだった。多分わたし達を助けるために飛んできてくれていたのだろう。
ショウさんと出会ったのは機動六課に来てからだ。いつも訓練を見ているので挨拶はすることがあったけど、きちんと話したことはない。
ただわたしは、以前からショウさんのことは知っていた。フェイトさんから話を聞いていたからだ。彼女曰く、ショウさんは不器用な部分もあるけど現実に向き合い続ける優しくて強い人らしい。
「さて……あいつを片付けるか」
ショウさんに釣られるように視線を移すと大型のガシェットが外に出てきていた。さっきまでのわたしじゃどう足掻いても対抗できなかったけど、今はフリードが真の姿を取り戻している。攻撃に関しては段違いの威力だ。
「あの、まずはわたしがやってみていいですか?」
「ん? あぁ、もちろんだ」
「ありがとうございます。……フリード、ブラストレイ!」
先ほどと同様にフリードが火球を形成し放つ。真の姿となったフリードが放つのは小さな火球などではなく炎の砲撃。威力ならAAランクほどの魔導師の砲撃だって負けていないだろう。けれど新型のAMFはこれまでのものより強力なようで抜くことはできなかった。
「気落ちするなよ。あの装甲形状だと砲撃じゃ抜きにくい……俺がやる」
「兄さん、僕とストラーダもやるよ」
ストラーダの形状は槍だから一点突破はしやすい……え、お兄さん?
エリオくんの名前はエリオ・モンディアルだし、ショウさんの名前は夜月翔。どう考えても兄弟ってことにはならない。まさか腹違いの……なんて感じよりかは、エリオくんにとってショウさんがお兄さんみたいな人って考えるのが普通かな。
「確かにキャロの助けがあればエリオでもやれるだろうが、まあ今回は任せてくれ。ちゃんと働かないと隊長達から怒られるから」
えっと……別にやるべきことはちゃんとされているので怒られたりはしないと思うんですけど。むしろ、今の発言で怒られる気が。
「フリード、ちょっと足場にさせてもらうぞ」
ショウさんはフリードの首元に静かに降り立つ。右手に剣を握っているのに、腰にはまだ5つもの剣が存在している。剣を使う魔導師とは聞いたことがあったけど、こんなに使うなんて話は聞いたことがない。
長さとか形状が違うみたいだし、要所要所で使い分けるのかな。
そんなことを考えてすぐ、目の前にあったはずのショウさんの姿が消えた。反射的に彼の姿を探すと、エリオくんを超える凄まじい速度で大型ガシェットに接近して行っているのが見える。
とはいえ、ガシェットは機械でありまた距離も開いていた。人間相手ならろくに行動させずに攻撃出来たかもしれないけど、敵はいくつもの腕やケーブルを使って攻撃してきた。ショウさんは焦る素振りを見せることなく、右手に持った剣を少し引く。
「……え?」
何が起きたのか一瞬理解できなかった。敵の攻撃は様々な方向から一斉に行われていたのだが、その全てが斬り捨てられていたのだ。
ショウさんは車両に着地すると、肩の高さで剣を構え腕を引き絞りながら両足を前後に大きく開く。刀身に魔力が纏ったかと思うと、それは弾けて紅蓮の炎へと変わった。炎は拡散されることなく集束されていく。
「ッ……!」
刹那の静止の後、ショウさんの右腕が消え失せて見えるほどの速さで撃ち出された。
真紅色の輝く刃はAMFが発生していなかったのではないかと思うほど、簡単に装甲を貫く。剣が刺さったと認識した次の瞬間には、真紅色の刃が背中側から現れ、そこからさらに10メートルほど伸びた。
これだけですでに勝負は決まっていたのだろうが、ショウさんはくるりと回転しながら前進すると、横を抜けるようにして一閃。彼が剣を切り払うのとほぼ同時に爆散した。
ショウさんがフリードから離れてからそこに至るまでの掛かった時間はほんのわずかなもの。目で追えない部分もあった。
――ショウさんって隊長達と同じでリミッターが掛かっているはずだよね。……それなのにあんな動きが出来るなんて、フェイトさんが言ってた通り凄い人だ。
わたしと同じような想いを抱いているのか、いやお兄さんと慕っているだけあってわたし以上の想いがあるのか、隣にいるエリオくんは憧れのような眼差しをショウさんに向けている。
それからすぐスターズ分隊が無事にレリックを回収し、ガシェットの殲滅が確認される。スターズ分隊はその後ヘリで中央のラボまでレリックを護送していくことになった。わたし達ライトニング分隊は現場待機となり、現地の局員に引継ぎを行うことになる。
わたしは無事に初出動を終えられたこと、竜使役をちゃんと行えたことが嬉しくてエリオくんと一緒に笑いあう。
そのときチラリとショウさんに意識を向けたんだけど、ショウさんの顔はあまり喜んでいるようには見えなかった。でも引継ぎがまだ終わっていないため、気を緩めていないだけなのだろう。そのようにわたしは思うだけだった。
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