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美しき異形達

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第四十八話 薊の師その十六

「妖怪が出るっていう山もあるし」
「それ和歌山との境の」
「前にも言ったわよね」
「ああ、十二月二十日に出るっていう」
 菊もその話を思い出して言う。
「その妖怪よね」
「本当にいるかどうかわからないけれど」
「それでもそうした話があるのね」
「普段は封じ込められているの」
 とある高僧にそうされたという、この話も真実かどうかわからない。
「それが多分旧暦だけれど」
「十二月二十日には」
「その封印が弱まってね」
「出て来るのね」
「それでその日に山に入った人を襲うらしいのよ」
「ううん、やばい話ね」
「そもそも妖怪が出る位深いのね」
 向日葵はこう解釈した、裕香のその話を。
「裕香ちゃんのいたところも」
「だから帰りにくいから」
「奈良県行くのは楽だけれど」
 それでもというのだ。
「それはあくまで北の話だから」
「南は深い山奥で」
「行けないのよ」
「そうなのね、そういう話まで聞いたら」
 ここで菫も言う。
「行きたいとも思うけれど」
「相当辛いわよ」
 行くことさえというのだ。
「それで行っても何もないから」
「何もなのね」
「そう、面白くも何ともないわよ」
「じゃあ遠慮するわ」
 ここまで聞いてまた言った菫だった、そうした話をしつつ九人で線路やその周りを見ていた。しかしここで不意にだった。 
 最初は菖蒲だった、その目を鋭くさせて仲間達に言った。
「いいタイミングと言うべきかしら」
「ったく、無粋だよな」 
 薊は苦い顔で菖蒲に応えた。
「昔の思い出に浸っていてもな」
「出て来るとは」
「ああ、面倒な奴等だよ」
「私達の居場所は完全にわかってるのね」
「だよな、面倒だよ」
「けれど出て来るのなら」
「やるしかないからな」 
 薊は菖蒲に強い声で応えた、そしてだった。
 まずは薊がその手に棒を出した、それと共にだった。
 鈴蘭もその手に自身の武器である日本刀を出していた、それから。
 あらためてだ、こう言ったのだった。
「それではね」
「鈴蘭ちゃんがやるのかよ」
「そうしたくなったから」
 それでというのだ。
「戦わせてもらうわ」
「そうか、じゃあな」
「薊ちゃんも戦うのね」
「だから出したんだよ」
 その棒をというのだ。
「こうしてな」
「そうね。それじゃあ」
「やるか」
「二人でね」
「こっちの準備は出来たぜ」
 薊は鈴蘭と話してからあらためてだった、今度は相手に言った。
「出て来いよ」
「聞いた通りね、勘がいいわね」
「それとも察知する力が強いのかしら」
「どっちもだよ」
 これが声の主達への返事だった。
「あたし達はな」
「そう、じゃあね」
「やりましょう」
 こう話してだ、そのうえで。
 怪人達も姿を現した、それは。
 一体は薔薇の怪人だった、赤い薔薇と人の顔がそのまま重なっている。身体は碧でところどころに薔薇の刺がある蔦が絡まっている。
 そしてもう一体は草と人が重なってだった、そのうえで。
 身体の各部にハエトリソウの葉がある、その二体の怪人達がだ。
 薊達の前に出て来てだ、こう言って来た。
「ここでならと思ってね」
「待っていたけれど」
「読み通りだったわね」
「懐かしの場所にね」
「まあな、人気もないしな」
 それならとだ、薊も応えて言う。
「戦う場所だよな」
「そのこともあってね」
「待っていたのよ」
「今回は待ち伏せか、それなりに考えてるんだな」
「あら、酷評ね」
「それなりだなんて」
 怪人達は薊の言葉に今度は軽く返した。
「これでも貴女の考えを読んで待ち伏せしたのに」
「それなりとは厳しいわね」
「別に厳しくてもいいだろ、どっちにしても戦うんだからな」
 それならと返す薊だった。
「違うかかい?」
「そうね、じゃあ」
「話はこれ位にして」
「戦いましょう」
「それじゃあ」
 こうしたことを話してだ、そしてだった。
 薊は薔薇の怪人と対峙した、鈴蘭はハエトリソウの怪人とだ。そのうえでこの線路跡での戦いをはじめるのだった。


第四十八話   完


                              2015・2・1 
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