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少年少女の戦極時代・アフター

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After20 残った者がすべきことは

 鎮守の森跡地の神木の前。
 青いレジャーシートを広げたその上で、地球居残り組はささやかなお茶会を催していた。

 それというのも、事情説明に呼ばなかったはずの葛葉晶が鎮守の森跡地にやって来て、事の顛末を知っていた上に、

「不安な未来を想像しながら待ってるより、あの子たちが帰った時に笑顔で迎えてあげられるように、まずは私たちが座って楽しみましょう?」

 と、提案したからだ。

 晶は言うだけあって、レジャーシートとポット、茶菓子を詰めたバスケットを持参していた。


 しばらくは広げたレジャーシートに座って皆々とおしゃべりをしていたザックだが、時間が経つにつれ、どうしてもご神木――正確にはご神木から異星へ向かった戒斗たちが気になった。

 ザックは歓談の輪を抜け、ご神木の前に来て見上げた。

「心配になった?」

 声をかけられ、ふり返るより早く、葛葉晶がザックの横に並んだ。

「大丈夫よ。みんなしっかりした子たちですもの。光実君も咲ちゃんも駆紋君も」
「……なんかすごいっすね、お姉さん」

 晶は頬に手をやって小首を傾げた。ザックよりずっと年上のはずなのに、こういう愛らしい仕草が不思議と似合う人だ。

「いや、なんていうか、俺も結構、戒斗の近くにいた自信あるんすけど、やっぱ不安で。なのにお姉さんは、ミッチはともかく、戒斗や咲のことも信頼してて。すげえなあって」

 この女性と話すにつけ、確かに彼女と葛葉紘汰は姉弟なのだと痛感する。紘汰のあの性格は、晶の薫陶があったからなのだと。

「だってみんな、ウチの紘汰が迷惑かけまくったのに、ずっと一緒にいてくれた子だちですもの」

 晶は明るい笑みを湛えた。

「さ、あなたも。心配なのは分かるけど、今は座って寛ぎましょう。ほらほら」
「あ、は、はい」

 晶に背を押され、ザックはレジャーシートの上に座り直した。




「チャッキー、チャッキー! いつのまにかザックが晶ねーさんといい雰囲気に!」
「分かってるんなら大声出さないのっ。聞こえたらどうすんの。もう~」

 はしゃぐ少年少女を微笑ましく思いつつも、貴虎もまた、レジャーシートには座らず、少し離れた位置に立って空を見上げていた。

「宇宙へ想いを馳せるのは、弟さんと妹さんの無事かしら」

 いつのまにか横に来た凰蓮が茶々を入れるように言った。

「それもある。あと、葛葉たちに、駆紋と室井君。全員が無事でいてくれれば。そう思っている」
「メロンの君は意外と欲張りでらっしゃるのねえ」
「もう取捨選択には飽き飽きしたんだ。望むなら全て望むことにした」

 ウォーターメロンの錠前と、メロンのエナジーロックシードを取り出した。ポケットにはゲネシスコア。どれも今は亡い(はずの)凌馬が造った品だ。
 さらに、戦極ドライバーは、本心ではユグドラシルに関わりたくない技術者たちが、“財団”の後ろ盾を得た上で一台だけという約束で渋々造ってくれた物だ。

(大丈夫。今の俺は多くの人たちの支えがあって、ここにいる。それを忘れなければ、俺はまっすぐ立っていられる。例え地球にオーバーマインドという災厄が降り立っても、挑んでいける)

 貴虎は改めて快晴の空を仰いだ。

(だから安心して、お前はお前の戦いをして来い。光実。そして願わくば――碧沙と元気な姿で帰って来てくれ)

 城乃内がレジャーシートの上で凰蓮を呼んだ。どうやら凰蓮が腕を揮った特製ケーキをどう切り分けるかで助言が欲しいらしい。

 凰蓮が戻ってから、貴虎は一人、再び快晴の空を見上げた。

 ………

 ……

 …

 ロード・バロンとロード・デュークの杖剣と大弓がぶつかり合い、火花を立てた。

『戒斗くん!!』
『いいから行け! 舞と葛葉を助けろ!』
『っ、でも』

 ロード・バロンはロード・デュークの大弓を弾き、確かに、月花を振り返った。


『俺は死なない』


 戒斗はそんなことをするはずないのに、まるで、微笑まれたようで。
 月花は振り切るように地上の戦場に背を向け、龍玄や舞と共にクラックへ飛び込んだ。





 月花たちがクラックへ入ったのを見届けた直後、殺気が膨れ上がった。

 ロード・バロンはすぐさま杖剣を構え、ロード・デュークが放ったソニックアローの弾幕を全て斬り落とした。

『「俺は死なない」ねえ。なかなかカッコイイじゃないか』
『事実を言っただけだ。俺は貴様ごとき贋作には負けないからな』
『――ほう?』
『刃を交えて分かった。貴様は戦極凌馬じゃない』
『では問題。“私”は誰でしょう?』
『知るか。興味もない。だが、あの男と同じくらいに厄介で面倒な敵だということは分かる!』

 ロード・バロンは杖剣を揮った。ロード・デュークは大弓で剣戟を受けつつ、ステップを踏むように衝撃を流して距離を置いた。
 矢を放つ前兆だ。

 ロード・バロンは再びロード・デュークと距離を詰め、下から上に逆袈裟斬りをくり出した。

『おぉっと』

 ロード・デュークはどこまでも余裕で、木の大弓で衝撃を流しながら鍔迫り合いに持ち込んだ。

『かつてキミは強弱に拘っていたね。本当に強い者なら、相手の二手も三手も先を読むくらいはすべきだ』

 ロード・デュークは鍔迫り合いの態勢のままストリングを引き、ゼロ距離からのソニックアローをロード・バロンに見舞った。しくじった、と思う間もなかった。

 鳩尾で爆ぜたソニックアローの衝撃で、ロード・バロンは後ろに吹き飛ばされて片膝を突き、腹を抱えた。

『ちなみに今のは対インベス用の矢だ。覿面に効いたろう?』
『だ、れが…!』

 ロード・バロンは杖剣を支えに再び立ち上がった。

『俺が折れない限り、お前が勝ったことにはならない!』

 ロード・デュークは答えず、数度に渡ってストリングを引いた。

 向かってくるソニックアローを叩き落とそうとして、気づく。この矢はホーミングアローだ。それも、一矢が分裂し、矢の弾幕となってロード・バロンに向かって来る。

 先の対インベス用の矢で動きがにぶった体を、それでも動かし、縦横無尽に襲い来るホーミングアローを掻い潜ろうとした。

 それでも無慈悲に矢は刺さる。
 矢は刺さる。
 矢が、刺さる。

 紘汰や舞でさえ無力化したという謳い文句は正しく、矢が刺さった部位からオーバーロードとしての力が剥がれ落ちて行くのを感じた。
 それはつまり、駆紋戒斗の命が削られていっていることを意味していた。

 武蔵坊弁慶もかくやというほどに全身に矢が刺さってなお、ロード・バロンは屈しなかった。

『そろそろかな』

 パキ、パキ……と、乾いた音を立てて表皮が落ちて行く。
 ロード・バロン(強者)としての自分を保てず、駆紋戒斗(弱者)に戻ってしまう。

 そうなる前に――

 一歩を踏み出す。

『往生際が悪いよ』

 ロード・デュークは再びソニックアローを放ち、その矢はロード・バロンに刺さった。だが、ロード・バロンの歩みは止まらなかった。

 完全に肉薄してはいない距離で足を止め、杖剣を振り被った。

「オオオオオォォッッ!!」



 ――どうしてだろうか。
 ――あいたい、と、無性に、想った。



 杖剣を振り下ろす。赤い衝撃波が生じ、ロード・デュークを袈裟切りにした。

『ば、かな……』

 この男は、知略を巡らせることについて右に出る者はいなかっただろう。それゆえに己を鍛えることを怠った。だからこれは、駆紋戒斗にとって必然の勝利だ。

 ロード・デュークが倒れ、爆散した。

 ――この戦極凌馬に酷似した男が何者か、最期まで彼には分からなかった。


 戒斗は完全に人間の姿に戻りきって仰向けに倒れた。

 刺さった矢は消えたが、削られた生気までは戻ってくれなかったようだ。
 起き上がりたいのに体が痛みで言うことを聞かない。

(まだ、だ。咲と光実が舞たちを救いに行っている。俺が出口を用意しなければ……)

 思えば思うほど、動かせない体が憎らしかった。

 意識が霞んでいく中で、それでも戒斗は大樹に手を伸ばし―――― 
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